概要
NPC情報
導入
*
船の探索
レストラン
バー
玄関ホール
オープンデッキ
サロンルーム
トイレ
(探索中情報一覧) *
ディナーショー中
ディナーショー後
相馬との戦闘
留美の告白
ED分岐
*
NPC反応表
報酬・背景

病める時も、健やかなる時も

シナリオ概要

シナリオ名:病める時も、健やかなる時も
プレイ時間:約4時間前後
人数:2〜3人
推奨:最低1d6の攻撃手段、安全が欲しければ回避、対人技能
準推奨:聞き耳

KP向け概要

 旧友の頼みを聞きに演奏聞きにいったら病める女と頭おかしいストーカーの狂気に巻き込まれるクローズド。
 序盤は茶番兼情報収集。後半は戦闘。EDで留美を止めるか止めないかを選択する形のシナリオ。
 戦闘の際に相馬の手下二人が使っているのは「AF:狂戦士薬(キパコン・P106)」。オリジナル要素として使用者は5ターン後に気絶する+レストラン船の制服を着た人間は襲わないという暗示がかかってる。
 船の中で入手できる情報は、形は違えど同じもの。「相馬が留美に執着し、立場を利用したパワハラを行っていること」「留美の立場があまりよくないこと」だ。
 色々とブラフが貼ってあるが、実際に関わっている神話事象は深きものになりかけの女と、彼女が持つ深きもの謹製の狂戦士薬のみである。
 *NPC・シナリオ内容はともにご自由に改変ください。

PL向け概要

 旧友・知人・依頼人。
 関係性は任意だが、あなた方は戸川晃一という人物の依頼を受ける。
「恋人が嫌がらせを受けている」「その証拠か、話し合うためのとっかかりをつかんでほしいんだ」
 探偵を頼れない理由は「一度頼んだが、恋人に色目を使ったから」(探索者が探偵の場合、以前依頼を頼んだなどで全面的に信頼していることになる)
 あなた方は依頼を受け、レストラン船に乗り込み、レストラン船にうずまくトラブルを探っていくことになる。

ED分岐表

ED1:留美の死亡
ED2:戸川の死亡
ED3:留美を司法にゆだねる
ED4:留美の告白を最後まで聞く
*ED4は留美が海へと落ちた後の処理で神話技能が上がるかの分岐あり
ED5:留美を探索者が殺害する・戸川に殺害させる

探索者の死亡人数によるEDの分岐・描写の追加はない。KPとPLで描写を行ってほしい。
探索者が戦闘で全滅してしまった際に相馬の意識があれば、彼が留美を殺害したのちに逮捕される。戸川は探索者と留美を弔っていくだろう。
探索者が全滅時に相馬が意識を失っている場合、操られて「制服を着ていない人間(留美)」を殺せという暗示がある男たちが彼女を殺害し、同様のEDとなる。男たちは狂戦士薬で暗示にかかっている状態なので、一人として幸せにならないEDだと思われる。

NPC一覧

戸川 晃一(とがわ・こういち)20代後半〜30代前半(探索者の年齢によって変化)

STR:10  DEX:16  INT:10 アイデア:50
CON:12  APP:10  POW:10  幸 運:50
SIZ:12 SAN:50 EDU:12 知 識:60
技能:料理(70)回避(32)目星・聞き耳・図書館・心理学 初期値
容姿:シャツを着てエプロンをまとった、人の好さそうな男性。中肉中背だ。(調理スタッフの制服)人物の呼び方:探索者→関係性に準ずる。基本は苗字呼び捨て。留美→留美。相馬→相馬チーフ。

 顔も頭も平凡なディナー船「オレオル」の厨房スタッフ。シェフとしての腕前もやっぱり平凡。丁寧な仕事と飾らない人柄が売り。
友人である真部シンヤから、留美が相馬に言い寄られていることを聞かされる。そのことについて留美に確認するものの、のらりくらりとかわされる。
 それでも心配で探偵に依頼をするが、はずれの探偵を引く。探偵が留美に言い寄る。安物の探偵だったのだろう。それですっかり探偵を信じられなくなった彼は、友人・あるいは信頼できる探偵である探索者たちに調査を依頼する。
なお、相馬が留美にいいよりはじめたのは半年前。留美の深きもの化が始まったのは三か月前。3か月前から肉体的な接触を大小かかわらず断られている。にも拘わらず留美の浮気を疑いはしなかった。彼女なら心変わりがあればきちんと話してくれるという信頼で。

 彼の目的は嫌がらせが本当にあったことを知り、それをとっかかりにして留美とともに転職することである。
 終盤で留美の深きもの化を知った直後は、留美とともに海に沈もうとする。が、留美に断られるので、一人原則残される。
 探索者の動きかけで追っていくこともあるかもしれない。あるいは、かなりの確率で最後に留美に刺されるので、探索者の応急手当で彼の生死を決めてもいいだろう。
 彼は序盤と終盤にしか登場しないので、心理学を振る機会もないかもしれないが。
 基本的に探索者に一切嘘をつかないし。相馬をよく思っていないし。真部を信頼している。留美のことは、心の底から愛している。

 ちなみに、彼が留美を愛している理由を聞くと照れる。のろける性格ではない。が、NPCなので対人技能があれば喋る。
「夢を大事にしてるところが好き」とか「いつも努力してきれいにしてるところがかっこいい(整形には気づいていない)」とか「しっかりものなのに甘えるときかわいいのが最高」とか。
 かつて参加PLから「なんか腹立つ」「寝取られそう」と称された男。大体そんな感じである。
 貯金は堅実にするタイプだし、探索者を信頼しているので、言いくるめとか値切りで依頼料をはずんでくれる。震え声で。
 どうせ使えない結婚資金です。遠慮なくぶんどったところでシナリオの進行に影響しない。
 探索者が留美・相馬を殺害したとしても責めない。告発もしない。相馬を殺害した場合は「自分が巻き込んだせい」と謝罪する。留美を殺害した場合は、二度と会わないが恨まない。

 留美の願いが死ぬことだと知っても、彼が彼女を殺すことはない。
 探索者がKPの適切だと感じる技能をクリティカルすれば、彼女の願いをかなえることを選択する。が、この場合精神病院でショックで自発的な行動ができぬまま一生を過ごすことになる。

 留美を見送ったEDにおいては、生涯できる限り彼女を探す。新しい恋に出会うかどうかはKP裁量にお任せする。

大野竹 留美(おのたけ・るみ)戸川の一つ上。

STR:8  DEX:12  INT:10 アイデア:50
CON:10  APP:18  POW:8  幸 運:40
SIZ:12 SAN:20 EDU:16 知 識:80
技能:フルート(80)回避(24)心理学(30)目星・聞き耳・図書館 初期値
容姿:栗色の髪と青みがかった目をした美女。白いブラウスと黒いジャケットを着て、青いスカーフで首元をおおっている。(演奏スタッフの制服)
人物の呼び方:探索者→苗字+さん。戸川→晃一・コウ。相馬→チーフ。

 美貌のフルート奏者。日本育ちの日米ハーフ。APP18。整形前は12。髪と目の色はいじっていない。
 フルート技能はあくまで努力によるもので、彼女をめぐって殺しあった男がいるというのは神話事象によるものではない。男たちの酒の勢いである。

 まるでパンの子のように目が合った人を操る噂が出てるけどブラフ。まるでアザートス関係者のごとくフルート奏者だけどブラフ。レストランでやたらと乳製品が出てきて山羊関係の何かをにおわせたりするけど、ブラフ。このあたりのブラフはPL向けの疑心をあおるためであり、探索者目線ではそういったキーワードは不穏に映らないことを予定している。継続だと嫌な思い出があるかもしれないけど。
 インスマスゆかりの土地出身なアメリカ人の母と、日本人の父を持ち、きわめて愛情深い家庭で育つ。が、母は深きものの血をひいており、留美が10歳の時に失踪。「父と自分は母に捨てられた」「愛情とは長続きしない」という意識を抱く。
 大学の時分に母と似た顔を苦にして整形。同時に、母を慕ってアメリカにわたり、フルートを学ぶ。
 大学卒業後はフルート奏者として働いていたが、オーケストラで彼女をめぐって争い、というよりはゲームが起きる。ゲームの景品のごとく言い寄られ、それでも誠実に断っていたのだが。ある日彼女に言い寄っていた二人が泥酔の末に撃ち合う。びっくりするほど男たちの自業自得。なのだが、逆恨みを受け、留美は深く心に傷を負い帰国する。

 戸川との交際を周囲に伏せていたのは、アメリカでの一件から職場恋愛に恐怖を感じていたため。
 整形をしていることを戸川に伏せていたのは嫌われたらどうしようという恐れだが、たぶん気にしないんだろうなと思ってもいた。

