ひゅるりひゅるり。
身体の脇を吹き抜ける風が冷たい。
ひゅるりひゅるり。
本当に冷たいのは心ですねわかります。
『すまないマスター…』
横でしょんぼりと肩を落とす緋那に、私は何も言えない。
なにもいえずに膝を落とす私に、はぁとため息が降ってくる。
『二人とも。んなことでへこたれてないで。直そうぜ』
能天気なメーの言葉に、つっこむことはできない。
一部がこげた壁の前に、私のお財布は無力なのである。
さんにん暮らし その2
なぜ壁がこげちゃったかといえば、話は数分前にさかのぼる。
さかのぼって、簡単に終わる。
いそいそと掃除にいそしむ私と緋那の間を、なんか黒くてかさかさしたムシが歩いて行った。
ただ、それだけ。
ただ、それだけであるわけですがその独自のフィルムと飛ぶぜ飛ぶぜと言わんばかりのヤツの姿勢にひどく恐怖を感じ同様の感情をいだいた緋那もなんていうかわたわたし。
わたわたして、火ぃ噴いた。
…緋那ちゃんったら炎龍なんだから☆
『かなた。無言で泣きに入るな。怖い』
「むしろ。なぜ君は。そうして冷静なんだいメーよ」
『いや冷静もなにも…なおしゃいいだけだろ、このくらい』
「このくらいでも穴あいてりゃ寒いよ。防犯的にもどうよだよ」
顔を上げて文句を言うと、能天気そうなメーと、より一層小さくなる緋那が見える。
…うん。心が痛まなくもないけど。まあ、緋那のせいだもの。しかたない。
『だから、直せばいいだろうよ。そのくらい』
「いくらかかると思うんだよそんなもん! 私にそんな甲斐性があると思うか! あるわけないじゃん! はっはぁ! 残念だったねぇ!」
『変なテンションで変なことをわめくなよ。ホント変な主だなお前はよ…』
変なことどころか真実を言っているというのに、メーの顔色は変わらない。
いや。顔色はよくわからなくとも。
ちっとも焦っていないことは、よくわかる。
それに。
『まあもう暗いし女が出歩くのはどうかと思うから、俺が木くらい拾ってくるよ。
材料あればふさぐくらいできるし』
さらっと頼もしいことを、言った…だと……!?
「なにぃ!? メー君が!? なして!」
腹の底から喉をこみあげる違和感的なものを叫んでみました。むっとされました。
『……昔、…少し暮らした人間が。やってるのを、覚えてる。きれいには無理だけど。
雨風くらいはしのげるよ』
やけに歯切れ悪いけどやっぱり頼もしいよ!?
こんな、まるで…!
「偽物!」
『オイかなたてめぇ俺をなんだと思ってた』
「へたれ!」
『声高らかに馬鹿にすんな!』
馬鹿にしてるんじゃなくて本心なのになあなとど思っていると、ふらりと緋那が立ち上がる。
ふらりとたって、窓を開けて。ばさりと翼を広げた。
『…拾ってくるよ。いい感じの木』
『…いやだから。夜の夜中に女が一人で出歩くなよ』
私も同感なのでこくこくうなづいておく。
っていうか野郎でも夜の森はどうかと思うなあ。一晩くらいなら気にしないよ。幸いお天気もいいし。
だから頷きまくっているけれど、緋那がふんと鼻を鳴らす気配。
『人間くさいこというな、お前。別にどうってことないぞ。獣が出てこようがたいてい散らせる』
『……まあ、そりゃそうだけど』
『直すなら早い方がよいだろう』
「早い方がいいけど、いまからとんとんかんかんやられるのはやかましくてやだなあ」
言いきって飛び立ってしまいそうな緋那に、正直な感想を伝えてみる。
すると彼女はため息をついて、こちらをびしりと指差す。
『なら直すのは明日でも。準備万端で寝ると気分がいいだろう。
今日できることを明日に回すのはよくないぞ、マスター。そんなんだからだらだらと部屋も片付かないんだ』
「正論が耳に沁み入る! しみいり痛みそしてちぎれる!」
通りの良い声で宣言される正論がこんなにも痛いなんて!
思わずうずくまる私に構わず、メ―が呟く。
『つーかお前壊した張本人がえらっそーな…』
『…それは……本当に、すまないことを………』
『ち、小さくなるな! 俺が非道なこといってるみたいだろ!』
「やぁあい…メー君が、女の子、なかしたぁ……」
『かなたお前も涙目で人を指差すな!』
うずくまる私、肩を落とす緋那。わたわたするメ―。
なんだかよくわからないことになる私たちの間を、隙間風が通り抜ける。
なんだかとっても身にしみる、隙間風でした。
ちなみにこの後、気を病みまくる緋那ちゃんは私のゆたんぽになるということで謝罪が成立した。
ちょっと寒くなってきた空気に、ふかふかもふもふした彼女の体温はとても心地よかったことを、ここに記しておく。