八重樫アキノ様作KPレスシナリオ・【CoCKPレスSAN回復シナリオ】夜と睦言のリプレイ風SS。
 シナリオから引用した部分は斜め文字になっています。
 当然ネタバレなので、ぜひプレイした後にご覧ください。

 楠木様作、雪の降る夜ネタバレ要素もうっすらと含みます。







あなたに三度の恋をする

 別に初恋というわけじゃない。
 忘れずに覚えていたなんて。そんなことはないの。

 けれど、会えば分かった。
 胸が高鳴ることなんてないけど、嬉しいと思った。

 真剣な顔で授業を受けている時の顔と、体育祭で少しばかりキャーキャー言われていた時の顔とかも。…なにしろささやかだったから、気づいていなかったんだろうけど。黄色い声の方は。
 その時、胸が痛くなることはなかった。
 けれど。シュートが入って、海原君と笑っていた笑顔を見ると、とても…幸せな気持ちになったことも思い出した。

 別に覚えていたわけじゃないの。
 高校を卒業してから会ってなかった。その間、他の人を好きになった。愛した人がいた。その時、彼のことを思い出したりしなかった。
 あの時まで、思い出しもしなかったのに。

 すぐに思い出したし、思い出したことが嬉しくて浮かれてた。

 だから―――だから。
 あなたを置いて逃げろなんて。ひどいセリフだったんだよ。
 心がちぎれてしまうくらいに。
 ちぎれてしまえばよかったのに。

 ちぎれたら、忘れていられたのに。

 人を守ったあなたが―――とても。
 尊く思えたことなんて。

 そのほうが、きっと楽だったんだろう。
 楽な生き方で―――きっとそこに、興梠君はいないのだろう。

 ……ああ。ならば。いい。
 楽じゃなくて、いいよ。

 そう思ったときの気持ちは、果たして恋なのか。
 あの時、きっと彼に二度目の恋をして。その瞬間に、失った気がしているのだけれども。
 三度目のこの思いは、どんな名前なのでしょうね。ねえ、興梠君。
 ねえ、と聞く勇気を。今はまだ持てないでいる。

***

 気が付くと、知らない部屋にいた。
 それまでなにをしていたかは…わからないから、夢だと…思うのだけれども。

『見覚えの無い部屋で目覚めるのには慣れてるかしら。
 慣れてるか慣れてないかはどっちでもかまわないわ。それよりも…。
 あなたは今、精神だけでここにいる。精神だけのあなたはあやふやで、嘘なんかつけない存在。
 そんなあなたに聞きたいことがあるの。
 あなたの愛してる人の話を聞かせて。どんなものでも構わないわ。
 ひとつの部屋にひとつ、質問を置いておくから、それにそって書き記してほしいの。
 お手伝いしてくれたら、出してあげる』


「…いえ、そんなことはなかったよ…?」
 つっこんでも声は返らない。
 キレイなその文字は、おそらく女性のものだ。でも、まったく見覚えはない。
 …おかしな夢。
 それでも、なんとなしに目線をめぐらせる。
 なんとなく、クローゼットが目についた。 

 クローゼットには、自分のものだろうコートが入ってて。携帯電話には、興梠君からのメッセージが届いてる。
 どこにいるのだと問うそれに、返信を打とうと思うのだけれども。…動かないのだから、気が利かない夢だ。

CCB<=60 【アイデア】
Cthulhu : (1D100<=60) → 41 → 成功


 ああ。でも一つ、思い出した。そういえば私は、これをきてどこかに行こうとしていたのかもしれない。
 …本当に、変な夢。
 夢ながら寝れば目覚めるだろうかと、ベッドの方をみた。

 妙にキレイなベッドに、先ほどのメモを思い出す。
 精神だけの存在だから、こんなにもキレイなのだろうか。さっきまで寝ていたのに。
 ふわふわと、ふわふわとした気持ちになる。
 気の利かない夢だけど…悪い夢ではないかな。
 ついで、机を見た。