留美から情報が出る技能

医学・目星・他適切だと思われる技能
→整形をしている。目星ならアゴのラインに違和感を感じる、など。
聞き耳
→かなり濃い香水の匂いにまじり、どこか生臭い香りを感じる(近づいた時点で香水と化粧の匂いが濃いことはわかる)
対探索者の心理学
→探索者全般:探索者に隠し事をしている・罪悪感を抱いている
 戸川:心から愛している
 相馬:疎んでいる・気味悪がっている

あくまで人間なので、KP裁量で好きに情報を出してほしい。
相馬のやることをすべて聞いていたので、船から脱出するときもおびえていないし、銃撃戦が起きた時もおびえていない。戸川が怪我をした場合は、本心からうろたえるし泣きわめく。
探索者のことは「戸川を守ってくれるだろう。それはとても好都合だが、こんなことに巻き込んで申し訳ない」という方向性で見ている。
SANは初期より減っているが、不定ではない。責任能力も、思考能力もある。彼女の凶行はあくまで相馬の行為と母(だと彼女が思ってる深きもの)の言葉によりあてられた自暴自棄の結果である。
もしも深きもののことがなければ、戸川に問い詰められたときに相馬の件を打ち明け、二人で幸せになれる道を探したと思われる。

彼女が戸川を愛してる理由は「一緒にいておちつく」とか「誠実でかわいい」とか「頼りないところもあるけど、それは優しいからなのよね」とか「人のために泣いたり笑ったりできる人だから」とか「料理がおいしい」とかのろけさせようと思ったら時間の許す限りのろけてくる。戸川が馬鹿にされるとちょっとムっとする。嘘をたくさんつく彼女の、嘘偽りない恋心である。

相馬 竜介(そうま・りゅうすけ)42歳

STR:12  DEX:10  INT:16 アイデア:80
CON:9  APP:16  POW:10  幸 運:50
SIZ:15 SAN:30 EDU:16 知 識:80
技能:言いくるめ・信用(70)回避(20)心理学(50)目星・聞き耳・図書館 初期値
容姿:白いYシャツに黒いブレザーを着た中年の男性。胸元には責任者であることを示しているのだろう金のバッチがある。
人物の呼び方:探索者→あなた方・あなた。留美→彼女。戸川→彼・戸川君。

 自信と実績あふれるレストラン部門の美貌のチーフ。別に神話事象には何のかかわりもない、ただの神経がおかしい人。留美の気持ちが自分に向いていないことは気づいている。彼女が戸川と付き合っていることもある程度察してはいた。
 留美の願いをかなえることこそ自分にできることと判断し、自分に弱みを見せていた相手二人に狂戦士薬を飲ませる。戸川を殺す気はちょっとだけあった。が。一応留美の願い(彼の目の前で自分を殺してほしい)を聞く気で入る。

 世界の中心は自分だし自分が選ばれないなんて見る目がないなあいつか目が覚めるだろうみたいなノリで言い寄る(パワハラ的手段で)日々の中、彼の嫌がらせと自分の深きもの化に心を病んだ留美に願われる。「戸川の目の前で自分を殺してほしい」と。
 愛した女を殺すことより、愛した女の願いをかなえられることに陶酔した彼が正気と呼べるかどうかは、各探索者にお任せする。
 責任能力・思考能力共に良好。銃は学生時代つるんでいた悪い仲間(素行の悪いディレッタント)から譲り受けたものだがシナリオには特に関係ない。サイレンサーなしで暴れられると戦闘に乱入が起こりテンポが悪いので。

 彼が留美を愛している理由は仕事ぶりと見た目を見ているうちに「自分にふさわしい女だと思った」から。あとはふられているうちにプライド傷つけられてこじらせた。そういう人である。整形美人なのは気づいていないし、気づいたところで気にしなかったと思われる。
 かつて「(性根をただすために)調教するしかない(性的な意味で)」的なことを言われた歩く自意識過剰。彼を拘束し、陸に上がり、警察に引き渡す数分の間ならコトを起こしたければ起こせなくもない。KP処理が大変そうだけど。

真部信也(まなべ・しんや)戸川と同じ年

 レストランの配膳スタッフの1人。戸川の友人。という名のモブ。モブだけど名前がないと状況説明がしづらいモブ。
 戸川と飲みに出た時に戸川のスマホ画面の待ち受けをうっかりみる。留美とのツーショット写真だった。「お前、交際隠してるのにどうしてこういうことするの!?」
 そのことから戸川と留美の交際を知り、温かい気持ちで見守っていた。
 相馬に言い寄られたことでレストランの配膳スタッフから不評を買いはじめた姿に心を痛め、戸川に現状を伝える。
 要は彼は一切嘘をついていない。そのことを知った戸川が留美を問い詰めたことが、セッションのはじまり。
 備考だが彼女はいない。イケメンでもない。相馬のことはすごい男だと尊敬もしているが、自信がありすぎて落ち着かない気持ちにもなると感じている。
 留美と相馬のやり取りについては「あれはパワハラ」とドン引いてる。友人思いのやさしい人。
 戸川が生存している場合は、彼は戸川のことを真摯に支える。クズ率が高いシナリオでマトモな男である。

男A・B Aは22歳・Bは35歳

 留美が相馬に手渡した狂戦士薬を飲んだスタッフ。二人ともクズで問題を起こしているので、正気に返ったらそれぞれの理由でどうあがいても解雇される。人生を投げずにどこかで強く生きてほしい。

 Aはギャンブルにより借金をこさえたことを相馬に相談していた。「これを飲めば借金を肩代わりしてやる」と言われてものすごく怪しみながらも思い詰めて飲んだ。ここ一か月くらい闇金に追われてた。人生がけっぷち系クズ。
 Bは自分の不倫が奥さんにバレて絶賛離婚調停中だった。職場にばらされたくなければ慰謝料耳そろえて払えよと言われてた。その愚痴をポロっと相馬にいってしまったうっかりものなクズ。そしてほかの人間に知られないために狂戦士薬を飲んだ。運も悪いクズ。

導入

あなた方の元に、電話がかかってくる。
戸川晃一という友人だ。
レストラン船に努めているという彼は、あなた方に依頼をしてくる。
故あって探偵は頼れない。だが、恋人が嫌がらせを受けている証拠を入手してほしい、と。

セリフの例

「久しぶりで悪いんだけどさ、ちょっと頼まれごとしてくれないか?」
「お礼は全部終わったらするし、とりあえず飯おこるよ。今俺が働いている船の飯だけどさ」 「オレオルという船で働いているんだ。結構人気あるんだぜ?」
「詳しい話は当日するから、とりあえず来てくれよ」(隠しているわけではなく、シナリオのテンポ優先の処理)

事前調査

レストラン船オレオルについて調べられる。(図書館・コンピュータ・その他適切と思われる技能)

「オレオル」はフランス語で輝きのこと。レストラン船オレオルでは、オーケストラによるディナーショーや結婚式・披露宴などが楽しめる。
現在はフランス料理とと夕日・夜景を見るツアーの評判がいいようだ。
今回戸川がチケットを渡してくるのは、まさにそのツアー。
オーケストラは一管編成の30名。現在、小野竹留美というフルート奏者がその美しさと演奏の巧みさで人気になっている。フェイスブックやツイッターなどどまりで、メディアにはとりあげられていないが。
*なお、技能成功で船中MAPが提示される。
(ここで留美について調べたいのであれば、アメリカで受賞歴がいくつかあるのことがわかる)
(後述の留美がキッカケに怒った銃撃事件に行きつきたい場合は、図書館などの1クリ、あるいは英語圏のニュースを調べるための技能の成功。特に隠蔽されている事件ではないが、留美の関与が報道されているわけではないので、彼女がかつて所属していたオーケストラでそういった事件が起きたという情報を入手できる)

描写例

 あなた方が指定された港にいけば、白い船に乗り込む人々がいる。
 その列からあなた方を見つけた戸川は、そちらへ駆け寄ってくる。
「いきなりごめんな。話は中の喫茶店でいいかな」

このシーンの目的は探索者の合流だ。重要な情報は出ない予定なので、いくらでもいじってほしい。
なお、戸川がチケットと一緒にパンフレットを渡してくるので、図書館に失敗していた場合、ここでMAPが開示される。

