龍屋で茶色い龍を見つけた。
 小さな彼女は地龍で。小さな彼女を見た時、芽生えた感情の名前に。
 ―――私はきっといつまでも名前を見つけることができないのだろう。

幕間

 そんなことを思いながら、膝の上に彼女を抱える。
 小さな彼女はしゃべらない。
 しょんぼりと肩を落として、それでも私を責めない。
 契約を解けとも、なぜ契約なんてとも言わなかった。
 彼女を見るなり背を向けた彼も。その彼をなだめに言った彼女もいない部屋に、静寂が落ちてくる。
 二人きりの部屋に落ちる静寂は、とてもとても居心地が悪い。
 だから。
「名前、決めよっか」
『名前? なにそれ』
「リュコスって言い難いのだよ。だから名前をつけて、呼ばせてほしいのだよ」
『…そういうものなの』
 くすり、と少しだけおかしそうに笑った彼女は、それきり何も言わない。
 何も言わないまま、頭を撫でていた私の手をわずかにはらった。
 小さな動作に気づかぬふりで、私は続ける。
「…リュコス…だからリューちゃん、だとなんだか男の子みたいだね」
 なんとなくの感覚に、彼女は何も言わない。
 ああ、静かな子だなと思う。
 ああ、きっと本意じゃないだろうなと思った。
「せっかくだから女の子繋がりで緋那とそろえようか」
 それでも続けるのは、彼女がここにとどまるようにと選んだ言葉。
 私はもう目的を果たしたというのに、なぜ彼女をとどめようとしたのか。
 それもやっぱり、分らない。
「君は地龍だから…そうだね、磨智というのはどうだろう。
 叡智の智に、磨きをかける…気に入ってくれる?」
『…うん』
「そう。よかった」
 我ながら乾いた言葉に、彼女は何も言わない。
 一度だけこちらをはっきりとみた瞳は、綺麗な茶色。しっとりと濡れて、雨上がりの大地みたいな。
 ―――しっとりと濡れて、いっそ彼女が泣いてくれたなら、私は。
『マスター』
「え、なに?」
 謝れるのにと思いながら、とっさに返す。
 すると彼女は笑って、とても控えめに笑って。
『マスターの名前は?』
「…ああ。かなた、だよ」
 彼女にはそんなことすら教えていない。そのことに気付き、一層胸が痛い。
 けれど彼女は笑って、決して泣いたりしなかった。
 ちくり、と胸にささる感情を、追及しない。
 後悔なんて。そんなこと。
 寂しそうな彼女にも、今ここにいない彼らにも言えるわけがなかった。

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