 ティーポットがあって、ふんわりと。ふんわりとさくらのような香りがする。
 黒い便箋と、キレイな空色のガラスのペンがあった。

『想い人の名前と、どこが好きかを書いて』

 メモを見ていると、気が付くとペンを動かしていた。
 なぜだろう。馬鹿みたいに素直な言葉が紙面をすべっていく。

【興梠 十三君の好きなところ】
・優しいところ
・誰かを助けようと一生懸命なところ
・近くにいるとさみしくなるけど、気持ちが和やかにもなるところ
・顔がキレイ。真剣な顔が特にキレイ
・余計なことを聞かないところ 踏み込まないところ

 書き終わると、胸がすっきりとした気がする。

 そうして、いつのまにか扉が開いていることに気づく。扉には次の行き先が浮かび上がって、部屋はうっすらと暗くなって、まるで先に進めと言わんばかり。
 …ここにいてもしかたない。少し、先に進んでみよう。

 外に出ると、隣の部屋のドアが開いている。
 やっぱりビジネスホテルみたいな場所に、くすりと笑ってしまう。
 翻訳という形とはいえ、創作に関わっている人間にしては、夢の風景に夢がない。けれどもそれが、らしいのかもしれない。
 ベッドは準備の途中みたいだから、まずクローゼットをみてみよう。

 クローゼットには、いくつかの荷物に交じって財布が落ちていた。自分の財布だけれど…触るとなくなってしまった。
 ちょっと怖い。
 ほかの荷物も消えてしまうのかと、目をやってみた。

CCB<=60 【アイデア】
Cthulhu : (1D100<=60) → 96 → 致命的失敗


 なにも思い出せないし、なにか息苦しい。
 私は、なにをしようとしてた?
 ううん、夢なんだから、きっと寝たはずで…

 …なんだろう、この気持ちは。

 逃げるように、机に目をやった。
 先ほどと同じように、お茶が準備されている。ふんわり、今度はオレンジの香りがする。
 黒い便箋があるのも同じ。今度のペンもガラスで、キレイな緑色だ。

『一緒に体験した、一番うれしかったことを教えて』

「…興梠君と一緒にいて、一番うれしかったこと」
 それは…それは。もしかしたら。私しか嬉しくなかったのかもしれない。みんな反対してたし。……一葉さんは、特に。
 私のしたことに感謝をすると彼は言うけど、それでも…それでも。アレはきっと正解じゃないもの。
 なんであれ、興梠君は優しい。
 だから、一人では決められないだろう。…他人のことを思いやるから、できないだろう。
「…それでも」
 それでも、ペンはさらさらと動いた。
 もう、いつかのように泣きたくはならなかった。

 うれしいことは、たくさんある、
 頼りにしていると言ってくれたことがうれしかった。
 今、望めば会えること。話せることがうれしい。
 向かいに座って、一緒にご飯を食べれることがうれしい。
 ああ、でも。一番というのなら…

【興梠君と一緒にいて 一番うれしかったこと】
・あの日帰ってきてくれたこと。手を振りはらわれなかったことが。もう一度はじめられるのがうれしかった。

「……いきていて、くれるのがうれしい」
 ああ、それだけでうれしいけれど。でも、ただ生きているだけでは意味がない。
 彼がしあわせにならなきゃ、意味はないのに。
 それでも、どうしても。私は「彼が生きているだけ」で嬉しい。
 この間、死にかけて…つくづく、そう思った。
 ほんの一瞬、思った。ああ、ここに興梠君がいなくてよかったな、と。

 自然とため息が出た。
 思い出すと悲しくなることもたくさんあるけれど―――それでもやっぱり、うれしかった記憶として。あの日の色々が、胸の中をあたためる。
 …彼も、そうであればと。たぶん。願ってしまっている。