戸川の頼み事

描写例

 喫茶店に案内されると、耳に心地よい演奏が耳に入る。この船の楽団の演奏を録音したものを流しているらしい。
 席はボックス席が2席。喫茶店の席同士は離れており、にぎやかな話し声と演奏で満ちた現在、あなた方と戸川の話が周囲に漏れることはないだろう。
「電話でも話したが、俺の恋人の身辺調査を頼みたい」
 彼が取り出してきた写真には、茶色い髪をした美人が映っている。青みがかった瞳を見るに、外国人の血が入っているのかもしれない。
「彼女。留美はレストランで演奏スタッフとして働いている。
 その留美に、相馬さんという人が言い寄っているそうなんだ。相馬さんはレストラン部門のチーフだ。
 俺は直接その場を見れていないから、うまくといつめられないんだ。
 礼はできるだけ弾む。なるべくこの船の中で、いろんなスタッフの話を聞いたり、様子をみたりしてくれないか?」
 ひとしきりの説明を終え、彼はあなた方の伝票をもって立ち上がる。
「じゃあ、俺はこれで休憩終わるから。あとは頼む」
 深々と頭を下げた戸川は、足早に歩いていく。

 ここで戸川が提示する情報と依頼内容は以下の通り。

他、戸川が知っている情報ならば交渉技能なしで何でも教えてくれる。
真部信也は基本的にディナーショーの準備中であり、接触できないと教えてくれる。(探索者が望むなら他のところで出しても問題ない)
留美の様子におかしなところがないかと尋ねれば「何か悩んでいる素振りはあるのに、話してくれなくて歯がゆい」「もっと頼れる男になりたい」と教えてくれる。…肉体的な接触も3か月間断られているのだが、それを彼が語ることはない。ダイレクトにセックスレスか聞けば動揺して教えてくれるけど。

セリフ例

「留美のことは真部っていう、俺の友達が教えてくれたんだ。
 真部がいうのには、相馬さんは言い寄っているのを隠していないらしくて。それでレストラン部門全体の空気がおかしい、いやがらせ…ってほどじゃない、微妙な空気で留美が苦しそう、らしい」
「嫌がらせを受けてるなら話してくれっていったんだけどさ。そんなことはないって笑ってて。
 心配だって問い詰めているうちに……。…つらいなら一緒に転職しよう。ついでに結婚しよう。って…つい、勢いでプロポーズをしちまって…」
「すごい怒られた…きちんと貯金とかしてるのかとか仕事は大事にしなさいって怒られた…指輪は受け取ってもらった…でも怒られた」
「相馬さんの写真は持ってないけど、服装が他と違うからすぐわかるんじゃないかな。顔もかっこいいし」
「相馬さんのことは、別にどうでもいいんだ。あの人、ファンが多いから、そのファンに嫌がらせされてるんじゃないか、って心配で…!
 相馬さんが好きになったなら、留美はきちんと俺に別れてくれっていってくれるよ。心変わりしてないなら俺たちの問題だろう?」
「彼女は仕事が、演奏が何より好きだから。職場でつらい思いしてほしくないんだ。いつも全力で演奏しててほしいんだ」
「最近顔色も悪いし…心配だし…そのためならいくらでも転職…っていったら怒られたんだよなぁ…!」

「俺と留美が付き合ってるのは伏せてる。…昔職場恋愛で嫌なことあったから、いいたくないんだってさ」
「真部の話だと、相馬さんに『付き合ってる相手がいるからお断りします』っていってるらしいけど…それじゃあきらめてくれないらしいよ」
「相馬さんに? …うん、一度、聞いてみたけど。…笑って「忙しいからまた」ってさって言った」

 このシーンの目的は探索者に<適当にそのあたりの人間に話を聞くと情報が集まる>と伝えることだ。
 それさえ伝わるならいくらでも内容をかえていただいて問題ない。

船の探索

 船の探索はディナーショーまで一人2か所行えると伝えてほしい。
 流れとしては<1か所探索→夕日が沈む描写→2か所目探索→ディナーショー>
 生き残ることに情報が必須なシナリオではないので、でない情報があっても気にせず進めてほしい。
 PLにもこのパートはただの情報収集と船で遊ぶパートだと伝えたほうがスムーズかもしれない。

夕日が沈む描写

 あなた方は、船に設えられた窓から夕陽が差し込んでいることに気づく。
 差し込む、否。夕日がゆっくりと海に沈んでいく。
 町の喧騒は遠く、一面見えるは海ばかり。オレンジ色の輝く水面は美しく、このツアーが人気だという戸川の言葉もうなづけるだろう。

 スタッフ控室・操舵室・コンサートホールは基本的に立ち入り禁止。適切な技能があれば許可しても構わないが、さほど良い情報はない。
 船の探索で出る情報は、すべて形を変えるが同じだ。
 場所や聞いた人に応じて情報を開示してほしい。

噂話一覧

探索可能箇所 【2F】
レストラン(コンサートホール)
バー
【1F】
玄関ホール
オープンデッキ
喫茶店
サロンルーム
トイレ(男女別)
操舵室
スタッフ控室

 相馬は面倒見がよく、自信にみちあふれた人気のある人物だが、傲慢で鼻持ちならない男であるのもまた周知の事実だ。
 相馬に好意を抱いているスタッフの噂話を聞くなら、相馬に言い寄られているのにふるなんてありえないあ・容姿をねたむ情報といった情報が出てくる。
 留美の実力を認めている・相馬をよく思っていないスタッフ・相馬と距離があるスタッフに尋ねるならば、相馬のやり口が強引であることがわかる。

 相馬のやり口に関しては、ここで情報を抜けなくてもディナーショーで真部が語ってもくれる。できれば優先的に留美の悪い噂を出してほしい。

 どこに行っても同じ情報が出てくるが、サロンルームに行くとサロンルームに後で武器になるものが置いてあることがわかるのでちょっと便利。

2F・レストラン

 レストランはディナーショーの準備中ということで、スタッフに止められる。
 中で忙しく準備をしているスタッフの姿や、リハーサルにいそしむ演奏スタッフの姿は少しだけ見える。
 こっそり入るのは不可能だろう。
 →<幸運・聞き耳・任意の技能>でスタッフの噂話を入手。

2F・バー

 落ち着いたクラシックが流れるバーカウンターがある。
 カウンターの奥ではマスターがニコリとあなた方を迎えてくれる。
「いらっしゃいませ、ご注文はいかがなさいますか?」
 →留美の演奏が評判になっているなど、当たり障りのない情報であるならば技能不要で教えてくれる。
 相馬が言い寄っていること・留美の立場が難しい立場であることは「依頼を受けている」という宣言と<KP任意の交渉技能>が必要だ。
 酔っ払いもいると思うので、そちらに話が聞きたければ、医学や応急手当が適切と思われる。
 マスターは中立の立場であり、留美のことも相馬のこともあまり悪く言わない。
 戸川に比べればレストランスタッフと接する機会が多いので、主にレストランスタッフが最近微妙な空気になっていることを教えてくれる。

1F・玄関ホール

 観葉植物や絵で飾られた玄関ホールは多くの人が行きかい、にぎやかだ。
 奥には2階へと続く螺旋階段があり、人の行き来も多い。  客層はファミリーや友人同士、カップルまで様々だ。単身の客ももちろんいる。
 服装はカジュアルで、気軽に楽しめるディナーショーであることがうかがえる。
 →ここではスタッフと会話したければ<交渉技能>で可能だし、お客にオーケストラの評判を聞くこともできる。
 割と誰でも出しやすいエリアなので、PLが欲しそうな情報・KPの出したい情報を出せる。

1F・オープンデッキ

 オープンデッキに出ると、晴れた空の下、パラソルが鮮やかだ。
 多くのお客やスタッフが行きかい、この船の人気がうかがえる。
 *ここには救命ボートや浮き輪がある。無理に出す必要はないが、脱出経路を気にする探索者がいたら解説していただきたい。
 →ここで客に話を聞くなら、留美の演奏の評判、ツイッターやフェイスブックで人気を集めていることがわかる。  スタッフに話を聞くなら、相馬に関するあまりよくない評判が入手できる。
 相馬はレストラン以外の若いスタッフには「自信がありすぎてちょっと近寄りがたい」という評価を受けているのだ。なお、上司受けはすこぶる良い。
 とはいえ、相馬に関する噂がほかで入手出来ている場合は留美に関する情報を優先してほしい。

1F・サロンルーム

 一歩サロンルームに足を踏み入れると、ふわりと強いユリの香りがあなたがたを迎える。
 大きな花瓶のわきには、槍を構えた古めかしい鎧*が部屋を守るようにして鎮座している。
 他には、テーブルがあり、椅子があり、窓がある。この船の窓はどれも大きめで、海からの眺めを楽しめるだろう。
 レストランで海上披露宴を行うときなどは、ここがゲストの控室になるらしい。
 あなた方がそのようにして部屋の内容を把握したとき、後ろから声がする。
「お客様、こちらの利用は予約制となっておりますが、いかがなさいますか?」<
 →ここでは掃除をしにきたスタッフから話を聞ける。スタッフ真部でもいいし、留美のことをよく思っているものでもいいし、悪く思っているのでもいい。
 なお、ここの鎧は探索者がライフルを持っていればライフルのレプリカを構えているし、レイピアを持っていればレイピアを構えているし、杖を構えていれば棒を持っているし、刀技能餅なら鎧武者になる。

