龍王という称号がある。
まあ。強い龍が持っている称号で。その強い龍を倒すとその龍に移る称号だ。
大したスキルもないレベル1と2で構成される我が家には縁のない称号だったのだけど…
「祝! 龍王だー!」
レベルは大したことなくとも、能力値は貧弱でも。やたらといいスキルいくつも持ってるベム君がとった。
そんな彼の手を握りぶんぶん振り回してみた。
いつもぼんやりした彼は、やっぱりぼんやりしていて。
まあ、そうだね、とだけ呟いた。
ごにん暮らし その6
だから手を離して問いかける。
「…ベム君嬉しくないのかい」
「まあ。別に。僕は。
けど、たまにはマスターの役に立つべきかもしれない。
そういう意味ではよかったかもしれない」
むう。よくわからないことを言われてしまった。
っていうか私、そんなに浮かれてる?
確かに町の掲示板(お金持ちとか勝率がいいとか、色々すごいのが乗る。人をたくさん殺害したから死神とか負けまくったから負け犬とかもある)に載ったの初めてで、まあ、そういう意味では嬉しいかな。
…っていうかあそこ、私が載るもんでもないようなもんだ。
ベムが載るべきじゃないだろうか、やったこと的に考えて。
…まあ、いいや。難しいことは。
そして、そんなことより。
「…なんで神妙な顔してるんだよ。三人とも」
私そんな神妙な顔されるほど騒いでるのだろうか。
…あ。あれかなあ。自分たちは龍王とったことないなあとか思ったりするのかなぁ。
………緋那と磨智はそうは思えないけど、メーはあるかもしれないなあ。
うーん、でもそのあたりはなあ。そのあたりを気にしてベムをねぎらわないのもなんか嫌だな。
どうしたものか…
どうしたものか、と悩みかけた時、三人がそれぞれそっぽ向いた。
なんかみんな半笑いで、こう。
こう…おそろいの、バツの悪そうな顔してる。
「……なにか言いたいことがあるなら言ってよ」
もう経験で分るんだからね。みんながそういう顔するのは私に言いたことがあるの、分ってるんだからね。
じとりと目をほそめると、緋那が小さく口を開く。
「いや…お前の役に立とうっていう発想は、なかったと思って」
「うん、私も」
「俺もこう…目からウロコってこういうことを言うんだなあと思ったよ…」
「やっぱり聞きたくなかった気がする!?」
次々と告げられる別に衝撃じゃないけど黙っておいて欲しかった言葉にちょっとぐらりとかしいでみたりします。
わかっていたけど。わかっていたけど言葉にされると、この気持ち言葉にできない。
「勘違いするな。お前をどうでもいいと思ってはいない。
色々と駄目な主を、立派に盛り立てるのが私の使命だと思っていたからな」
「わ、私だって。マスターが落ち込んでるっぽいときとかは撫でさせてあげたりしたし、別にどうでもいいとかどうにでもなれって思ってるわけじゃないよ!」
「俺も貧弱だから見捨てようとか、死体重いからほっとこうとか思ったことはねーぞ。野垂れ死にそうでアレだよなと思ってるのが強すぎて、役に立つとかいう発想がなかっただけだ!」
「もう黙れよ!」
どうせずぼらだよ! 落ち込むとうっとうしいし小動物なでたくなるよ! しょっちゅう負けて死んで蘇生に背負われてるよ!
「…なるほど。なら僕もマスターの役に立つより、マスターが真人間になるように。きびしく接するべきなのか」
「納得しないでよベム君!」
「かなた。いつも僕に空気を読めってぶつぶつ言うじゃないか」
「ここは抗って敬ってくれてもいいのよ!?」
思わず叫んでみると、ベムが訝しげに眉をひそめる。
「…本当に。敬われたい?」
「それはっ……」
反射で答えにつまってしまう。
答えに詰まってしまうというその反応が、質問への雄弁な答えだ。
どうしよもなくなって黙ってしまった私に、目の前の彼らが何とも言えない顔をしたのは一瞬。
「…まあ。なにはともあれめでたいっぽいことだ。夕飯のリクエストを聞こう」
「緋那の作ったものならなんでも」
「なんでもいいって男女の喧嘩の元だ、っていうよね。適当っぽい」
「なんで磨智が答えるの」
「親切心じゃない。ねー、緋那」
「まあ、そうだな。こういうこと聞いたら好物を言ってほしかったな」
すぐにそれぞれ台所に向かいつつ、和やかなような緊迫感があるような会話を繰り広げ始めましたとさ。
「……かなた」
「なんだいメー君……」
「人には、向き不向き可能不可能があるんじゃねーの」
慰めっぽい声色で告げられる、何やら失礼な気がする言葉。
それに反論するのを諦めて、私は小さく息をついた。