 少し、胸の中にあたたかいものが満ちた気がした。
 ドアにはやっぱり次の行き先が浮かび上がっていた。
 もはや疑うのもおかしいから、そのまま進んでいった。

 次は向かいの部屋が空いていた。
 ここも、外観はこれまで通り。ベッドが丸裸なのもおんなじ。クローゼットと机があるのも同じで、一応クローゼットを開けてみた。

 クローゼットの中には、ごみ箱とハンガーだけしかなくて。どうにもさみしかった。

CCB<=30 【目星】
Cthulhu : (1D100<=30) → 49 → 失敗

 何かあった気がしたけど、どうやら気のせいだった。

 机に目をやる。ここまでくれば、予想通り。
 今度のお茶はカモミール。隣にあるのは黒い便箋。キレイなペンのインクは、紫色だ。
 メモに、目をやる。

『これから彼とどうしたい?
 行きたい場所でもやりたいことでも、なんだっていいわ。
 彼としたいことと、彼への愛のことばを綴って』


「…私は、興梠君と…」
 どうなりたいのか、よくわからない気がする。
 一緒にいたい気はする。
 一緒にはいたいのだと思う。
 興梠君は優しい。かっこいい。身の上のあれこれは…同じ境遇の人がいないわけじゃない。
 ならきっと誰かに好かれるだろう。
 誰かに好かれて、その人と…恋人になったら、きっと悲しいのだろう。
 ああ、でも、気を遣われて恋人をするのは、嫌だな。
 興梠君、そういうことしかねない気がするし。本当…優しくて、だからたまにひどい人だ。
 それではあんまりに…みじめだな。
 あの時あの瞬間は、彼が生きている以上のことなんて求めなかったけど。
 私は興梠君が好きだから、みじめだな。

【興梠君としたいこと。生きたいところ】
・一緒にいたい
・生きていたい
・人の時間分で構わない
・興梠君がもう一度屈託なく、当たり前に医者をできる環境を取り戻したい
・そうできる体を取り戻したい

 一度、手を止める。
 ああ、これ以上はダメなのに。
 本当に、これは嘘がつけない夢なのか。

・選んでほしい
・私を選んでほしい
・幸せになってほしい
・あの日選んでいいと言われたけれど、もし他に自分をゆだねたい人がいるなら、それでもいい
・その時は、きちんと言わせてほしい
・好きだったと今度は言わせてほしい

・もしもそのすべてがかなわなくても
・ひとり遺していくのは嫌
・一緒に死にたいとは思わないけれど。ひとりにするのは、嫌

 ペンが、一度止まる。笑い声みたいな、なにかがでた。
「……これが愛なら、我ながら……」
 重く苦しくて、だからまだうまく声にできない。
 興梠君が、好きだ。
 だからきっと…不安になる。
 優しいから。私がボロボロになって、引き留めたから。だから一緒にいるだけなのかと、たまに、どうしよもなく怖くて…
 手紙の最後に、一言添える。

・彼の隣にいて恥ずかしくない自分でありたい

 今度は自然と手がとまった。
 安心したみたいな、ため息がもれた。

 今度も手紙はどこかにいって、部屋が暗くなった。
 今まで行き先をつげていたメモには「ベッドへどうぞ」との文字がある。

 …さっきまで何もなかった気がするけど。本当に、不思議。
 まだ見つけていないものがあった気もするけれど、そちらに向かった。
 なんだか、心がふわふわして。ここで寝ると、気持ちがよさそうだったから。

 横になると、予想通りに気持ちがよくて。とろとろと瞼が落ちて、いろんな気持ちのいい香りがして、いろんな色の星を見た気がして……
 ………。
 ………………。

 目の前には、占い師の女の人がいた。
 寝ていたのかと問う声は柔らかく笑っていて、とてもはずかしい。まさか、占いをしてもらったのになているなんて。
 …はずかしい?

 あれ? 私、今まで、なにか…恥ずかしいことをしていたような。

 夢の内容をなぞるように、女性が黒い封筒をくれた。
 夜空みたいな黒色に、同じ色の便箋を思い出す。星のようにキラキラ輝く、色とりどりのインクも。
 こうすればいい、と言われた。自分に正直にね、と女性は笑っている。