 サロンルームは本シナリオの武器調達部屋だ。拳銃技能餅がいれば奥に拳銃のレプリカを展示していればいいと思う。性能はKP任意のモデルガン。
 シナリオ作者的には槍やレイピアが絵になるので推し攻撃手段。拳銃技能持ちの探索者はボディチェックするシーンはないから自力でもってきてほしい。

サロン室の武器の例

槍のレプリカ…1d5+db 耐久10(刃はつぶされている)
レイピアのレプリカ…1d3+1+db 耐久10(刃はつぶされている)
騎馬用サーベルのレプリカ…1d4+1+db 耐久10(刃はつぶされている)
鉄でできた杖…1d6+db耐久10
摸造刀…1d5+db 耐久10(刃はつぶされている)
ライフル・ショットガンのレプリカ…1d6+db(ライフル技能で殴ることができる・銃弾はこめられない)
拳銃のレプリカ…1d3の弾を出せるようだ。(10発)

1F・トイレ

 何の変哲もない清潔なトイレだ。<このトイレはスタッフが使うこともございます>とある。
 →スタッフの噂話が足りていなければこちらで出しても構わない。
 あとは酔っ払いの快方に使う。

 ほかの場所は基本的に立ち入り禁止なので、適当にスタッフがいるとでもして止めてほしい。
 セッションの雰囲気が悪くなるようならば入ってもらって構わないが、必要な情報はそこにいかずとも十分に手に入る。
 もし「真部信也」のことが気になるPLがいるようであれば、オープンデッキやサロンルーム付近で彼に出会ってもらって構わない。

ディナーショーに

このシーンの目的は「留美に近づき、悪臭をかがせ、深きものであることをPLに気づかせる」と「真部から相馬の行っている行為を聞くこと」だ。
出目が振るえば留美が日米ハーフであることや整形をしていることがわかるだろう。

描写例

 夕日が沈み、夜の海を行く船の上、ディナーショーがはじまる。
 管楽器とピアノによる美しい演奏と、おいしいフランス料理を楽しめる。
 窓をみれば、夜景は遠く。
 またたく星は美しく、幻想的だ。


オーケストラについて

 オーケストラ構成 1名ずつの簡易的なもの
 フルート、オーボエ、クラリネット・トランペット・トランペット・ティンパニ・弦楽五部(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスがいる。
 曲に集中する、あるいはパンフレットを見ると、バッハが多いようだ。
 →聞き耳・演奏にかかわる技能→特に、J.S.バッハ:「管弦楽組曲第2番」より“バディネリ” はフルートの演奏がすばらしかった。

メニュー表

・前菜
   …旬野菜のゼリー寄せ
・スープ
 カリフラワーのポタージュ
・ポワソン
 …スズキのムース仕立て
・ソルベ
 …ザクロのシャーベット
・アントレ&パン
 …牛フィレ肉のステーキ わさびを添えて
・デザート
 …レアチーズケーキ&あまおう

料理の描写

オードブル
 旬野菜のゼリー寄せは、色鮮やかでうつくしい。赤や緑の野菜は、柔らかなゼリーの下でシャキシャキとおいしい。
スープ
 カニフラワーのポタージュは、なめらかに喉を通り過ぎる。かすかな甘さは幸福な気持ちにさせてくれる。
おさかな料理(ポワソン)
 スズキのムース仕立て。上には大きなホタテのソテーがそえられており、めっちゃおいしい。
 頂上にかざりのように立っているのは、食べるとどうやらジャガイモだ。カリカリでおいしい。上にかかってるソースもおいしい。おいしい。
ソルベ
 真っ赤な色が鮮やかだ。食べるとびっくりするほどすっぱく、不快ではない。
 ザクロのシャーベットと書いてある。
肉料理(アントレ)
 牛フィレ肉のステーキ。
 ナイフの感覚がないほどに柔らかく、上にかけられたソースがおいしい。
 付け合わせのホワイトアスパラのソテーもバターたっぷりにおいしい。
 パンはかりかりのフランスパンだ。カリカリだ。
デザート
 チーズケーキと苺だ。
 レアチーズタイプのケーキで、とってもなめらかで濃厚。
 上にかかっているのはオレンジのソースで、とってもおいしい。
コーヒー
 おいしい。苦味が強いタイプだ。

 適当な食事の最中・あるいはレストラン入口のお酒を提供しているエリアで真部(戸川の友人)が探索者の近くにやってくる。
 彼は相馬を嫌っているわけではないが、戸川のことを心から案じているため、相馬に関する評価は辛口である。
 留美のことは「きれいで仕事熱心な人」という印象。好きでも嫌いでもない。

真部の反応表・セリフ例

 スタッフを呼び止めるなら、昼間と同じような話を聞ける。
 周りのお客もスタッフを呼び止め、演奏の感想などを言っている。
 (配膳のみのスタッフは白いブラウスとスカート。演奏もしたスタッフは白いブラウス&黒いジャケット・青いスカーフをしている)
 PLのロールの区切りで演奏が終わる。演奏を終えた演奏スタッフは、制服のまま配膳へと回る。会いに行けるアイドルならぬ、会いに来るオーケストラスタッフ。留美以外を呼び止めるならば、留美の演奏を称賛する情報が出る(相馬についてはあまり好意的ではない)。
 留美に話かけるなら、演奏に関すること・ハーフであることには技能不要で会話に応じる。それ以外は技能に成功して去って行ってしまう。

 ただし、彼女が探索者の席に近づいた時点で「化粧が濃い・香水の香りが職場に不適切」であることは技能不要でわかる。「最近体調悪いので、ごまかしている」「香水は出る前にひっかけてしまった」と回答するが、実際は深きものの特徴を隠すためだ。(要心理学)*この日は少し深きものへの変貌が進んだ日なので、余計につけてしまったのだ。化粧が濃いとは言われているが、香水に関しては噂にはなっていない。

描写例

 演奏を終えたスタッフは、そのままの服装で配膳に回っているようだ。
 その中には、写真で見た留美もいる。

「こちらコーヒーでございます」
 留美がコーヒーを出した瞬間、ふわりと広がるにおいがある。
 コーヒーではなく、花のような香りだ。
 おそらくは香水。だがその香りの強さは、食べ物を扱う職種には不釣り合いなものに思える。
 近寄ってわかる香りが、もう一つある。
 こちらはコーヒーを運び、少し顔が近づいた一瞬の出来事ではあったが、ずいぶんと化粧が濃い。わずかにファンデーションであろう香りがする。

留美の反応表・セリフ例
 留美と話している最中、相馬の視線を感じるかもしれない(アイディア・あるいは相馬を気に掛ける宣言で情報が出る)

ディナーの終わりに

 ディナーを終えたタイミングで、探索者に留美が接触してくる。戸川がメモを見るまで探索者と一緒にいることで、探索者に相馬から戸川を守ってもらうことが目的。
 この時点で彼女は戸川のロッカーに肉筆のメモを仕込み、相馬に戸川を見張らせ、戸川が探索者たちと合流するタイミングで乱入するように頼んでいる。
 ちなみに相馬はディナー中に1Fホールの観葉植物の中に爆弾をセットしている。目的は留美を殺し損ねた時に一緒に死ぬこと。
 拳銃と同じく、彼の学生時代の悪い仲間から仕入れた爆弾である。…が、そこまで強力ではないので死人はでない。
 難易度をあげたければ、探索者は逃げ損ねてDEX*5などを要求してもおもしろいかもしれない。
 後味が悪いシナリオにしたければ、相馬の設置した爆発により死人が出たことにしてもいいだろう。

描写例

 ディナーを終えたあなたがたに、留美が近寄ってくる。
 人目をさけるようにしながら、彼女はそっとささやいてくる。
「真部君に話を聞きました」
「少し、私の話を聞いていただけませんか?」
 近い距離で見たその顔は、ディナーの時よりも青白く見える。

 あなた方をつれて、留美は船の中を歩く。
 まるで仕事中ですという顔でジャケットを着たまま螺旋階段を降り、1階の廊下を歩き、サロンルームの前で足を止める。
 そのまままるで仕事中ですという顔で入口にはってあったロープをまたぎ、ドアを開け、あなた方を手招きする。
 あなた方が部屋に入れば、彼女が重たい扉を閉める音が響く。
「これで、スタッフは来ません、ロープがあるからほかの人は来ないでしょう。予約もありませんしね」
 ほっとしたような顔をして、彼女はジャケットを脱いでスカーフをといた。
(この時点で彼女の首元は人間のまま。戸川の目の前で殺されるために、彼女は制服であるスカーフはここで脱いでおきたいのだ)

