からんころんとドアベルが鳴った。
呼ばれるままに玄関にいけば、そこにいるのは銀髪の少年。
堅そうな銀の髪、少し丸みの残る少年らしい頬のライン。
ラフなシャツをまとう、見たことのない少年だった。
まるでみたことのない少年だけれども。
「どちらさまですか」
「真顔で言うなよ。普通に傷つく」
けれども、私と同じに位置にある金色の瞳は、文句を紡ぐその声はよく知っている。
よくよく知っているのだけど、目を疑った。
よにん暮らし その2
『ふぅん。人化なんてできたの、メー君』
「覚えたんだよ。人と暮らしてるとそこそこに不便だからな。龍のままだとよ。…店の家具とか人間準拠が基本だしよ」
『ふむ。確かに。便利そうだな』
見知らぬ銀髪少年改めメー君を囲んで、磨智と緋那が問いかける。
私はといえば、何も言わない。
びっくりした、ということくらいしか伝えることがないので。そうしている。
龍が人の姿をとれるのは知っていた。
なにしろそうして暮らしている龍がいっぱいいるし、ここ。
慣れれば見分けられるけど、ほとんど見分けられない。よく耳とかの末端部分に、龍っぽい特徴が残ってるけど、ぱっとみ美形にしかみえない。
龍はキレイな種族なのだろうか。
うん、きれいはきれいだけど、メーはメーだからだと思うせいで、なんかこう、整ってるけどチンピラくさいなとか思った。
年は大体15くらいか。なんかこう、粋がってる子供っぽいなあ。私たいして年かわらんけど。一個だね。
『…なあ。メー。それやると疲れるか?』
「この格好で全力出せっていわれたら無理だけど。生活はできるんじゃねぇのって感じだな。あとかなたよりは強いと思う。ドラテンはきつい」
『お前でそんな感じなら私もそんな感じだろうな。しかし―――…よその町にもいけるようになるな…』
『私はしたいなあ。やっぱり体格的に人の生活に合わせるの大変で』
「ちまいと大変なんいてぇ!」
『ふん。おっきくてもおつむが小さいヒトよりはましだよ?』
ふむ。見守っているうちに二人もやる流れになってきた。
彼女達が彼にものを教わるとかレアい光景だ。心の記念写真に残そう。
ん、あれ? でも。
「メー君。いつの間に、誰にならったのそんなん」
「んー…野生の頃にちょっと聞いてはいたし。あとはこの町でコツとか聞いたよ。ドラテンの後にさ」
ああ。そういえば。最近いつにもましてドラテン行きたがってたっけ。
大抵そのあと戦闘もしてるから、その時間か。
うっかり私が死んだりすると、よくよく時間があるね! あ、言ってて落ち込むな!
「乾さんのところとかがねらい目だったよ」
「メー君が心を読んだ!」
乾さんとは私が蘇生的な意味でお世話になってる教帝さんです! 多分前も説明してるね! 誰にと聞いちゃいけません!
『ね。ね。まあともかく私もしてみたいからさ。実演してみて!』
「…お前に素直にもの頼まれると怖い」
『ご希望通り脅して頼もうか?』
「笑顔で言うなよ。失言だったよ!」
ふ、二人はいつのまに脅し脅されるような関係になったのだろうか。
私が見てないところで何があった…いや見てるところでもいろいろあった。
失言キング・メー君に磨智ちゃんが色々やったり脅したりしてた。緋那は微笑まし気に見てた。なぜ微笑ましく見るか。
…………まあ、緋那ちゃんはおかんだからね。
「…と、ともかくメー君。そういうことなら今日ちゃっちゃと術を伝授してよ。私も見てみたい」
「ああわかった『よ』
言葉の途中で、見慣れた姿に戻るメー君。
ふむ。こうして聞くと、龍の姿のときより、さっきまでの声は随分聞きやすかったんだな。最近すっかり慣れて、気にならなくなってたけど。
ああ、それに。
さっきまで、随分視線が近かったんだな。
ふわりと胸がぬくくなる。
見慣れた姿でない彼を見たことに感じた寂寥っぽいものと、近い距離に感じたうれしさっぽいモノが混じって混ざって、とってもぬるい感じ。
…まあ、いい。どうでもよいことだ、その辺は。
『まぁこうして戻るじゃん。俺たち対して大きくねーから気にすることないから周り気にしないかな。
で、また人になるときは―――人の形と服イメージして……』
言う間に、銀色の龍の姿が変わる。
こんなん見ただけでわかるもんなのかなあ、でもまずは簡単にとか言ってたしなあ―――…とか。
とか、考えていたことが吹っ飛ぶ。
銀色の髪と、なんとなくメーだとわかる顔。私と変わらぬといったところで、男の子の身体。
そこまでは、先ほどまで変わらないわけですが。
服がエプロンドレスです。
あの、某朱音さんとかをはじめとし、飲食店の人がよく着てる、町支給のエプロンドレス。
…ああ。服が難しいって言ってたなあ。
「私は」
そんなことを思ったのに、舌が動く。
「私は君をそんな女装趣味に育てた覚えはないわ!」
「んなもんになったおぼえねーよ! 育てられた覚えもな!」
勝手に吐き出した混乱の言葉は、もっと混乱した声色にさえぎられる。
バチンと指をはじくような音が響いて、服装もごくごく普通の男の子っぽいものへと元通り。
けどまあ、先ほどの一瞬は消せないわけで。
うう。体格がいいわけでもないからそう違和感はないけどさ。なんというかこう、いやんな気持ちになるね。
無理やりとかだと愉しいけど、自発的に女装されると反応に困るよね。
ふう、と息をつき、ずきずきする額を押さえる。いやまあ、でもいいか。うんいいや。とっとと忘れよう。
忘れよう、と。
私は思ったわけだけど。
『メー君、案外似合うからってそんなわけ分らない恰好にならなくたって…』
「似合うってなんだよ! 似合ってたまるかっつってるだろ!」
『へたれなのは知ってたけど、こんないじりがいのある趣味まであるなんて…恐ろしい子ー?』
「その性格のわるっそーな笑顔をやめろよお前!」
磨智はちっとも流す気がなさそうでした。
………。
………私は何も見ていない、聞いていない。
…とりあえず頑張るのだメー君。
「私は影で見守っているよ!」
『さじ投げるんだな、お前』
どこか冷たい緋那の言葉に、私は答えることはしない。
ただ青い顔のメーと、きらきらしている磨智を見て。
色々と見ないふりする決意をさらに固めましたとさ。