 少し熱くなった頬で笑って、私は彼女に背をむけた。

 外はもちろん明るくて、そういえばと思いだす。
 そうだ、お互い用事を終えたら。待ち合わせをして。ご飯でも食べようって話をしてたんだった。

 買い物の荷物と一緒に、渡された黒い封筒を抱きしめる。名前が二つ書いてある封筒で、宛先は興梠君で、差出人は自分だ。
 この中身は、夢の通りだろうか。
 ああ、それなら…
「……渡すのは、どうしよう、かなぁ……」
 少し悩んで、すぐに決める。
 とりあえずいまは、やめておこうか。
 きちんと声に出して、言おう。
「…口にしないと、ダメだもんね」
 口にして、答えを聞きたい。
 だって、文字は残るもの。
 残らない―――生きているからこそ出せる、この声で。
 近いうちにきちんと、彼に伝えよう。
 少しでも、少しでもいいから。あの夢みたいに優しい人の傍にいても許されると、思えたなら。
 その時に、きちんと。胸をはって。…どんな答えでも大丈夫だと、彼が心配しないような顔をして。
 すっきりとした体と気持ちで歩いていく。
 今日はとてもいい明るくて、きらきらと空はキレイで。
 明るい光に、彼の体は痛むのだけれども……

「……私はここで生きてるのよ」

 小さくなって消えたくなるようなみじめさと一緒に、それでも。生きていて。待ち合わせ場所に歩く足取りはたぶん弾んでしまってる。

 このシナリオ描写めっちゃキレイで楽しかったなあ。引用は最低限にとどめたけれど! 幻想的でなんかお砂糖細工のようだったよ。きれいなお砂糖細工!
 でも探索者はじめじめしています。なんだろう。好きなところとか実はめちゃくちゃ全うなんだけど。テンションがしめっぽい。これは地。

 恋文はAFということでしたが、今のところは渡さないなあ。告白して付き合えたら渡すのかも。そういえば変な夢見たときがあって、こんなの書いたよ、と。それを受け取ってもらえるなら、有事の際に最後の言葉が追記されるわけですが。…彼にそんなものを渡せた時の彼女のセリフはもうどこかで言いましたね。「あなたの全部なんていらないから」「あなたの最後は私のもの」
 重いよ。でもどっちもどっちに重いと思うよ。付き合ってないのにね!
 目次

倫花さんはコーヒーより紅茶派な気がする

 紅茶を片手に、テレビをつける。
 正直寝たい。
 寝たいのだけれど、今日はもう少し仕事を進めておきたい。
 だから、深夜のバライティを流す。すべて眠るのを防止するためだ。

『男は胃袋をつかめっていいますよねー』
『いうー』
『まあ飯はうまいにこしたことはないけどー。
 いやしかしあれっすね。男は結婚したら嫁さんの料理に文句つけづらいだろ? つけたらめっちゃ批判されるじゃん。あれってどうなの? 胃袋握られても気分じゃないときってあるじゃん』
『そりゃ先に何を食べたいか言ってくれないと。言ってくれたらそれを作るって』
『いやいや、作る作らないじゃなくてさ。外でがっつりラーメン食いたい時ってあるじゃん?』
『あー…そりゃあ仕方ないね。でも、それも先に言ってほしいよね、文句言われるよりはさ』
 ねー、と女性の声が唱和して話題は次へと切り替わる。
 言いたいことを言い合えない仲ってどうなの、みたいなかんじに。
 時間帯のわりに、青春な内容だ。
 ……好きな相手の、胃袋……
「…あんまりうまくいってない料理をおいしいって食べる人の…胃袋……」
 気を遣っているのかなんでもいいのか実に微妙なラインの反応をされた時を思い出す。
 そもそもあれ? もしかして今の状況が割と餌付けしている感じ? でもな、でも。…彼の食べ物、は。
「………健康的な食生活と規則正しい食生活を心がければいいのかな」
 ふとよぎった思考に、首をふってパソコンを閉じる。だめだ、これはダメだ、疲れ果ててる。仕事をしてもしかたない。
 そんなもの、絶対考えてはいけないことだ。
 胃袋をつかめるものならつかんでみたいなどと、そんなことは。  さすがにそれは、怒られるだろう。

