アンデットとは、通常死体を元に作る。
 だが、死体じゃないものに霊を寄り付かせた例もそう珍しいことではない。
 主に軍事用に。ごつい石人形に詰めて。あるいは、死体ではなく綺麗な人形に霊を詰めこんで、性の対象としても。
 だから、仕方ないことである。
 僕が周囲に思われているのは。コレとやることやってむしろそのために作ったんだな女がいな過ぎて。とか思われてるのは。
 仕方ないことなのだ、残念なことに。

その後の話

「どうしたの、テオ。また難しい顔して」
「……別に。なんでもないさ」
 仕方ないのだが。なんでこんなののためにそんなことまでしたんだろう。変態呼ばわりは多少へこむ。
 …理由はわかっているが、言葉にはしたくない。
 背中にのしかかる重さに顔をしかめて、膝をたたく。
 なにやら嬉し気に笑うヴィオリナは、ととと膝の上に腰を降ろした。
「ふ。あなたもちょっとは素直にわたしに甘えるようになって。とても結構だわ」
「耳元でぼそぼそと気色悪い。こっちの方が楽だ」
「素直じゃないわね」
「うるさい」
 うんざりとした気持ちでそう言った。
 するときゃらきゃらと能天気な笑い声が響いて―――でも、それだけだ。
「…どうか、したのか」
「あのね、テオ。わたし、あなたに確かめなきゃいけないことがあるの」
 ちらりと振り返った彼女の深刻な顔に、嫌な動機を感じる。
「…体の調子が悪いのか?」
「…いえ。体の具合が悪いのか、って気にしてるのよ」
「は?」
「…やっぱりゾンビよりサッキュバス抱く方がいいんじゃないのって話」
 …それは今更真面目な顔で聞くようなことだろうか。
 そんな思いつめた顔で聞くことなのだろうか。
 ……こいつにとってはそうなのだろうか。僕としては割とどうでもいいことだが。
 だが…
「…なぜいきなりそう思った」
「難しい顔してるから。そうかな、って」
「お前の中に難しい顔している理由ってそれだけなのか」
「重要なことでしょ!?」
 確かに重要なのことかもしれないが。どちらにしろアブノーマルだ。後戻りできない感じだ。
 …第一。
「比べるも何も。僕は結局サッキュバスのお前を抱いていない」
「それでもよ」
「…そんなことを言われても」
「いわれても、じゃなくて! ちゃんと考えてよ!」
 それはそんなに身を乗り出してまで聞くことか。あんまり首曲げるな。もげたら嫌だ。
 …とか言っても無駄そうだから、正直な言葉を告げておく。
「……不満は特にない」
「ホント?」
「お前なにかを期待なんてしていない。それでどうやって不満を持つ」
「ひどい言いぐさね、ホント」
「……お前こそないのか」
「え?」
「お前こそあるだろう? 僕になにがしの不満の一つや二つ。…言え。この際だ」
「え?」
 え、じゃないだろうに。
 別にお前はあのままでよかっただろうに、無理やり僕の都合に合わせるはめになったんだ。、さぞや―――
「ど下手で遅漏」
 後悔とかあるだろうからどんな恨み言でも聞こうと思った僕の決意を返せ。
「……テオ?」
「……」
「泣いてる?」
「こんな馬鹿なことで泣くか。
 …そんな馬鹿なことを言われるとは思わなかったんだよ!」
「なによっ! この流れでは自然でしょ!?」
「そうかもしれないがな! だがな! お前は…!」
 別に、夢魔もアンデットも対して変わらない。
 けれど―――夢魔をやっていたならば。
 こいつは自由に、楽し気だったのに。
 ないのか不安。
 ないわけないだろ。
 僕がお前に渡せるものは、碌な感覚すら通っていない、不確かで歪な体だというのに。
「…ちょっと、ホントに泣くことないでしょ。下手な方はうまくなるまで付き合うし」
 …だというのに気にするのはそこか。そこなのか。この女は。畜生。
「泣いてない」
「泣いてるじゃない」
「こんな馬鹿な女に引っかかったわが身を嘆いているだけだ」
「なによそれ! いい女の間違いでしょ」
 ああ、本当に。
 本当に、うるさくて…たまらない。

 たまらないんだ、本当に。

目次

2016/09/09