ヘタレすぎて戸惑う。

 旅をして、朝の生まれた場所とやらにたどり着いた。
 旅をして、得た従者がいる。
 仕えている、というよりは、傍にいてくれる者たちの、一番最初。
 私のとっても大切な相棒は――――…
 …なんていうか…
「へたれ、なんじゃないだろうか。メー君って」
「かなたお前真っ直ぐな目で何言ってるの!?」
「いやだって。…だってさあ! 君なんだかんだで私の言うこと聞いてくれるし、緋那に弱いし、磨智にも弱いし…
 こ、これは本とかによく出てくるへたれなんじゃないかな、って心配になったんだよ!?」
「余計な世話だよぼけマスター!」
 そこでめちゃくちゃ叫ぶけど、私の肩を掴む手にちっとも力が入っていない辺りも、へたれなんじゃないかな。…いや、これは優しさかな。
「…じゃあ心配しなくてもいいの? 君がへたれをこじらせ色々なものを逃し、思いつめて死んだりしないと…」
「お前…たまに意味不明にすっげえネガティブになるな…」
 むう。本当に心配しているというのに。何その嫌そうな顔。
 本当何でも顔にでる奴だな。わかりやすいったらないよ。
「…まあ、私ネガティブさはおいといて。君は、自分がへたれじゃない、って無謀にも主張するんだ?」
「主張つーか、悪口いわれたから言い返してるだけだよ、俺」
「でも、基本的に緋那ちゃんに怒られると勝てないよね」
「そ、それは…食い物つまんだ俺がわりぃし…」
「磨智ちゃんにさ、ドラテンで負けたのからかわれてる時とか他も色々…まあ、ともかくからかわれてるとき。結局いい負かされてる、よね?」
「それは……ほら、あいつ、…無駄に口まわるじゃん」
 …ああ、メー君。
 メー君。メー君。私のとっても大事なドラゴン。
 こういう話題で目が泳ぎまくるところが、あらん限りにへたれな感じ。
 へたれ、っていうか。勝てない自分に気付いている感じ。
「……ああ……私の相棒はこんなんで大丈夫なのかな……やっぱり心配…」
「勝手に話題をふって勝手にへこむなよ!」
「だって心配なんだよ! 戸惑うんだよ!」
「なんでこの流れで俺が非難される流れだー!?」
 きゃいきゃいと言い返してくるメーは、でもやっぱり決してそれ以上に強い言葉を使うこともなく、私を言い負かそうという気合もあんまり感じませんでした。
 …や、やっぱり、へたれじゃ…ないのかなあ。

 ふう、と溜息がでる。
 …でも………
 …まあ、いいか。今はまだ、困っているようでも…ないんだし…ねえ。



ぶっちゃけ取り扱い注意。

 ある日、磨智がごきげんだった。
 長い髪を編みこんで、リボンで飾って、嬉しそうだった。
 そっか、おしゃれするのが楽しいのねえ。可愛いなあ。女の子はいいなあ。自分も女? うん、でも自分をかわいいなんて言ったらきもいじゃない。
 まあ、ともかくその日、磨智はとってもご機嫌だったのだ。
 だ、けれども。
「なに面白い髪してんの? 寝癖隠し?」
 興味なさげな顔でなんでそんなことをいってしまうんだ。メー。
 興味がないならせめて黙っていればいいものを。メー。
 勿論怒った磨智ちゃんがブレスで埋めたけど今生きているかしら。メー。
 ブレスが山のように庭につもってるんだけど家の庭だいじょうぶかしら。
 つーか何度磨智をおこらせれば気が済むの、メー。
「…まあ、君のことは忘れない…」
「マスター。人聞き悪い」
 まるで私がメー君をなきものにしたみたいじゃない。
 言ってぷっくりふくれる磨智は、かわいいけど目が笑ってない。…よっぽど腹立ったのね。
 …そうだな。…腹立つか、あんなこと、いわれたら。
「メー君頑丈だし。いざとなりゃ召喚石にひっこんで、またこっちにでてくればいいだけ。…心配することないもん」
「まあ、そうだねえ…」
 …むしろ心配すべきはこのこの気持ちってやつなんだろうなあ。…まあ、怒らせたことはわかって、気まずいから。黙って埋められたのかな、メーも。
 …ほんと、取扱注意だよね、もはや。
 乙女心を傷つける凶器的な意味で。
 まだぷりぷりした磨智は、とんとんと階段をのぼっていく。
 緋那辺りにみせにいくんだろう、気分直しに。

 …ちなみにその後、砂まみれでもどってきたメー君は。
 磨智の好きな店のクッキーをもって、平謝りだったことを。ちんまりと追記しておく。
 …ヘタレにも名誉はあるものね?