 好きなところもいいけど嫌いなところはなにかなって思ったとき「優しいところ(ひっくい声)」って言い始めるから面倒臭い女。
 目次

ダイエットしたら絶対「健康に悪い」っていうと思うんですよこのお医者さんは

 機会があって、好きな人の頬にふれた。
 なんかすべすべだった。 思い出しつつ、自分の頬にさわってみる。実に年相応だ。肌はすでに曲がり角だし。クマもできやすい。
  …化粧品を変える。それも手だ。 けれどいいものを使っても吸収しなければ意味がない。結局は早寝早起き規則正しくが最強だ。
 興梠君に会うときはまあ、仕方ないにしても。仕事で徹夜は控えよう。仕事の効率のためにも。 あとは運動…は室内でやれるものでもしようか。家事の片手間でできるような。 最  後、食事。そう不健康な食事はしていない。特別健康的でもないけれど。 いや、でも間食はある程度やめようかな。
 菓子パンとか砂糖とか、安い油は肌の敵だ。顔の作りはあきらめるにしても、そのあたりを控えるのはストレスにはなるまい。 …と、思ったのが先日のこと。
 会う約束をして、暗いからと迎えにきてくれた興梠君は、キレイなビニール袋をさしだしてくる。
「外行く前に、これしまってもらっていい? お土産」
「ありがとう。…どうかしたの?」
 お土産、とはいうけど。これ、近所のお店だ。
 近所の、…おいしいチーズケーキだ。…軽い口当たりが魅力的で、…好物だ。
「この間、なんだか元気なかったから…好きなもの食べると、気持ちが明るくなるかと思って」
 言って、好きな人はふんわりと笑う。綺麗な顔で笑う。
「……興梠君はやさしいね」
「そう?だってほら、これ、おいしかったし」
「すごくうれしいけど…私、しばらくハ、健康のために甘いものは控えようと思うの。これはうれしいから食べるけど」
「…あまり痩せると体に毒だよ?」
 私の好きな人は、とてもやさしい。
 優しいところが好きだし、たぶん、同じくらいいたたまれなくなる。
 本当に、困ったこと。
 元気がないから好物を買ってきてくれるとか、うれしく思う以外になにができるというのか。……本当に、本当に。困ったことだ。

 みっちーのAPP11は「身長気にしてちょっと姿勢悪い」「顔の作りがどうあがいてもぼんやり」「不摂生気味というか、細いから不健康に見える」っていうイメージで立ち絵書いていますが興梠君と付き合ったら多少気を遣う気がする。28歳料理技能持ちの乙女心の話。

経験済み×未経験はロマン。

 最初に付き合った人は、世話になっている先生を縁に知り合った編集の人だった。
 三つ年上の社会人一年目。
 一生懸命仕事をこなす背中が好きだった覚えがある。

 別れた理由も、それだった。
 お互い仕事が忙しくなって、なんとなく別れた。


 次に付き合ったのは、その人の知り合いだった。
 今思えば傷心、というか。さみしさにつけこまれる形だった気もする。
 丁寧な仕草が好きだった覚えがある。
 色々と愛情をよく表現する人で―――…
 ……そのあたりがどうにも合わなくて、1年たたずに別れたのだけど。

 最後に付き合った人は、知人の紹介…というか。合コンであった人だった。
 人数合わせに呼ばれたそうで、居心地悪そうにしていたので話かけた。
 そのまま、なんとなしに話があって……
 ……なんとなしに、連絡をとりあうようになって。なんとなしに付き合った。
 真剣な時の表情が好きで、付き合っていた覚えがある。

 別れた理由は、なんとなくだ。
 なんとなく、ああ、これは浮気されているのだなあ、という証拠がチラチラと見えて。そのまま別れを切り出した。


 それ以降は、特になにもなかった。
 それらしい空気になることはあったけれど…
 どうにも面倒だったもので。


 …思えば一葉さんと友人付き合いを始めたのはそのころだった気がする。
 お茶なり雑談なりをする相手を得て、それでよくなったのかもしれない。
 あと、なによりも。私は仕事が楽しかったので、それでよかったという話だ。

 ……。
 …うん、本当に。
 結婚願望はないので、そのままでもいいとは、思っていた気がする。

 …そう、あんな面倒なこと。
 もうしないと思ってた。

 目の前には、もう面倒などという言葉では語りつくせない感情を抱く原因が一人。
 膝をすりむいて泣く子供の手当てをする横顔のやさしさとかが、ちょっとどうしよもない程度に、好きだ。 

