クソでか感情というレベルではない

 自分に鼓動がある、という感覚は、よく考えると初めてだ。

 そう認識したのは、初めてだが。

 私はずっと都市伝説。
 彼の願った都市伝説だった。覚えてはいなかったけれど。

 認識はしていなかったけど。
 認識すれば、歪んでしまっていただろう。

 彼に会っていたから、都市伝説である自分を受け入れられた。

 だって。
 だって、力があったというなら。

 なんで私は、あの子をつれていけなかったの?

 今ならわかる。予想がつく。
 力があっても仕方ない。指向性が伴わない。
 行動ができない。
 台風ですべてをなぎ倒しても、何にも解決はしない。そういうこと。
 …何の意味もなくても、アイツらを全員殺してしまえば、踏切内で土下座させることはなかったのか、と思うけど。

 思ったところで、もうなにもできない。
 今の自分は人だ。
 彼がそうあってほしいと望んだから。

 冷静に記憶をたどれば。それなりに幸せだ。
 親はおらず、けれど施設は穏やかで。都市伝説課以外の知人の記憶も、少しずつある。

 けれどすべてを覚えてる。
 覚えているから「それなり」だ。
 本当に欲しかったものをとりこぼした。
 唯一の願いをとりこぼした。

 私は彼に幸せであってほしかった。
 違う、少し、違う。
 幸せとか、不幸せとか、それ以前の話だったのだ。

 彼に。
 理不尽な親にも、無責任な噂にも左右されない自由を、彼に。

「…あげたいと思ったから、だめだった?」

 不自由でも。
 噂で歪んでしまうかもしれなくても。

 君と歩いていけばよかった?

 ごめんね、ごめん。アメノ君。
 あの日、一つだけズルをした。
 言わずにいたことがある。

 君が一人になることがあっても。
 私が一人になることなんて、考えもしなかった。

 君が生きて。私が生まれない未来があっても。
 それはそれで、よかった。
 だって、それは君が助けを求めなかった未来だ。
 それでも、幸せだった。
 それこそが幸せだったのに、欲張った。

 幸せな君が私を呼んでくれるなら。それは、どれだけ幸せなことだろう。
 そう思ったから、諦められなかった。
 あのまま二人、都市伝説は……嫌だった。

「…ああ。そうか」

 君だけを見ていたから間違えた。
 私を認識していた<人間>の姿を見ていたのに。
 『職員さん』助けを求める人たちを。見ないでいたから。

 気づいていたら―――それでも、同じことをしたけど。

 でも、だから、だ。だから、きっと。独りぼっちになったのだろう。
 冷たく、おざなりに生きていたから。一緒に行いなかった。
 君の心が壊れた時、助けを求める場所も浮かばなかった。

「…ひとりでは、ないけど」

 今も先輩もいるし、御先さんもいる。
 君もいるといえば、いる。
 キチンと覚えているから、いる。心の中とかに。

 残酷な言葉だと思う。「人は忘れられた時が二度目の死」なんて。
 私が君を殺せるはずがないでしょう。
 もう都市伝説じゃないけれど。今度は自分の意志で、世界中誰だって殺してしまえるけど。
 君のことだけは、死なせたくない。

 けれど。さみしい。
 さみしくて、さみしくて、泣きわきたい気持ちとはこんなものなのかと思う。
 あの時、一緒に帰ろうといった君は、似たような気持ちだったのだろうか、とも。

 さみしい。会いたい。もう一度だけ。一瞬だけでも。いいえ、何度でも。傍にいてほしかった。

「…そんな風に祈ってたら、会える?」

 今の私は人だから。
 君と違い、なんの力も持たない人だけど。

 いつか君に、会えたらいい。



 手に持った刀で、ゆった髪を切る。
 風が吹くたびにどこかに当たる長い髪が邪魔だ。  生きているとよくわかるから。
 前髪を揃えるのは無理だ。美容院に行こう。人に会おう。
 眼鏡も捨てようか。書類仕事以外では。

 それともう少し、笑おうか。

 どこかで君が見てたら、安心するように。

「お願いなら叶えないとなあ。それだけが生きがいだから」「でもいい子にしてたらアメノ君迎え来てくれないかなぁ」みたいなことばかり思ってるからこの31歳メンタルが迷子の子供。もはやクリスマスが待ち遠しい子供。
 実年齢19くらいだと思えば…まぁ…。…まあ。まあ。それでも幼いな!
 ちなみにシナリオを読んだ後だと「もしかしてこれ、救急車呼んだ上で先輩か御先さんに「アメノ君のSANゼロどうにかしてください」って願ったらワンチャンあったのか。あったのかAF的に。特に御先さんはあったのでは!?」とちょっとだけへこんだ。たぶんどうにもならないけどね!