天気がいいから、庭を眺めてお茶を飲みたくなった。
 で、今、ずずうっとお茶をすする。
 数種類のハーブからつくった、爽やかな味。飲んでいると和やかな気持ちになる、美味しいお茶。
「緋那。うけとって」
「こんな立派な彫り物を受け取れるか!」
 ずずう。ああ、本当においしい。
「僕が作ったもので。額はたいしたものじゃないから。うけとって」
「そういう意識が重いわ!」
 ずず、ず。ごくん。
 飲み干した爽やかなお茶の作者は、今日も元気にうんざりしてた。

穏やかな日差しの下で

「ベム君は今日もお馬鹿さんだね」
 お茶を飲んで二人のやり取りを眺めていた私の隣に、自分のお茶をもってきた磨智が、ちょこりと座る。
「お馬鹿、っていうか…一生懸命なんじゃ、ないかなあ…」
 ベムはいつだってすごく一生懸命だ。ほれぼれするくらいに。
 だから思わずフォローしちゃうんだけど、磨智はふん、と笑う。
「一生懸命でも、あんまりにからまわりしすぎでしょ。私の大事な友達を困らせるなんて、悪い子」
「……そっか」
 確かに、一生懸命でも。真実の愛でも。緋那は迷惑しているんだろうな…
 …バレンタインにでっかいハート柄(真ん中にワンポイント)なんて送られたら、誰だってひくかもだけどね…
 …でもそれを捨てないでとっておいているんだよね、緋那。…律儀な子。
「…でも、私はちょっと羨ましいよ。ああいうの。青春、って感じでさ。縁、なかったから」
「……マスター、ああいう彼氏がいーの?」
「それは嫌です」
 すごく嫌です。ハートのセーター手編みで贈る男は嫌です。
「ただ、そういう仲良しっぽいやり取りに憧れるのさあー」
 うふふと笑う。
 ああ、縁側で茶あ飲んで、ひとの色恋を羨ましがる。
 なんだかとってもお年寄りだわ。そう、こういう時は―――
「磨智ちゃん磨智ちゃん。龍の恰好になって。君、猫っぽいから。ひざに乗せて撫でなでするの!」
 それでこのシチュレーションは完璧だ。様式美を満たしている。素敵。
「…龍に戻るのは楽でいいけど。撫でられるのは暑苦しいから、嫌」
「…つれない」
 よよよ、と泣きマネをしてみる。
 それに磨智はきゃらきゃらと笑って、おかわりをそそいでくれた。……優しい。
 …この子に、嫌われてもしかたないこと、したのにな。
 ちり、と喉に痛みが走る。たまらなくなって、お茶で流した。
「で、マスターは、ああいうのが羨ましいの?」
「うーん。うすらぼんやり。ほんのりと」
 そうまじまじと尋ねられると恥ずかしい。
 ちなみに、憧れは憧れであって実現させたいわけじゃないから…話を広げられてもなあ。
「マスター、こっちでも全然ちっとも絶望的に色気づかないから…故郷にいい人でもいるんだと思ってた」
「……ええー」
 …故郷。
 ひなびた港と、険しい山にかこまれた私の故郷。あるいは、美しく、のどかな場所。そこに…甘酸っぱい思い出なんてないよ。
 あるのは、穏やかに甘い家族との思い出と。味のしないその他との思い出だけだ。
 それが。とても嫌で。
 とっても、嫌、だったから―――
「…いないよ、そんなのー。いなくても故郷ならそろそろそういう話が出たかもだけどね。それより先にいたなら結婚して家業をついで幸せになってた。そしたら君達には会えない。いやんやっぱり不幸じゃない?」
「…そっか。ごめんねえ、変なこと聞いたねえ」
 明るく笑って絞り出した言葉に、磨智は一瞬驚いたような顔をした。
 驚いた、というよりは、申し訳なさそうな。
 そんな顔をさせるような表情だったんだろうか、私は。
「…まあ、あんなんがあってもなくても、私は幸せだよ。
 今も昔もいい人なんて、いないけど―――新しい家族ができたもの」
「マスターにとって、私達は家族?」
「そう。みんな、同じくらい大切」
 じっとお茶を見つめながら、きっぱりと言い切る。
 いつだったかメー君に言われた時は、誰が親とかつっこまれたから、あえて予防線を張りました。
 でも、なんにしても。
 彼女の目を見て言う気には、なれない。
「おだててもなにもでないよ?」
「だってほんとのことだもん」
 本当のことでも、拒絶が怖いから。どうしても。
「…みんな同じ、か」
 小さく繰り返した磨智は、ふふと笑う。楽しそうに。
 楽しそうに、本当に楽しいならいいな、と。願っている。
「でも私はマスターよりは確実におねーさんなんだから。姉として敬え!」
「姉ってうやまわなきゃならないの!?」
「そしてお片付けもしてくれるの。妹なら」
「えー、じゃあ妹は止めよっと」
「…都合がいいよ、マスター」
「性分なのよ、磨智ちゃん」
 ふふ、と笑って、二杯目のお茶をのみほす。
 何度飲んでもさわやかなお茶に、自然と頬が緩んだ。

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