たまに、思う。
彼女に出会う前の古い友人なんぞを思い出して。
数人いるが、一人は医者になった。一人は探偵だったか。うさんくさにずいぶん差はあれど、ふと思い浮かぶ二人は「人を救う仕事」についた。
そうして、思う。
彼女に会わなければ、僕にもそんな道があっただろうか、などと。
―――そう想像するたびに、出る答えはノーだ。
たぶん、目の前で仕事の報告を聞いているこの人に会わなくとも、どこかで似たような人に出会い、似たようなことをしていたのだろう、自分は。
「なあ、お前。いつまで居座る。聞くべきことは聞いた。とっとと帰れ」
「いえ、特別手当をいただきたいな、と思いまして。せっかく一仕事終わったので、お茶の一杯分くらいはお話を聞いてくれませんか?」
「……別に他の人間が聞いても問題ないお前の報告を、よりにもよって二人きりで聞いている。これが破格の報酬だが?」
「それはそうですけどね。……ただ、あなたに聞きたくて」
「あ?」
僕が愛して、けど先日他の人と結婚し。諦めなければいけない彼女は、今日も怒り顔が美しい。……うん。ホントこの人のためにできることは、諦めることくらいだから。ちゃんとあきらめたいところだけど、なあ。
「もしもあなたが、どこにもいけず、なにもできない、そうですね。例えば頭だけの存在になったとしたら。なにを求めるのかな、と」
「お前、気色悪いのは行動だけにしておけよ。お前が言うことまで本格的に気色悪くなったらもうおしまいだ。既におしまいだが」
「別に気色悪くないでしょう。そうだ、寝たきり。まあ、寝たきりみたいなものですよ」
……あの時彼女が陥っていた状況は、寝たきりどころじゃないけれど。世間話にしたいのならば、この辺だろう。
ああ、違うか。
こんなもの、世間話に選ぶなって顔をみて、そう思う。
こういう話をしても、想像しても。たいして心が痛まないあたりも、この人とか他の友人を怒らせているんだろうな。
「……私はどんな状況になろうと、自分の始末は自分でつけるよ」
「それができない時のことを聞きたいんですが」
「できない状況でも、だ。―――それでも、自分で自分のケリをつけることを諦めない。特にお前には何も頼まない」
「………旦那さんには?」
「……お前、私を諦めるという話はどうした」
「諦めようとはしていますよ。あなたの旦那さんに何かする気は欠片もありませんし、無理です」
「……アレにも頼まねぇよ」
「…そうですか」
「お前は喜びそうだから、絶対に嫌だ。…アレは一生引きずり倒しそうだから、みじめったらしくて任せられないね。
さあ話はしまいだ。消えろ」
消えろ、の、きのあたりで足が飛んで来た。
華麗な蹴りをよける気にもなれないので、受けておいた。
そうでもしないとまた惚れ直してしまいそうだから、とりあえずそうしておいた。
彼女の部屋からの帰り道、ぼんやりとかの部屋のことを思い出す。首だけの彼女。それを生きていると言った彼。
「……けど、あの子は殺してといったんだから」
だから、あの時彼に向けた言葉は、本心だ。
『惚れた女がそういうんだから、君がかなえてあげなきゃダメじゃない』
本心で、同時に。社会的に、道徳的に、受け入れられない言葉であることも、理解している。
まっとうさ。やさしさ。あるいは、正しい愛、か。そういったものは、自分にとって。いつも薄い膜で隔てたように遠いけれど。理解できないわけじゃあ、ない。
あの状況でもアレが生きていると考えるのならば、人としての正答は他の友人の反応だろう。……アレが生きているとは、僕にはどうにも思えないけれど。
でも、殺せと言ったのは、そうではない。そんな理由ではない。
―――僕なら、かなえるのに。
愛した人が言うならば、どんなことでもかなえるのに。その結果、その人が死んだとしても。変らずに愛して、愛して、それで満足するのだろう。
……僕の愛した人は、僕に何も願ってはくれないけれど。
「……まあ、どうでもいいことだね」
あの時と同じだ。僕はまたも間に合わず。当事者にはならないまま、彼と彼女の人生は閉じていた。
それだけのことで、もう。あの二人には、さして感慨がない。
あの二人に関わったほかの友人が、早々に立ち直れればいいものだとは、思う。
僕は今の職につかずとも、明るい道を歩いていない気はするのだけれど。
明るい道を行く者たちを、尊いとくらいは、思うから。
私はアレ急げば思いとどまらせられないかと色々しましたが。どうあがいても間に合わなかったのかあ。盛田は後悔が多い探索者人生歩んでんなあという気持ちと、一番行ってはいけない探索者がいったな…という気持ちで胸がいっぱいです。
このメンツはら生かす方向に行ってくれそうだし一人くらい煽ってもいいか!と思ってつい言った。とても楽しかった。けどご迷惑だったかもな、とPLは結構反省している。
楽しかったけど! 自分でも回したいけど、首切り様!
2016/12/17
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