 ということで二番目あたりに色々しこまれてそうだよなみっちー。というただそれだけの話です。
 あんな流されやすくてかまってちゃん気質で好意を寄せる人お願いに弱い成人女性が非処女だったらびっくりです。彼女のコミュ障性は「深い関係を気づかない」でありうわべの付き合いはそれなりにあるし。
 別にエロイこと嫌いじゃないDEX16ですよ、色々しこまれてるよ。物覚えも悪くないしね!
目次

まさかあのシナリオでつっつくとは……

 目が覚めたら、ベッドの上だった。
 ベッドの上なのはあたりまえだ。
 昨日は部屋で寝た。

 …本当にそうだっただろか。
 なんだかこう…こう…えっと…なんか…抱えられたような…覚えが…

 …昨日。
 そう、昨日。

『…そういったことは男にしちゃだめだよ、って。いったんだけど。よくわかってないみたいで』
『ふたまた、って』

 昨日、そう、色々とあって。

『…倫花さんは僕のことが好きなの?』
『like?』

 そうだ、色々とあって。そう。…告白して。

『僕は倫花さんがいないとさみしく生きてたと思うし』
『海原君とか、先輩はいるけど』
『よしんばいきてても、さみしかったんじゃないかな』

 そう、色々と。色々と、言われて。

「……あ、あ…うあああ……」
 顔が熱い。
 もうどうしよもなく熱い。熱でも出しただろうか。
「……ああ。ああ。ああああ………」
 ぼすんぼすんと枕をたたく。
 ついでに顔もうずめる。

『全部あげるは嘘じゃないけど』
『倫花さんがそれで笑ってくれるなら、って条件つきかな』
『僕と倫花さんがその、男女の仲になって、倫花さんが罪悪感を感じるのは嫌だなって思う』

 どうしてそう、次から次へと。
 …次から次へと、くれることが前提なのか。
 そんな優しい声で…うれしくなってしまう声で、そういうことを言うのか。
 ……ほしいのではなく、ほしがってほしいと、たぶん、伝わってないような気が。
 今思うと、とても、するのだけど。

 付き合ってと言えた。
 いいよと言われた。

「………死んじゃう」

 少なくとも、寿命は現在進行形で縮んでいる。
 せわしく動く心臓に、頭がくらくらする。
 嫌になるまでよろしく? ああ、こっちの気も知らないで!

「……嫌になれるなら、苦労しない……!」

 考えなきゃいけないこと、たぶん山ほどあるのに。
 体に力が入らなくて、どうにももだえる以外はできそうになかった。

 興梠君は本当にいい子だし本当にひでえ男だなあと思った。
「like?」「そろそろ怒るよ」「ごめんなさい」は本当萌えだしひどいと思った。
 付き合ったところでまだすれ違っているものがたくさんある気がしますがとりあえず三日くらい「うれしはずかしで顔がみれない…!」といたくまっとうな理由でもだえそうですね。
 ……
 ……よくあのシナリオの後にくっつく気になりましたね!?
目次

興梠君はなにも悪くないけど「どうしよもないのに惚れてしまった…」とたまに遠い目をしている恋



「暗闇で、手を」ネタバレ後日談



 考えなければいけないことは山ほどある。
 興梠君のことよりも、おそらくは優先事項の高いことが。
 だから私は息をはいて、喫茶店のドアを開く。
「…そろそろ来るとおもっていました」
 にこり、と私と同じ顔が笑う。
 髪は、2日前にみたより伸びている。肩の肩甲骨あたりまで。
 それ以外は、鏡を見ているような気になる。
 ……複雑だ。
「…それって、やっぱり同じだから?」
「タイミングまでわかるのは、そうなんだろうね」
 ああ、自分の声って、頭蓋を通さないとこういう風に聞こえるのか。
 現実味のないことを思いながら、すすめられるまま席についた。