放っておけないタイプ。

 ある日、ドラゴンテンペストをしたメーはぼろぼろになってきた。
「んもー。お馬鹿さんだね」
 そんなメーの怪我の面倒を見る磨智は、優しいのだろう。
 先日大喧嘩したというのに、とっても優しい。
「なんか消毒液ぐりぐりされてるメーが声もうめいているけど、優しいよ」
「そう、私超優しい」
「どこがだ性悪!?」
 うっすらと涙をさえにじませたメーが磨智の傍からしゅびっと離れた。
 …元気ならよかったというやつである。
「お前…超回復つかえるよな!? 龍同士かけられるよな!? なのになんでわざわざこんなことするんだよ!」
「やっだメー君。そういう油断してると傷直してる時菌はいってどうしよもないんだから。龍だからって油断しちゃ、駄目なんだよ?」
「ほんとにそれが理由か!? んないい笑顔で、それは本当なのか!?」
 ああ、またきゃんきゃんと吠えて。いいまかされるのがわからないのかしら。
 なんて思うけど、つっこまない。
 磨智がとっても楽しそうに笑っているから、邪魔しちゃいけなそう、っていうか。ねえ?
「…ううん、違うよ。私、君が心配なの…」
 けれど、磨智はそれまでの笑顔をしまって、しんみりといった。
「たまには本気で痛い目をみないと、君はどんどん無謀になって。いつかどうしよもない怪我を、しちゃうかもしれない…」
 物憂げな声で言う磨智に、メーはぴたりと口を閉ざす。
「そうしたら、私、悲しい…」
「な、なに気持ち悪いくらいしおらしいこというの、お前…」
「君は私のサンドバックっていうか、おもちゃっていうか、そんな感じなのに…」
「全然しおらしくねえよ! お前はやっぱり!」
 再び叫び始めるメーに、磨智がきゃらきゃらと笑う。
 楽しそうに、あかるく。
 …おもちゃと。きました。
 …そのいいように、思うところはあるけれど。
 まあ、いいんじゃないかな。…仲がいいなら。きっと。とりあえず。
「…とりあえず我が家は仲良く平和だね…」
「お前の目は節穴かこのくそマスター!」

いつもキミの周りには人が。

 ある日、リビングに来てみると。メー君が正座させられてました。
 …うむ。最近こんなのばっかりだ。
「なぜお前はこりないんだ」  エプロン姿で厳しい顔の緋那は、声も厳しい。
 緋那は温和だ。でも怒ると怖い。すっごく。今みたいに。
「何度おなじことを言わせる気なんだ」
 ぷりぷり、というかもっと鋭い怒りをまとわせて緋那。炎龍なのに氷のように冷たいその声にメーはなにもいわない。
 ふてくされたようにそっぽをむく。
「作ってる最中につまみ食いをするなよ!」
「お前もそのくらいで怒らなくてもいいじゃねえか…」
 あ、馬鹿。
「そのくらい? お前、つくづく反省する気がないわけだな…」
 案の定。声がさらに長くなった。
「こっちは真剣に作ってるんだ! 邪魔するな! 大体、行儀が悪いだろう!」
 そんなこといったら、余計長くなるのに。
 へーへーといった感じに聞き流すメーに内心で呟いて、私はリビングを通り抜ける。
 …戦闘、ついてきてもらうつもりだったんだけどなー。しかたないから、磨智ちゃんにお願いしよう。1人で行くと、怒られるんだよねー。…すぐ死ぬのにと。…すぐ死ぬのにと…
 …く、へこんだ。
 気をとりなおして、さっき見た光景を思い出してみる。
 なんつーかなんだかんだで、かまわれてるな、あいつ。
 …広場とかにつれていっても、なんだかんだで、わりと人のいる方にいる気がする。まあ、私が連れまわしたり日誌という名のちょっとしたエッセイに出してる所為で、知名度だけはそこそこだから、か…
 …それとも、もてるの?
 ……いや、それはねぇな。