ディナーの後で

描写例

 誰もいない部屋に、波の砕ける音が響く。
 明かりをつけず、月明かりだけを頼りに、彼女はゆっくりと口を開く。
「戸川…いえ、晃一の頼みを聞いてくださったそうで、ありがとうございます」
「でも、どうか、手をひいてください。私は大丈夫だと、伝えてほしいんです」

「チーフ…相馬さんには、正直迷惑しています」
「それ以上に怖い。何度も断っているのに、あきらめない。付き合っている人がいるといっているんですが…それが晃一としられたとき、危害を加えられるのではないかと、怖いんです。だから、晃一にも何も伝えたくないんです」

 ここでの留美の目的は「戸川がこの部屋にやってくるまで探索者を自分の元にとどめること」だ。質問には比較的素直に答える。
 戸川のことが心配なことと、相馬が嫌いなのは本心なので、基本的に憂い顔だ。
 彼女の反応はこちら
 PLの疑問がそれなりに解消できたと判断したところで、下記の描写を入れてほしい。

描写例

 話し声がとぎれる。
 船が波をくだく音、風の音が響く。
 大きな窓からさしこむ月明かりに照らされた女はそっと瞼をふせる。
 長いまつげが影を作り、やけに儚げに映る。
 同時に、ドアが開く音が響く。
 あなた方が振り向くならば、そこには戸川がいる。
 戸川は不思議そうな顔をして、あなた方に問いかける。
「なんで、お前らと留美が?」
 お前こそなぜいると問いかければ、彼はさらに不思議そうな顔をする。
「俺は留美に呼ばれたんだよ。このメモ。留美のだろ……?」
 留美を見るならば、真っ青な顔をしてつぶやく。
 私、そんなもの、書いていない、と。

実際はメモを書いたのも、戸川のロッカーに入れたのも留美だ。戸川はアホだが、恋人の筆跡を見間違えるタイプのアホではない。

相馬との戦闘

 戸川が入ってきたのとほぼ同時に、相馬が入ってくる。
 探索者が戸川と留美を即閉じ込めて廊下に出たいと望んだ場合は、DEX*5の処理になる。
 相馬は留美に一発目の銃弾を向けるし、意識がある限りは留美を狙い続ける。
 留美はこの時点で人間の耐久値なので、出目によっては普通に死ぬ。
 正確には、相馬が留美を狙う限り、彼女と相馬の直線上に入ってかばうので、探索者が相馬をしとめるのに手間どる・NPCをかばわなければ戸川が死ぬ可能性は割と高い。
 とはいえ、そのあたりの裁量はKPにおまかせする。

描写例

「彼は私が呼んだのですよ」
芝居がかった口調で相馬が言う。
まるで芝居のように、銃口を留美に向けて。
「私が彼を呼びました。あなたの願いをかなえるために呼びました。
 ええ、約束したでしょう? 私があなたの願いをかなえると。そのために来たのですよ」
 にっこりとほほ笑む彼の背後には、この船のスタッフの制服に身を包んだ男が二人いる。
 一人はナイフを構え、一人はこぶしを構えている。
「私が、私こそが。あなたの願いをかなえることができるのですよ」
 戸川に庇われた留美は、必死に戸川から離れようとしているようだ。相馬の声には何も返さない。
 離れて、撃たれる、お願いだから。
 それだけ繰り返し、必死にもがく恋人を、戸川は盾になるように抱きしめている。
 相馬の指が、ゆっくりと引き金にかかる。
 戦闘開始だ。

戸川・留美の戦闘中の行動

探索者がなにもいわなければ、彼らは回避に専念する。
サロンルームにはテーブルがあるので、それを盾にすればまず攻撃は当たらないだろう。
本シナリオは戦闘を楽しめるほど複雑なわけではないので、探索者が「二人を後ろに下げます」とでも宣言した時点で探索者が邪魔でNPCが攻撃できないという処理にしてもらうことを想定している。
戸川・留美を囮にした場合は、相馬が誰よりも優先して留美を狙う。男二人は「船のスタッフの制服を着た人間を襲わない」ため戸川と相馬は攻撃の対象に入らない。

逃げろと指示するなら、戸川は従がう。男・相馬のうち一番DEXが高いものとのDEX対抗になる。
ただし、この場合、留美が戸川を引き留める。「怖くて立てない」と戸川にすがりつく。相馬に自分を殺してもらうための嘘だが、見抜く余裕は戸川にはない。
結果として、留美のことは戸川が抱えることになるので、KPが適切と思われるマイナス補正を入れてほしい。

戦闘終了条件

男1・2に医学他KPが適切と判断する技能をふれば「なにか人間の限界をこえて行動していること」が。
精神分析・心理学・他KPが適切と判断する技能をふれば「目は血走り、息は不自然に荒く、とても正気には見えない」ことがわかる。

NPCデータ

相馬
STR:12  DEX:10  INT:16 アイデア:80
CON:9  APP:16  POW:10  幸 運:50
SIZ:15 SAN:30 EDU:16 知 識:80
HP:11
MP:8

ccb <= 30 [拳銃]
ccb <= 20 [回避]

男1
HP9(18)M P:10
STR:10  DEX:10  INT:10 アイデア:50
CON:8  APP:10  POW:10  幸 運:50
SIZ:10 SAN:99 EDU:10 知 識:50
H P:9    回避:dex*2  ダメージボーナス:0

ccb <= 30 「ナイフ」
1d6+db 「ナイフダメージ」 ccb <= 20 [回避]
*本来の狂戦士薬にはない処理だが、5ターン経過後、気絶する。

男2
HP:11(22)MP:10
STR:12  DEX:11  INT:10 アイデア:50
CON:10  APP:10  POW:10  幸 運:50
SIZ:12 SAN:99 EDU:10 知 識:50
H P:11  M P:10  回避:dex*2  ダメージボーナス:0

ccb <= 50 [こぶし+マーシャル共に50]
2d3 [こぶし・マーシャルダメージ] ccb <= 22 [回避]

*本来の狂戦士薬にはない処理だが、5ターン経過後、気絶する。

爆発と脱出

 戦闘終了後、男や相馬への応急手当てを望む探索者がいるならば通用する。彼らは皆人間だ。
 起きた時のために縛りたいといった探索者がいるならば、壁にロープでつるされた浮き輪でもつるしておけばいいし、カーテンでも有効活用してもらえばいいと思う。KPの裁量でこの場ではやしてください。
 PLの戦闘後の処理がひと段落したら、爆発が起きる。

描写例(相馬気絶・死亡済み)

 男たちと相馬を無力化した後、あなた方はその処遇に迷うかもしれない。迷わないかもしれない。
 なんにせよ、悩む時間はない。
 あなた方が何かを話すより早く、どこからか爆発音がする。
 おそらくは、1Fのスタッフルームの方向だ。
 次いで、大勢の足音や誰かの声が聞こえてくる。
 分厚いサロン室の扉のせいでよくは聞こえないが、スタッフが避難指示を出していることは容易に想像がつく。
「なにが、なんだかわからないが、逃げよう、違う。ごめん、みんな。留美を頼む」
 茫然と腰をぬかした留美をあなた方に預け、戸川は早急に扉を開ける。
「相馬チーフとそこの二人は任せてくれ、すぐに人呼んでくる! そいつらとその三人と、すぐに逃げる!」

すぐに逃げるなら

 あなたがたがサロンルームから出ると、テキパキと避難を支持する声に従うことになる。
 操舵室に用意されている無線で、すでに救援は呼んだ。
 この船からは脱出し、救命ボートにゆられることにはなるが、20分ほどで救援がくるとのことだった。

相馬達を置いていきたくないのなら

 あなた方が止める間もなく走り去った彼は、すぐに男二人を呼んできた。
 服装からして、厨房スタッフだ。
 彼らはしばられた3人に目を丸くするが、すぐにその体を持ち上げる。
「ありがと、見張ってくれてたんだ…。…3人が武装してみんなを襲ったことは話した。もう、大丈夫」
「スタッフが乗客より先に逃げるわけにはいかないからさ。先にいってくれ」

「…えっと、ほら。留美は…スタッフだけど…えっと、い、今休憩中だからセーフだって…!(裏があっての発言ではない。ただ単に留美を先に逃がしたいだけである)(同席しているスタッフも腰の抜けている女を引き留めはしない)」

脱出は宣言のみで行うことを想定しているが、スリルが欲しければ船を炎上させ、DEX*5でも要求すればいいだろう。
この船はゆっくりと30分後に沈没するので、場合によっては探索者ロスト。
相馬達をここに置いていった場合は、確定で死亡する。