 目が覚めたら三日たって、目が覚めたらその子は言った。
 自分は人ではないと、私の顔をして語り始めた。
『あなた、お仕事の打ち合わせでウチを使ってくれたでしょ? それで、その時、遅くまで書き物してた。PC開いて。…覚えてる?』
『えっと、それでね。…目的者がいないから、入れ替わってみようかな、って』
『厳密にいうと、入れ替わる気はあんまりなかったよ。一人暮らしじゃないと、やっぱりボロが出るし…。ただ、私、…いろんな人をとりこんでみたくて』
『うん、私はね。人から血をもらうとその人の遺伝情報と記憶をもらえるの』
『もらう、っていっても。あなたの中からとってはいないから、その…安心して?』
『人から血をもらって、いろんな人になって…私、おとうさんに認めてもえる人間になりたかったの』

『あなたになり替わろうと思ったのは…一人暮らしだったからだよ』
『…でもね、近しい人に気づかれては意味がない。……あなたの近しい人って意味では、お兄さんあたりだった気もするんだけど…、いつもの私ならきっとそうしたんだけど』

『あなたが、人じゃないもののことを大事にしてたから』

『ううん、それもあるけど。会いたかったの。  …今、私の意識はほとんどあなたとおんなじだから。興梠君に会いたかったの』

『興梠君を騙しおおせるなら、入れ替わっても大丈夫じゃないかな、とかも思ったし…』

『……でもさ』

『おんなじようなことをしたこと、何度かあるんだけど。みんな違うっていうの。…違うって言わなくても。元になった人を捨てることはできない、って』

『見せないでたいらげてしまえばいいんだけどね―――……、……私がなりかわろうとするのはみんなちょっと善人過ぎて』

『飲み込んだ、とりこんできた人たちがダメっていうの。人を殺すのはダメだ、って。…私の一番核になった、唯一全部食べた女の子も』


『…自分のところに引き取ろうとした人に会ったのは、はじめてだよ』

 彼女はあの日、そういった。
 それに、と小さく紡ぎかけた言葉も、私は聞いていた。
 たぶん、私だから気づいた。

「…あなたのことは、まずなんて呼べばいいのかな」
「んー……、…とりあえず『あなた』って呼んで。…私は何にもなれないからね」
「そう」
 わずかに目をふせる顔は、あまり自分のようには見えない。
「それで…あなたは、あの時なにをいいかけてたの?」
 けれど、痛いところを突かれたときの顔は私のもののように見える。
「自分のところに引き取ろうとした人に会ったのは、はじめてだよ。  みんな同情してくれるけど。化け物は怖いってさ。…それにね。私を『頑張った』ってなでてくれた人も、はじめて。
 ……私がそれにうれしくなってしまうのも、はじめて」
 ああ。そう。
 確かにそれは、興梠君がいいそうなことだ。
 ……優しい人だから、本当に。
「私の体は、その人の遺伝子情報と記憶をコピーする。…強く、大事にしているものからコピーする」
 そして、気まずげに目をそらす表情は、やっぱり私とおんなじだ。
「…たしかに。その察して言わせようとする姿勢は、あらんかぎりに私だね…」
 さらにバツが悪そうな顔をされる。
 …鏡をみているようだ。
「あなたは…あなたも、興梠君が好きなんだね」
「中崎倫花はもう少し彼と一葉さんと海原君以外を気にした方がいいよ。…八月十五日さんは多少あったけど」
「最近のことだし、インパクトが強かったもの。しかたないでしょう」
「…私は、いていいよ、って言われるとうれしくなってしまう程度には興梠君が好きだよ。
 あなたがこの期におよんで好きとか言わないなら、こっちが先にいってしまおうかとも思ったし。…でも、私、あなたにも感謝しているの」
 鏡のような彼女が笑う。
 いれてもらった紅茶の向こう、湯気でかすんで、少し幼げに見えた。
「あなた、本当に私のこと「ひとりにするのはかわいそう」って思ってるでしょう? …化け物にやさしいのは、興梠君を否定したくないからもあるんだろうけど」
「……そうだね」