 身近な女の子あれだけ怒らせてるへたれに、それはないよねえ。
 1人呟くと、なんだか笑えた。
 なぜだかは、考えないことにする。



笑顔にも覇気はないけれど。

 ある日、庭に出てみたら。
 メー君がぐっすりと寝ていた。
 …なんでお庭で寝てるんだろ。自分の部屋、いけばいいようなもんなのに。
 なんて思っていると、ぱちりと目を開けた。
「やっほー」
 とりあえず、手をふってみたりした。
 口の中でなにやらむにゃむにゃといったメー君は、なんか一つ頷いた。
「磨智。なに?」
「なに、って。君こそなに? なんでこんなところで寝るの。お家はいってねればいいじゃない」
「あー」
 そりゃそうなんだけどなあ。なんて繰り返す声は、やっぱりむにゃむにゃしてる。覇気がない感じ。
 …まったくもう。だらしないんだから。
「そりゃその方がいいかもしれねえけど。たまにしたくならねえ? こういうこと」
「こういうこと?」
「…なんだろうな…、野生っぽいこと?」
 …まあ、野生の龍は確かにお家ではねない。
 そうだけど…意外。
「メー君、帰りたいの? 野生の頃に」
「…へ?」
 意外だから尋ねてみると、メー君はきょとんとした顔をする。
 そのまま何度かまたたいて、ゆっくりと苦笑した。
「別にそれはないな。あの馬鹿1人にするの心配だしよ」
 あの馬鹿、が誰か、なんて聞くまでもない。
 メー君がそういう顔するのは、いつも彼女に関する時だし。
「あっそ」
 ほんと、君。
 マスターにだけは強気だよね。
 おかしいんだから、とこっそり笑う。
 なんだかとっても、おかしかった。

君が作ったヘタレ伝説。

「あついー」
「そうだねえ、あついねえー」
 ある日、桶に水をはって涼んでいた。
 足をぱちゃぱちゃさせて、磨智と二人。
 けれど、その光景に、庭に出てきたメーが思い切り顔をしかめた。
「…おまえら、はじらいをもてよ。はしたねえ」
「…君はへたれのくせにそういうの驚くほどうるさいね。親父め」
「このくらいで騒ぐなんてむしろスケベ親父だね」
「心配したのになんだその言いよう!?」
 ぐ、と拳を握る彼は、少しことばにつまる。
 その隙を見逃す磨智ではなく、笑顔と共に言葉は続く。
「だって。自分の家でなにしようと、勝手じゃない。
 気になるならメー君はみなきゃいいのー。なにのわざわざつっこむなんて。あーやーしー」
「ばか! んなもん見たくはねえよ! でも目にはいっちまったら注意しなきゃいけないだろう!」
 赤くなって叫ぶ彼は、やっぱり何度も言うけどへたれだ。
 でも、なによりも。
「うふふ。なんでそういうこといっちゃうかなあ。学習能力がないんだから。メー君たらv」
「おま…っ……い……ひっぱ…な!」
 おまえ、すぐそうやってひっぱるなとでも言いたげに頬を引っ張られている彼を見て、ぱしゃりと足を泳がせる。
 …まったくもう、本当に。
 ……そこで照れるからとでもいえば、少しは磨智にも勝てるだろうにね?



目が離せないのは心配のせい?

「かなたー。お前もってきたグベバの実、またくさってんぞ…」
「えー。ごめん…、…まあいいや。メー君だもんね」
「ふざけろ」
 そんな風に主人とじゃれているメーに、私は溜息を一つつく。
 …またというほど腐っているがあたるのか。確かにあれは、そういうものがよくあたるが。
 それでもこいつ、運がわるいんじゃないか。
 なんか色々うかつなのも、そのせいだろうか。
 …心配かもしれないな。少し。
「なあ緋那もなんかいえよ! この馬鹿に!」
「そうだな。変なものをくってこいつがもっと馬鹿になったら困るだろう。かなた。気をつけなさい」
「むー。…ごめんなさい。反省しました」
「お前もそういうことをさらっというなよ!」
 へにゃりと眉を下げる顔は、やっぱり情けない。
 …こんなんでこの先大丈夫か。こいつ。
 思いはするが、口にはださない。
 …別に、私が心配することでは、ないだろうから。



ピンチ時にこっちを見るな。

「ぐったりしてるねえ、メー君」
「…広場で。…疲れる龍にあったんだよ」
 ぐったりげんなりというメーは、そういえば町のひとのあつまる広場で、ある闇竜にからまれてた。
 確か名前はシワコさん。乾さんのところの私好みの美人。ミステリアスな美人って、いいよね!
「…別にぐったりしなくてもいいよなもんじゃない?」
「つかれんだよあの龍…」
「そりゃあ、ちょっと寄られる度にあんなにギャーギャー言ってたんじゃ、精魂つきはてるでしょ」
 横からぽそりとつっこんだのは磨智。
 にこにこ、というよりはにやにやと。最高に楽しそうな笑顔で、彼女は続ける。
「いいじゃない。シワコさん美女なのに。なにをあんなに怯えるのー? まったくへたれなメー君だね」
「美女って……、…いやなんか怖いじゃんあれ」
「セクシーな美女は嫌い?」
「…いや、嫌いじゃないけど…」
「はぎれわるいねえ。っていうか、そのくらいで赤くならないでよ。恥ずかしいねえ」
「う…なんだよしかたねえだろ!」
 なにやらきゃいきゃい盛り上がるメーと磨智を見ながら、私は黙ってお茶をすする。…うま。
「嬉しいと照れると困るは別もんだろ!」
「ふふん。全然その気なんてない人にちょっとかまわれたくらいで。自意識過剰なメー君」
「ぐ…分かってるけどなあ! 分かってるけどお前その言い草何!」
「自意識過剰じゃなきゃへたれだね。まったく。少しくっつかれただけで大慌て…感動的なへたれだよ?」
「へたれへたれ繰り返すなよ!」
「やっだー。真実なのに怒ったあー。こらえしょうもないー」
「その喋り方むかつく!」
 くううと叫んだ後、メーがこちらをみる。
 え。何その顔。もしかして援護を求められてるの?
 ううむ、相棒の不幸(?)は確かに助けなきゃかもだけど。
「ねえ、マスターもそう思うよね?」
「うん。大げさだよ、メー君」
 事実思うから、告げて見た。
 親愛なる相棒は、へにゃりとくいた唇をひんまげた。



