13.ピアス
「い―――いきなりなにするです!? もう何もしないっていったのに!」
「あ。いやうん。それは悪かった。
でもな…お前、ふさがないのか。その穴」
「…穴? …あ。あああ。ああ。ピアスの」
問いかけると、彼が頷く。やけに素直に。
最初からそうすればいいのに、なんであんな。もう。
……いやらしいこと、好きなんだから。
待って待って待ち尽くしたから仕方ない。
それは確かに一理ある。待たせて待たせて待たせつくした私には、耳が痛い。
耳が痛いけど腰も痛い。
……別にいいけど、痛い。あと絶対元からだ。
「…だっていりますもん。たまにだけどつけますもん。…ライドはふさいでほしいの?」
「ん? …うーん」
問い返すと、うなられた。
そういうことを言うってことは、ふさいでほしいってことでしょうに。
…あ、でも。そういうこと言っちゃダメって思ってるのかも。
昔から。
家族ごっこのようなあの頃から、あれをしろこれをしろとは言わなかったから。
あれをするなこれをするなは結構言われたんだけどな。料理とか。
「……ライドが嫌なら、理由を聞きますよ。
納得したら、もうするのやめるかも」
重い瞼をこすって言えば、苦笑する声だけが答える。
「別に、ピアスすること自体はどうでもいいけどよ」
「よ?」
「…昔のモンつけられてると、不安になるから」
耳に触れながら告げられる言葉は、とても甘い。
昔のもの。私が故郷にいた頃のもの。
故郷を忍ぶ、数少ないもの。
「…それは随分甘えん坊ですねえ」
「ああ女々しいな」
「そんなもの、つけてもつけてなくても。私、ここにいるのに」
「でも捨てないだろう」
「…ええ」
そんなすねたように言われても、捨てない。
たまにしかつけてないのに、そんな気持ちでいたんだろうか。
随分と甘えた言い分で、なんというか、あきれたような気持になる。
けれどくすくす漏れてしまう笑いは、なんだろう。
よくわからないけど、なんだか。
「だからもう一か所あけましょうか。買ってくださいよ、つけるの」
なんだかうれしいから、そんなことを言ってみた。
すると急に嫌そうな顔をされた。
「それはない」
なんですか、急に、と聞くより早く、耳に熱が下りてくる。
今は何もつけていない穴に、そっと吐息が触れる。
「どんな小さいモノでも、おれのせいでつく傷なんて冗談じゃねぇよ」
「……過保護」
「そーかもな」
耳朶に触れる唇は、とてもあたたかい。
別にいいんだ、気にするな。囁かれた言葉も、とても。
とてもとても暖かいから、ここにいますよ、一生。
告げる代わりに。背中に手を回す。
答えるように回ってくる腕は、ほんの少し重い。
重くて、何よりも暖かい。
(ふたり、欠けた穴を抱えて歩く)