後の展開的に面倒くさいので、戸川はここで別行動をさせた方が楽。
留美に関しては、陸に戻ったらすぐに「私はあの三人のしたことを説明しなきゃいけないから…」と去っていく。
ここで彼女を引き留めても、多くは語らない。
心理学をふるならば「爆発からの様子が、どうにもわざとらしい」「何かを隠している」といった情報が出る。

留美の告白

陸に戻った探索者が相馬との会話を望むのならば、下記のような対応をされる。
>>相馬の反応表・セリフ例
「今日はもう帰る」「戸川に会いに行く・探す」「留美を探す」といった宣言があった場合、下記の描写にうつる。

 ちなみに、下記のイベントを無視した場合も、戸川は生還するし、探索者に約束の謝礼をする。(生還SAN報酬は1d5・神話技能の上昇はなし)
 ただし、どのような技能をふっても彼が真実を語ることはない。

 探索者の一組が相馬との会話・一組が戸川の追跡を望んだ場合は、同時進行でタイミングを調整してほしい。
 KPの趣味やPLのしたいことによるが、留美が深きものであることを告白した直後などの合流を想定している。

描写例

 あなた方が陸に戻り、留美と別れてしばらく後だ。
 あなた方の肩に、どんとぶつかる人物がいる。
 その人物はそれに気づかず、わき目もふらず、港わきの雑木林へとかけていく。
 その人物は、戸川晃一だ。
 あなた方の足元には、彼が落としたのであろうスマートフォンもあった。
<あの場所に来て。私はそこでお別れだから>
 短いメッセージの差出人は、大野竹留美だ。

 あなた方が彼を追うのであれば、見失うことはない。
 彼があなた方に気づいた様子はない。
 彼は後ろなど一切気にせずに走り続け、やがて開けた場所に出る。
 そのスペースに木々はなく、コンクリートで埋められている。そして、波打ち際につまれたテトラポットの上には、留美が立っている。
 月明かりだけが頼りの、薄暗い空間で、彼女とあなた方の目が合う。
「あなた方も来てくれたのですね。…晃一を心配してくれて、ありがとう」
 嬉しそうな留美の声と同時に、戸川はあなた方のほうへと振り向いた。

 ここまで至った留美の目的は「戸川の目の前で飛び込み自殺を図ること」だ。
 探索者に声をかけたのは、探索者をふりまわしてしまったという罪悪感によるもの。
 同時に、飛び込む目に少しでも長く戸川といたいだけだ。自殺の決意はいかなる交渉技能でも覆せない。ただ、同じくらいに戸川と一緒にいたいとも思っている。

描写例

「どうしてこんなことをしたかといえば…私はもう、人として生きていられないからですね」
 留美の手が自身のシャツにかかる。プチプチとボタンを引きちぎり、袖を抜き、上半身がさらされる。
 磯の香りに交じり、生臭い香りが強くなる。
 月明かりをはじくのは、湿った皮膚。否、ぬめぬめと光る、魚のような鱗。
 人の肌にこのようなものが生えているものを見たあなた方は、正気を揺るがされることだろう。
正気度喪失…0/1d4
「これがある。これがあって、私はもうすぐ魚の化け物になる。だから、もうお別れなの」

「私、母に会ったんです。魚の化け物になった母が言うんです。私もこうなると。
 人から正気を奪う薬を差し出して、母は言いました。
 愛した人と、正しくお別れをしなさいと」
「それは、母のように黙っていなくなること? 違う。私にとっては絶対に違う」
「私は、晃一に忘れないでほしい。一生、どんなことをしても。忘れないでほしいの」
「ずっと一緒にいたかった。永遠に一緒にいたかった。
 それが無理なら、せめて、永遠に思ってほしいだけよ」

「だって、母が失踪したとき、時思ったんです。美しいというものは力だと。同時に、愛情とは、もろいものだと」
「もろくて、儚いものだから。きっと、私がいなくなったらなくなってしまうでしょう? そんなのは嫌。そんなのは嫌だから、私、チーフにお願いしたんです」
「コウの目の前で、私を殺して、と」
「そうすれば、晃一は絶対に私を忘れない。痛くて辛くて、忘れられないでしょう? 優しい人だもの」

 薄暗い夜の下でも、女が笑ったことは分かる。
 晴れ晴れと笑った声が響くためだ。
 戸川は何も言わない。先ほどの留美の皮膚の状況が、彼から言葉を奪ったのだと予想できるだろう(短期の発狂。その場にくぎ付けになる恐怖)

この一連の告白のあと、PLが留美との会話を望む間、戸川は短期の発狂に陥る。
このシーンはクライマックスだ「NPCだけで話を進めても仕方ない。PLにロールを楽しんでもらいたい」とKPからアナウンスしてほしい。質疑応答は下記の参照。
>>留美の反応表・セリフ例
PL・あるいは探索者が「そんなこと言わずに戸川の発狂を解きたい。お前の女だろう」という全うな意見の持ち主だった場合は、数秒経過させ我に返らせてほしい。
KPの負担は重くなりそうだが、できるだけPLの要望をくんでくれるとシナリオ作者はとてもうれしい。

描写例

 言葉を失っていた戸川が、一歩前に出る。
「聞いてない。俺は、聞いてない。何も言ってないのに決めるな!
 俺は、俺だって、ずっとお前と…、…お前といられないなら俺も行く! 同じところに行く!」
 声を張り上げる恋人に、留美は悲し気に首を振る。
「私、それが嫌だから、こんなにことしたの」
「なら…、ほかに方法を探す。化け物でいい喋れなくてもいい、いてくれたらいい、いてほしい。
 留美がいない人生なんざ今更いらない」
 一歩、一歩。恋人に手を伸ばしながら、戸川が歩く。
 その分だけ、留美は下がっていく。
探索者の皆さんに強制で目星をお願いします(落ちるんじゃない?と気づいた宣言がある場合は目星不要)

 ここからは大きく「目星に成功し、留美を止める」「目星の成否にかかわらず、留美が海に落ちる」に描写が分岐する。
 生還SAN報酬は1d6で固定だが、海に落ちていく留美を覗き込んだ場合、神話技能が+1される。
 海に落ちていく彼女は、探索者の目の前で深きものへと完璧な変貌を遂げるためだ。

目星成功

 戸川が歩いた分だけ、留美はおびえたように下がっていく。
 あと1、2歩でテトラポットの上から転落することに、薄暗い中お互いだけを見ている二人は気づいていない。

DEX*5、その他適切な技能で留美の転落を防げる(戸川に声掛けする場合は、留美のDEXと戸川のDEXの対抗になる)
ED4-Aに移行

目星失敗

 戸川が歩いた分だけ、留美はおびえたように下がっていく。
 あと1、2歩でテトラポットの上から転落することに、薄暗い中お互いだけを見ている二人は気づかなかった。
 この薄闇の中では、探索者もまた、そのことに気づかなかった。

 一同がそれに気づくのは、留美が落ちていく瞬間だ。

落ちていく彼女に手を伸ばす・すぐに海を覗き込む(戸川は確定でこの処理を行う)

 留美はゆっくりと落ちていく。
 満足げに笑った頬が、抜けるうろこに覆われていく。髪が抜け落ち、顔は魚のようなものへと変わり。目はぎょろりと突き出ていく。
 あなた方は見る。人が人ならざるモノへと変貌する、その瞬間を。
 正気度喪失…1/1d6+1

 変貌を終え、半魚人とでもいうべきソレの瞳がパチリと瞬く。それきり、あなた方を見ることはない。海のほうを、その底を。そこにいるであろう同胞へと向けられたようだ。
 悪臭があなたがたの鼻を撫でるが、やがて磯の香りに交じる。
 彼女の行方は、何もわからない。
 …ここからED4-Aに移行

彼女が落ちていくのを見ない(END4-B)

 彼女を引き上げるためだろう。手を伸ばした戸川が、数秒ののちにあなた方のほうに振り向く。
 目の端にわずかに涙を浮かべ、ゆっくりと声を出す。
「みんな、こんなことに巻き込んで、ごめん」
「…相馬チーフから、守ってくれてありがとう」
ED4-Aと共通(ただし、探索者のロールによって後追いなどもあり)
この場合、人間の深きものへの変貌を見ないため神話技能は増えない。

ED5…留美を探索者が殺す・戸川に殺させる

 あなた方が彼女を殺めることを選ぶなら、彼女は嬉しそうに微笑む。
「ありがとう。…あの人よりあなたに頼めばよかったわね」
(抵抗はしない。この時点で彼女の耐久は人のままである。戸川は止めるが、彼には人を傷つけるための技能もなく、探索者を殺せるような精神はない。留美をかばって殴るくらいだ)

描写例(探索者が殺す場合)

