のほほんボケーとしている主人は、それでも一応戦闘系で。
 出かける先は同じく戦闘系のヒトが多い。

「お手合わせお願いします。」
「刹那の逢瀬に万感を籠めて…いざ!」


 かなたの武器はフレイムの武器に相性がよい!
 かなたは装備品の呪力により戦闘判定上昇。
 かなたは装備品の呪いにより体力が1に!
 かなた【13】:フレイム【40】
 1ターン:フレイムの攻撃!
 1のダメージ!

 フレイムが戦闘に勝利しました!
 かなたは1ポイントのダメージを受けました!
 フレイムはかなたに止めを刺しませんでした。

 ホントに刹那――――!!?

 開いた口を閉じられない俺の目の前で、主人はバタリと倒れた。


ACT・23 君と俺との歩む道

「いや〜。相変わらずお強いですね。
 ま、あきらめませんけどー」
「はっはっは。いつでも歓迎しますよー」
「うん、頑張ります。
 にしても、賞金溜まってきてますねー」
「んー。いけるとこまで行ってみようかなと思ってますよ〜」
 それはすごいですねー。と言おうとしたのだが、それより早く、
「調子にのるな!」
 フレイムさんがどつかれました。
 おお。私が何度挑戦しても中々勝てない人が膝をついた。
「あんたが死んだら蘇生しなきゃいけないのはあたし達よ? 
 ちゃんと分かってる?」
「そっちこそおいらがマスターだって分かってるか!?」
 言い争う二人を見て、ふと浮かんだ言葉を口に出す。
「…イルベさんは相変わらず素敵なツッコミですね」
「素敵なんですか? マスターを総出でシカトするようなドラゴンが素敵ですか?」
「私の中では、クールさがかなりいい感じです」
 言い切ると、フレイムさんは苦笑した。
 どこの家もマスターってこんな感じな気がするねえ、などと思った私も笑えてきた。

「んー。少しふらふらするかな〜」
「…なんか言いたいわけ?」
「いや〜疲れたな〜歩くのしんどいな〜。おんぶしてほしいな〜と思うな」
「お前…恥ずかしくないか? そういうの」
「なんか言いたいわけ、って聞いたのメー君じゃない。…そもそも冗談けどさ」
 ふらふらと手を振る。
 重いため息を感じてふりむくと、メーは苦い顔をしていた。
 …はて、そんなに気に障ることしたかな?
 とか考えていると、彼はまるで予想していないことを訊いてきた。
「…お前さ、強くなる気とかあるの?」
 一瞬、なにを言われたのか分からなかった。
 なんて当たり前なことを訊くのだろう。
 あるよ、と軽く答えると、ますます苦い顔をされた。
「…の、わりにゃペース少ないじゃねーか」
「いや、だって…紋章高いし、ダンジョンは歯ぁたたないじゃん?
 なら自然とこつこつ地道に〜だよ?」
「いや、そりゃそうだろうけど…、負けても悔しそうじゃねーし…やる気が感じられねぇ」
 …なんか、大昔…そう、彼と出会ったころにも似たようなことを言われたような。
 今も昔も失礼なと答えてやろうかとも思ったけど、するりと滑り落ちたのは別の言葉。
「…そもそも私、喧嘩嫌いだから」
「…ならなんで戦闘系なんてやってんだよ」
「だってー。商売とか柄じゃないもんよ」
 楽しそうだとは思うのだが、いまいちやる気がしない。
 いや、今の半無職状態の生活も若者としてはどうかと思うけど、やりたいことを見つけない限りは、まだこのままがいい。
 なんとなくメーの表情を伺う。その顔は、納得しているように見えたと思う。
 けど―――
 呆れてるかな、浮かんだ言葉を声にすることはしなかった。
 なんとなしに空を見上げる。日は沈み、月が輝き始めていた。