計算だったらどうしよう。

 ある日、リビングで磨智が縫物をしていた。
 ちくちくと縫われているのは、刺繍だ。ハンカチに綺麗なお花がさいていく。
「わあ。かわいい…」
「えへん」
 感心する私に、胸を張る磨智。  その横をとおりかかったメーが、ぴたりと立ち止まる。
「…なあに? メー君。なんか言うこと、ある?」
「いや、特にはねえけど…お前器用だよなあ」
「うふふ。すごいでしょう?」
 それはそれは得意げにさらに胸を張る磨智に、メーはなんだか微妙な顔をする。
 えー、それほどかあ? とでもいいそうな顔だ。
 でも、言わなかった。少しは学習しているらしい。
「お前、そういうこと黙ってしてると、おとなしい女みたいなのになあ…」
 でも他の方向にうかつだった。
「いつもの私がおとなしくないみたいじゃなーい。しんがーい」
「怒ると人が謝るまでおっかけまわして埋めるブレス女は、おとなしくねえだろ?」
「それはメー君が余計なひと言ばっかりだからだよ。今みたいに。むしろ、埋めようか?」
「ほらおとなしくねえ!」
「君のせいじゃなーい?」
「そーゆーものの言い方もかわいくねえよ! もったいねえ!」
 もったいない、の言葉に、磨智がぴたりと口を閉ざす。
 すぐに俯く前、少しだけ見えた顔は、珍しく無表情。
「…んだよ、急に黙って」
「君がお馬鹿過ぎてどうしようかと思ったの」
「うわほんっと失礼…」
 …いや、君はたぶん本当に馬鹿だよ。
 気付こう、あの時、磨智がどんな顔をしたのか、さ。
 あんまりに鈍すぎてもはや怪しい。…もし気づいてこういうことしてたら、たちわりいなーなんて、思ったりもする。
 ……いや、それは、ない、のかな?



いや、正真正銘ヘタレか。

「メーくーん!」
 なんかテンションがたかったらしい磨智が、メー君にタックルした。
 うむ。微笑ましい。
「ぎゃあ!」
 と、思いました。彼がそんな悲鳴をあげるまで。

「…ちょっと驚かしただけでぇ。悲鳴あげるとかあ。どうかと思うよー。メーくーん」
「お前がよってくるとろくなことがねえからだろうが!」
「うわ失礼。傷ついた! 緋那! 慰めて!」
「…いや、まあ。後ろからいきなり抱きつかれたら私も驚く。…にしても、お前は騒ぎ過ぎだと思うけどな」
 とってもまっとうな意見をいう緋那に、メーは黙って溜息をつく。
「…そもそもなんでそんなに騒ぐの。心臓弱いんじゃないの、メー君」
 黙り込んだその顔に、私も思わずつっこんだ。
 めっちゃ嫌な顔をされた。
 ひ、緋那には普通なのに。差別だ。
「…驚くもんは驚くんだからしかたねえだろ」
「ふん。どうせメー君のことだから女の子にくっついてわたわたしただけじゃない。むっつり」
「いきなり名誉棄損してんじゃねえよかなた…!」
 じろりと睨まれたけど、特に迫力はない。
 だって、ねえ。いつものことだし。
「へえ、じゃあ私のこと女の子じゃないとおもってたんだー。ショックー」
「女の子もなにも、お前はお前だろ!」
 赤くなって叫ぶ言葉は、ききようによっては立派だ。仲間っぽい。
 でも、そうまで耳まで真っ赤だとさ…
「へたれだねえ」
「へたれだな」
「へたれだね」
「声をそろえるなよお前ら!」
 うん、私もここまで続けられるとは、思わなかったよ。
 …でも、いいじゃない。
 その方が平和だろうからさ。

→本編に続く

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