「でも、ヤキモチはやくよねぇ」
「つまり、あなたもやくでしょう」
 彼女は答えなかった。
 聞くまでもないことだから、追及はしない。
「……私の取り込んだ情報は、一年を目安に入れ替わる。入れ替わる、というか。なじむ、というか。薄くなる、ともいえる。…完璧にあなたっぽい恰好をとってられるのは、一年くらいだよ」
「…そう、そのあとは、どうなるの?」
「どうもならない。まじる。…私が最初にもらったからだ…お父さんが生き返らせたかった『彼女』以外はすべてまじる。まじって、でも。そこにあるといえば、あるね」
 ああ、それを、あの人は、それでも。
「あの人はそれでも私を『倫花さんの一部』っていうかな」
 思考の続きは、彼女が声にした。
 …だから、答えはきっと一つだ。
「…いうでしょうね」
「じゃあ、傍にいたい気がするなぁ」
「………」
 それは正直……いい気分ではない。
 …だって、興梠君は私にするのと同じくらい彼女に優しいのだろうから。
 ……さすがに、嫉妬する。
 けれど、この子は興梠君が好きなのか。
 まさしく、私と同じくらいに。
 私と違い、人に裏切られ続けてきたのであろう、彼女が。
 傷ついても誰かに手を伸ばす心を持ち続けた彼女が。
 ………。
 なら、興梠君が嫌がっていない以上、私の一存で引き離すのも……どうなのだろう、という話だ。
 嫉妬が醜いと卑屈につもりはないけれど。…そんな暇があるなら、もっと…彼の傍にいて恥ずかしくない自分である方が、建設的だし。
「あんまりこの顔すぎるのが嫌なら、もう少し若くなって髪でも染めるからさ。…そばにいさせてよ」
 わずかに頭を下げる声が、わずかに湿る。
 思えば、私はいつもこうだ。
 断りづらい言葉を重ねて、誰かを悪者にするような提案をしてしまう。……いつぞやの飲み会のように。
「…あなたはやっぱり、私の一部ね」
「うん」
 私はそんな自分が嫌いで。
 だから彼女も、おそらく嫌いだろう。そんな手段は。
 あきらめて、割り切ってしまう方が楽だ。自分の薄汚さをみるよりは。
 ずっとそうして生きてきた。
 なのにこの子が、こうしない理由なんて。
「だから、今のままではあきらめがつかないね」
 結局、それにつきるのだ。
 それに。
「この体なら、興梠君に添えるし? 恋や愛じゃなくてもね」
 思考がまたもシンクロする。そう、それは私の欲望だ。
 そういった意味ではこの子の方はふさわしいと、ここに来るまで考えた。
 …それでもあきらめがつかないところまで、この子と私はおんなじだ。<br> 「だから、私がきちんとあきらめつくようにきちんといちゃいちゃしてよ。……あなたに感謝してるのも、本当に本当だもの」
「………。………。………まって。私の顔でいちゃつくとかいわないで? あと、その夢見る乙女みたいな表情やめて…」
「えー、でもあなたが興梠君のことばっかり考えてた結果がこれだし」
「四六時中考えてるみたいに言わないで…」
「まあ、それはそうだけど。…ともかく、うん、倫花さん、頑張って」
 それから、いつまでかわからないけど、よろしくね。
 明るく笑うその顔は、私にはあんまり似ていない――……ああ、違う。
 私がどこかに置き忘れ来たもので、やっぱり実に複雑だった。

 いや、絶対排除はしないと思ってたけど。興梠君の勤務先にいくエンドとか想定していたんだけど。気づいてたら口走ってたんだ。「その人と折り合いついたら一緒に暮らしていい?」って。だって興梠君がコピーまでたらしこむから。
 一体どうしてこうなったのか私が一番困惑していますよ!? でも「頑張ったね」の一連の流れ実にすばらしい初恋泥棒の姿でした!

 ちなみに彼女はこの後のんびり喫茶店を営んでいきます。名義上の名前は「蔦本陽真」(つたもと・ひさな)。ヒサナが彼女の元になった娘さん。蔦本は父に受けいられず泣いてた彼女に魔術を丁寧に丁寧に教えてくれた外道魔術師の苗字。
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