 あなたは、人ならざるものへと変わろうとする女の首に刃を添える。
 刃を添えればわかる。そこはあの船にいた時より、少し色が変わっている。わずかにぬめり、おそらくほどなくして鱗が生えるのだろう。

 留美は抵抗しない。ただ、拘束された戸川にほんの少し名残惜し気な目線を送り、そっと目を閉じる。
 白い瞼が月明かりに生える。長いまつげもまた、同様に。
 白く、やわらかく、地上の光を照り返す。
 そうできるうちに、あなたは手を動かす。
 わずかな抵抗を持って引き裂かれた喉から出る血液は、赤い。
 あなたがたとえ日常的に人を殺める立場にいたとしても、そうでなくとも。生理的嫌悪からは逃れられないだろう。
正気度喪失…0/1d3

 呼吸をやめた女は、一拍置いて崩れ落ちる。
 赤く、人の血を流したまま地に伏せる。
 その姿を、彼女の愛した男が見つめている。
 ボロボロと涙を流す彼が、彼女を呼ぶ声が響いた。

描写例(戸川に殺させる場合)

条件は「戸川に関する説得・言いくるめ・その他KPが適正だと感じる技能にクリティカル」
 あなた方の見ている前で、戸川はゆっくりとナイフを留美へと向ける。
 背中を見せた彼の表情はわからない。ただ、全身はカタカタと細かく震え、わずかな嗚咽が聞こえる。その表情が絶望に染まっていることは、想像に難くない。
 それでも、彼は彼女へとナイフを突き刺す。
 一拍置いて、ふらりと女が地面へと倒れこむ。
 生きるのをやめた瞳が、あなた方のほうを刹那見やる。
 あなた方がたとえ日常的に人を殺める立場にいたとしても、そうでなくとも。生理的嫌悪からは逃れられないだろう。あるいは、そのようなものよりも。死にゆく女が幸福そうに微笑むことにこそ、嫌悪を覚えるのかもしれない。
正気度喪失…0/1d3

 呼吸をやめた女を、戸川がそっと抱き起す。
 彼はあなたがたを見る。
 死人のような眼で、あなた方を見る。
「…願いを、かなえるのが、最善、だと思ったけど…キツイな。…生きてられそうに、ない」
 ふっと笑った彼は、そのまま一歩下がる。
 そのまま、まっさか様に落ちていく。
 ばちゃん、と二人分の体が海面をたたく音が響く。
 後は、すべて波にのまれるだけ。波の砕ける音だけが、あなた方を見送った。

(探索者が望むならば、DEX*5で落ちる前に引き寄せることが可能。その場合、不定で口のきけない状況で戸川が生還し、探索者がかくまわない限り彼は自首をする)

 SAN報酬………1d6
 神話技能の上昇はなし。

 この場合、留美は深きものへと変貌を遂げず、人のままに生命を終える。すでに生えた鱗はそのままだが。
 探索者が罪に問われるかどうかは、KPの裁量や情報にお任せする。

 ただ、戸川が探索者を罪に問おうと動くことはないだろう。死体をそのままにするなら「自分が来たときは死んでいた」とだけ司法に証言する。
 探索者と交流を持つことは今後一切ない。報酬に関しては、脅しつける・強奪するに相応する技能に成功しなければ、払わない。(適当な戦闘技能を利用してください)

 彼は心のどこかで、彼女が人のまま生きられないことを受け入れている。
 それでもあきらめたくないから、最後までともにと叫ぶ。
 おきてしまったことを責めても仕方がない。
 けれど二度と顔など見たくない。といった心境。
 …余談だが、彼が狂気に陥り、留美を取り戻すために狂気的な行動を選ぶといったパターンは存在しない。
 彼はよくよく理解しているためだ。彼女が「人の好い、少し頼りない戸川晃一」を愛していたことを。
 戸川が留美を殺す(彼女の願いをかなえる)ことはよっぽどのことがない限り発生しない。
 PL・探索者がそれを望み、説得などの技能にクリティカルしたならば、心変わりをしてもよいだろう。

 しかし、彼は人を殺して正気を保てるタイプではない。愛し、守りたい相手ならばなおさらだ。少なくともシナリオ中でマトモに意思疎通を図ることは不可能になる。その卓の雰囲気・探索者の働きかけで変わる可能性はあるが、基本的に一生服役後精神病院。状況によっては服役なしの精神病院行きとなる。

ED4…留美の告白を最後まで聞く

 落ちそうになる留美に、〇の手が届く。
 彼女を陸に戻すなら、彼女はうつむき何も言わない。
 何も言わなず、あなた方がそれでよしとするならば、戸川が彼女を抱きしめる。
「頼むから、頼む。俺と一緒に生きてくれよ。どんな形でもいいから」
 強く彼女を抱きしめた彼の肩が、ビクリと跳ねる。
 あなた方がそれになにか反応を示すより早く、戸川があなた方のほうへと突き飛ばされる。
 彼を突き飛ばした分、彼女は落ちる。
 海へと真っ逆さまに落ちていく。
(ここで覗き込むのであれば深きものへの変貌を目撃する(END3-A)

 突き飛ばされた戸川の腹は、大きくなにかに刺されている。
 ナイフなどではない、なにかの生き物の爪で咲かれたような傷跡だ。
 もしも彼をこのままにしておく、あるいは海へと飛び込ませるなら、そのまま死亡するだろう。
「留美が、言った」
 腹から血を流し、戸川はつぶやく。
「さよなら、追ってこないで、と」
「これじゃ、追っていけないな。海に入ったら死ぬ、よな」
「死ぬのは、困るな。死ぬために、追うんじゃない」
「俺、ちゃんと、傷を治して…今度こそ、あいつと、最後まで話して…」
「一生あいつと、一緒にいたい」
「だから探す。だからここでは死なない。死んでたまるか」

「生きてても、死んでても。俺の人生は、あいつにやるつもりだったんだから。最初からさ」
「ずっと一緒に、いたいんだよ」

 深く息を吐きだして、戸川は意識を失う。
 傷の深さというよりは、痛み・あるいは精神的なショックだろう。すぐに病院につれていけば助かるはずだ。

 その後、相馬は銃器の所有・部下への薬物投与・船への爆弾の設置の咎により実刑判決を受けるらしい。
 彼の証言がどの程度信用されるかはわからない。
 なんにせよ、彼が探索者たちを害することは、数年の間物理的に不可能だ。
 あなた方は問題なく日常に帰ることができるだろう。





 戸川もまた。あの後日常へと変える。
 あの一件の死傷者はゼロとなっている。
 戸川が怪我をしたのは、海辺で転び、鋭利ななにかを下敷きにしてしまったということになったらしい。

 大野竹留美についてはあの後、戸川によって彼女の父に連絡が入り、父により失踪届が出ている。
 傷を負っていること、留美を探し回っていたことから戸川にも嫌疑が向いたらしいが―――…彼女の父が強く否定したそうだ。
「あの子は私にあっても、その男の話ばかりするのでね。なにを馬鹿なと怒られる」
「それに…妻がいなくなった時と同じ顔をしている君を疑うのは、私にはできないよ」
 唯一の肉親である父の意向、および、傷が既存の刃物ではなく、何か大型の生物のものであることもまた、痴情のもつれという疑いを払拭することに役立った。
 彼は、今も彼女を探しているそうだ。生涯探し続けるそうだ。

END4-A
SAN報酬………1d6
神話技能……人の深きものへの変貌を目撃したことにより+1
END4-B
SAN報酬………1d6

 探索者がすべての真実を知るエンド。
 深きものとなった留美がどうなるかはシナリオ上では設定していない。戸川がその後どうするかも同様だ。
 もし探索者が途中で男1・2を殺害してしまっている場合でも、薬物接種の所為になることを想定している。このシナリオで起きた現実的な犯罪は大体相馬の所為にすることをおすすめしている。…が。
 重火器で穴だらけとかだと過剰防衛に問われる気もする。そのあたりはKPの処理にお任せする。なんかもうごまかせそうになかったら死亡した男A・B・相馬は爆発のどさくさで焼死体にでもして船と一緒に沈めるのがPLに優しいと思う。

>ED3…留美に司法の裁きを受けさせる

 留美の身柄を確保すれば、彼女はあがき、もがく。
 けれども逃げることはできない。―――はずだった。
 あなた方が確かに拘束した女の皮膚が、ぬるりとしたものに変わる。
 人の身の丈のまま、その皮膚が鱗で覆われ、生臭い悪臭をまき散らす。

 人が目の前でおぞましい半魚人になり果てる。
 そのことに、あながたは少なからずショックをうけることだろう。
正気度喪失…1/1d6+1
 戸川は確定で発狂し、恐怖でくぎ付けにされる。
 もしも探索者が全員発狂し、物理的に彼女を止めることができない場合、彼女はそのまま海に飛び込む。深きものとなった彼女は戸川にも探索者にも関心を示さない。