「あー…」
 朝日が眩しい。ああ、やっぱ光っていいな、と思うのは、俺は光龍だからだろうか。
 そんなことを思いながら、ポストの中をあさる。それは朝に弱い主に代わって引き受けた、毎朝の日課だ。
 そこには、いつもと同じ村の新聞と―――可愛らしい花が散らされた封筒。
「……?」
 差出人は知らない名前。そして、受取人も―――
 滝川 叶多
「タキカワ、…カナ、タ…って、読む、のか?」
「呼んだ?」
「う、わっ!」
「なに驚いてんだ…」
 慌てて振り向くと、かなたがいた。
 眠気が残っているのかそれとも別の理由か。若草色の瞳はじとりと細められている。
「驚きたいのは私だよ―――なんで私の家名知ってるのさ? 教えたっけ?」 
 訝しげに言うかなた。その目が俺の握る封筒に気付き、大きく見開かれる。
「…その手紙…」
「…お前の、なのか」
「…うん、私の両親からだと思うよ。
 いつもはちょっとここを出て、外の町で受け取ってるのに―――なぜか、直接来たみたいだね」
 いつもより早口でかなたが言う。
 なんだか、気に食わない。定期的その街に通っているのは知っていた。ついて行ったこともある。けれど。
 隠していたのか。その名前も、手紙も。
「ちょうだい」
 …気に食わないので無言で押し付けてみた。すると、視線が逸らされた。
 どこか、気まずげに。どこか、悲しげに。
「…別に嘘はついてないでしょ?
 ざぶーんって言ってる滝と川で滝川、叶えるに多く、でかなた。
 願うことをガッツでたくさん叶えられるような子であれ、と名づけられました。」
 手の平の中で手紙を弄ぶ彼女は、やはりこちらを見ようとしない。
「…なんで今まで言ってくれなかったんだよ」
「…深い意味、ない、けど…」
 低く問いかけると、途切れ途切れの答え。
 …そういえば、こいつは故郷の話をしようとしない。触れそうになると困ったように笑うから、俺はしない。
 そのことをやっと思い出すと、過剰に苛立っていた自分に気付いた。
 ―――違う。
「言っても、呆れない?」
 彼女が振り向く。ひどく躊躇ったように、視線は揺れたいた。
 それは、きっと俺も同じ。
 俺は苛立ってるんじゃない、不安なんだ。
 躊躇いながらも声は続く。俺の無言を答えにして。やめさせたかったが、理由がない。
「……ここに、たどり着いたときね…」
 僅かに目を伏せた彼女がなにを思っているかなど、俺には分からない。
 だから、妙に不安で。不安――――
「ずぶ濡れで疲れ果ててて…もう正式な名前書く気力もなくて…住民登録…略称のこっちでしちゃったの…
 直そうかと思った日もあるけど…もうかなたで通しちゃったし、今更後に引けなくて…」
 だと言うのに彼女が言い切った理由はあまりに―――
「お前アホだよな本当」
「分かってるけど―――っ。仕方ないだろ!」
 呆れ果ててそう言えば、かなたが悔しげ顔をする。
 だから嫌だったんだと吐き捨てて、不意に真顔になる。
「…最初はね。流された資金を稼いだら、また旅をするつもりだったから。
 それに、言う必要も感じなかったんだよ。
 …ねえ、メー君。名前が違ったら、私は君のマスターでいられない?」
「………んなわけねーだろ」
 答えた声は、自分でも呆れるくらい不満げだった。
 なんだか、悔しい気がした。
 …それこそ悔しいから言わないけど。
「良かった」
 かなたはホッとしたように息をつく。
「ほら、よく言うじゃん。悪魔とか精霊とかと契約するときは真名じゃなきゃ不完全って…」
「お前人を悪魔呼ばわりすんなよ!!」
「え!? 精霊っても言ったじゃん!?」
「俺は龍だ! ドラゴンだっ!」
 吼える俺に構わず、主は無造作に封筒を破ると手紙を取り出す。
 そして、目を通して――――みるみるうちに蒼ざめていく。
「メー」
「なんだ?」
 安心していたのに、まだなにかあるのか。
 舌打ちを抑えて答えると、険しい声で告げられる。
「緋那を―――いや、皆を呼んで」
 なんでだよ、と訊く前にぐっと握り締められた拳が振り上げられる。
「すぐに―――大掃除だ!」
「………はあ?」
 自分の声が間の抜けた声なのが分かる。
 かなたは戦いに挑む顔で拳を握り締めていた。

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