がたり、と膝は落ちる。
 ダンジョンを後にした私に、もう立ち上がる体力は残っていない。
 ぐしゃり、と土をつかむ。
 そう、この手に残るのは土くれだけで―――なにも、得ることができない。
 ああ。いや。違う。
 掌の中に残った金属片を見やる。つい先ほどまで私を守ってくれていたものを、見つめる。
「う…う…うううううううう」
『かなた。うるさいぜ』
「これが泣かずにいられるか! 私を守ってくれる鎧さんがまた一つ墓に埋まった!」
『なんだ。まだ防具か』
「ぐふぅ!?」
 緋那の(無意識の)攻撃!
 負けた時には防具、買った時には武器が壊れる法則が私に突き刺さる!
 ―――しかし別に敗北数は増えなかった。
 戦闘系の、いや。主の意地である。

さんにん暮らし その6

 立ち上がり膝についた土をパンパンと払う。
 そしてダンジョンにつきあってくれた二人に、びしっと指をつきつけ主張。
「またっていわないでよう。これでもレベルはあがってるのよう。ミドルクラスにはなれたぜ!」
『そうか…そうだったな。赤飯を炊こう』
「…あのさ。緋那。前から気になってたけど、そのいろんな変な地域の風習っぽいのは、どこで得たの?」
『龍屋にはいろんな人や龍がいたからな。自然にだ』
『長くいると色々聞くよなぁ。何事も経験ってやつだな、これが』
「…ふぅん」
 二人とも暇だったんだねえ、とは言わない。
 これ以上精神攻撃を受けたくはない。
 そう、これ以上…
「ああ…私のよろいさん…もっと使ってあげたった…ずっと、あなたといたかった…!」
『乙女チックなセリフを無駄遣いするなよ』
『そうかな。たいして乙女チックじゃないだろう』
 わりと新調だった鎧と衝撃の別れを果たした私は涙目だからこれ以上冷たい言葉とかいらないんだけど! なんか二人とも日に日にひどいよ!?
 私が『マスター扱いとかめんどい』って言ったせい!?
 マスター改め、私むしろ被保護者、みたいな!
「うう。心が傷つくことも敗北判定がはいるようになったら余計防具が壊れてしまう…」
『お前そこまで軟ななのか』
『そんに繊細じゃねーだろ。あんま落ち込むなよ』
「二人で! タッグを組んで! いじめるのよくない!」
 地団太踏んで叫ぶ私に、反応はやっぱり冷たい。どうしてこうなった! なるべくしてこうなった!
『別いじめてねーよ。事実だよ』
「うう。うう。嘘だッッ!」
『んなにマジ顔になること、ねーだろ』
「なるよなるだろほかにどこでなるんだ!
 なんだよすっかり仲良くなって! らぶらぶか!」
 残劇の予感っぽく叫んでみてもさらっと流されたのが悔しく、チャカしてみた。
 ふ。へたれなメー君はさぞや動揺するはず。
『んなわけねーだろ。アホか』
『私もちょっと。馬鹿はちょっと』
 と思ったら案外さらっと流しました。
「よその女の子とちょっとからみあるとぎこちないのに! まったくもうなメー君さ!」
 ちょっと意外なような、そうでないような。
 要はお友達だからそんなの浮かびもしないってやつか。健全な。
『ああ。そんなヘタレは、ちょっと嫌なんだ』
 健全というかやっぱり辛辣に流されているのかもしれません。
 じゃあ緋那の好みってどんなのなのかなあ、と思ったりしたけど。嫁にいかれると寂しいので聞かないでおきます。
 …藪から蛇は出したくないよ。
『お前と緋那は女枠にはいらねーよ。それぞれ違う意味に意味で残念だしお前ら』
 思う間にも、メーは続ける。鼻を鳴らして不満げに。
 …ふむ。ガラ悪いな。こんながらの悪い龍はしつけなきゃね!
「メー君に残念言われた。謝罪とか賠償とか改名とかを求める。メー君あらためメとか」
『改めるじゃねえ略してるつーかなんだそのもうただの鳴き声は!』
『そんなことよりメー「君」までが名前のつもりだったのか』
『そこでそんなこととかいうな!』
 先ほどのちょっと脱へたれな雰囲気はなんだったのか。
 とっても良い食いつきに、ますます改名の気持ちなんて消えていることに、彼が気づく日はくるのだろうか。来ないだろうな。
 だってそれでこそメー君だもんね!
「…ふう。こうしてメー君を負かしてレベルがあがればいいのに」
『上がるわけあるか、ボケ!』
「やっぱ自分で強くならなきゃダメだな…」
 吠えるメー君を無視し、考えてみる。
 レベルを上げる方法。
 ダンジョンに対人戦闘に、よく町のはずれとかをうろつくモンスターさんに。
 いろいろあるけどなあ。武器の扱いに慣れようとか考えると、もう何回戦っても足りない。
 何回戦っても足りないけど、そうそう連続では戦えない。
 そんな連続で襲ったら評判があれかもしれないし、私の体力や武器防具も続かなくて…
 ひたすら連戦しても問題がないだろう死女神なる方もいるけど、あれに会うにはちょっとしたアイテムが必要だったり…そのアイテムは自力で探したりほかの方に売ってもらったりしなきゃで……
 うん、つまり、要はやっぱり…
「ここでも金かあ! 世の中金ばかりだ!」
『いきなりなんだ。荒れ果てて』
 驚く彼女の手をひしと握り、私は大きく叫んでみる。
「緋那ちゃん! 渡る世間が金ばかりで私つらい!」
『マスターが荒れに荒れていくのが、私はつらい』
『いや。あいつがきゃんきゃんわめいている間はまだ大丈夫だよ。
 ものいわなくなったらやべーけど』
「わめいてレベルが上がったらいいのに―――!」
『肺活量だけだろう、あがるの』
 く、畜生メー君のくせに冷静な!
 歯ぎしりつつ、拳を振り上げる。
 お財布を握って決意を宣言する。
 次こそは、次こそは!
「鎧、君の手を二度と離さない!」
 叫ぶ私に、つっこみはない。
 さすがに疲れたらしい二人に構わず、私は空に拳を向けた。

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