 探索者が発狂に陥らず、あるいは戦闘可能な発狂を引いた場合は、戦闘開始になる。

 あなた方はそれをとらえようとするだろう。
 だがそれはとらえられたくはない。必死の抵抗を試みる。
 戦闘開始になる。(基本ルルブの基本的な深きもののデータをご利用ください)

END3
SAN報酬………1d6+1
(生還報酬+社会の規範を守ったことへの固定値1)
神話技能……人の深きものへの変貌を目撃したことにより+1

 基本的に、相馬は責任能力があれど本当のことを告げぬ人間として追及されることになる上、留美に薬をもらったことを自白しない。彼女に「自分を殺してほしい」と告げられたことも、ハッキリとは口にしないため(芝居がかったことしか言わないため)ストーカーの妄想として片が付く。
 しかし、探索者が録音・自身が警察・警察からの信頼があるいなどの理由があれば、彼女を司法にゆだねるという発想・あるいは相馬の弁護をさせるといった発想がでてくるかもしれない。
 その場合でるのが、こちらのED。
 深きものをどうにか拘束し、警察に持っていくことへのEDは各KPにお任せする。よほどうまくやらなければ深きものを殺すEDになると想定しているが。
 もしこのエンドのあと、深きものとなった留美を拘束できた場合、戸川は一生彼女に寄り添う。
 彼女はもう、戸川に何の関心もしめさない。深きものは人とコミュニケーションをとる手段を持たない。
 けれど、彼にとってそれは愛した女だ。言葉が通じずとも、自分を認識しなくとも、面影がなくとも。
 いかなる交渉技能を用いても、彼は「彼女が人に戻るもしも」を夢見る。「もしかしたら意識が残っていてわかれたら悲しむかもしれない」と夢見る。
 催眠術・なにかしらの呪文でも使わない限り、彼の彼女への愛情は消えない。
 もしもこのシナリオで探索者が死亡したとしても、である。

ED2…戸川の死亡

 戸川の息がゆっくりと止まる。
 瞬間、相馬の首が飛ぶ。
 かぎ爪に首をはねられた首は、ころりと床に転がる。
 相馬の死体の傍らには、一人の女が立っている。
 女、留美の姿はどんどん変わっていく。
 灰色がかった緑の皮膚は、ツルツルと光っている。
 髪が抜け落ち、魚じみたものへと変わっていく。  体全体に鱗に覆われ、生臭い悪臭があたりを埋める。

正気度喪失:1/1d6
 冒涜的な生き物は相馬を踏みつぶし、戸川の遺体を抱き起す。
 そして、止める間もなく窓を破る。
 窓を破り、留美だったモノは海に沈む。愛する男を抱いたまま。
 あとには、鱗が落ちている。
 生臭い悪臭を放つそれは、ぬめり気を帯びて光る。
 それは海水なのかもしれない。
 あるいは、変貌を遂げた女の涙なのかもしれなかった。

 あなた方は一連の流れで罪に問われることはない。
 船の中で爆発が起き、あなた方はその被害者として保護されることになるからだ。
 爆弾をしかけたのが相馬竜介であることは、指紋などの証拠から明らかだ。
 相馬・戸川・留美は爆発により死亡。
 あなたがたはその被害者。
 それがこの事件の評価となる。

ED2・死亡者3名・探索者生還

SAN報酬………1d6
神話技能……深きものへの変貌を目的したため+1

誰の望みもかなわないエンド。相馬の虚栄心は多少満たされるエンドでもある。
探索者が望み、行動すれば海に沈む前に戸川の遺体を取り戻し、埋葬してやることは可能だ。
留美と会話をすることは不可能となる。

ED1…留美の死亡

 留美の鼓動が止まると同時に、相馬は銃を落とす。
 ニコリと笑い、あなた方に語りかける。
「さて。これで彼女の願いはかなった。彼女の愛は、永遠だ」
「うらやましいよ、君が。いや。うらやましくはないね。君が」
「彼女の願いをかなえたのは、私なのだから」
 優越感を隠さない笑みを、あざけりの声色を受けてなお、戸川の顔色は変わらない。
 自らの腕の中、微笑んでこと切れた女を見つめる。
 パタパタと涙が落ちる。生きるのを止めた白い頬に、戸川の涙が落ちていく。
「ごめん。留美。…ごめん、みんなも、こんなことに、巻き込んで」

 ドサリと二人の男が倒れる。糸の切れた人形のように。
 後に残るのは、抵抗の意思を見せない相馬だけだ。

 あなた方は相馬を拘束するかもしれない。あるいは死亡させるかもしれない。
 確かなことは、あなたがたが彼を片付けようとする間に爆発が起こるということ。
 爆発の規模は小さく、死傷者はでない。
 ただ、あなた方は脱出に追われることになるし、相馬はその後速やかに警察に拘束される。
 人を一人殺し、道の薬品を部下に持った男の末路はまだわからないが、あなた方を害することはないだろう。

 留美は死亡した。
 けれどあなた方は、おかしな噂を聞く。
 あの一件で死んだ女の腹には、魚の鱗が生えていたというのだ。
 そのことを戸川に確認するなら、彼は固く口を閉じる。
「みんな、世話になったな。ありがとう。……留美は、もういない。どこにも」
「だから……ごめん、今はまだ、ほうっておいてくれ」
「死なないよ。死ぬわけないだろ」
「俺が死んだら……留美のこと、誰が思い出してやれるんだよ」  語る声は暗く沈み、まるで海の底のように冷え切っている。
 けれど、その目に絶望はない。静かに澄んで、正気のまま。ただただ愛した女の死を見つめていた。

死亡者一名・探索者生還

SAN報酬………1d3

 留美の望みがかなったED。
 探索者が望み・交渉技能を振らない限り戸川は後追いの類をしない。留美のことを覚えている人間が、一人でも多く生きてほしいからだ。
 留美の望んだとおり、留美のことを考えて生きていく。
 留美が生きていても死んでいても深きものになっても、戸川の愛情は変わらない。

背景・報酬

報酬早見表

一律の報酬………SAN1d6
深きものへの変貌を目撃した…神話技能+1
留美(深きものの姿を拘束した)…SAN報酬固定値で+1

使用AF………狂戦士薬(キパコン106P)*オリジナル要素あり 詳細は著作権の観念から伏せるが、キパコンのデータ通りにCONと耐久が二倍になる。
薬の効果が消えればこの効果は消滅する(オーバーキル)が、このシナリオではそれまでに病院で適切な処理を行っていれば犠牲者は助かることを想定している。後味を悪くしたければ死亡させてもよいだろう。
オリジナル要素として今回の狂戦士薬を摂取した人間は戦闘開始5ターン後に気絶する。
この船の制服を着た人間は襲うなという暗示もかけられている。探索者が制服に着替えていた場合は「勘がいい…!」と称賛してほしい。

背景

アメリカ某所出身の女が、日本で家庭を持った。
自信が深きもの混血児であるとは知らぬままに娘を設けた。

母親の変貌は、娘が9歳の頃から始まり、10歳にて失踪した。
父親は嘆き、彼の親族は噂した。
最初から居所のしれぬ、得体のしれない女だった。
つり合いも取れていない、あんな凡庸な女、出て行って済々した、と。

娘はそんな環境に嫌気がさし、高校卒業とともに渡米。
母の面影を追っていたという意味も、ある。
同時に、整形をし、母に似ていると言われた顔を捨てる。
彼女にとって美しさは力であり、自分を捨てた母の顔を捨てたいのもまた、本心だったために。

アメリカでフルート奏者として過ごすうち、とある男性二人に言い寄られる。
彼らは彼女の言葉も聞かず、まるでゲームよろしく彼女を取り合い。
ゲームよろしく、幼稚に撃ち合った。

あとは、シナリオで彼女が語った通り。

アメリカがどうにもつらくなった彼女は、日本に戻り、戸川と出会う。
ほどなくして引かれあい、幸せに暮らし、生涯を共にすることを意識し始めた頃。
彼女にも深きものの特徴が表れた。

それと同時に、彼女のもとに一人の深きものが訪れる。
名乗りはしない。
もう名前など「それ」にない。
面影はない。
それは留美の感傷でしかない。

けれど「それ」は彼女に己たちの生態を語り、いくつかの知恵を授けた。

「お別れをしなさい」
「あなたは、どうか」
「正しく、愛した人と別れなさい」

そんな声を聴いたのは、きっと留美の幻だ。

けれど、彼女は知識を得た。人を狂気に走らせる薬を得た。

だから、彼女は己につきまとっていたチーフを使い、とある劇を思いつく。

愛しい男に、永遠に自分を刻み付けるための、茶番劇を。