02:つねる
それは、ごく些細なことで。彼が彼女の心の琴線のなにかしらをばべーんと踏んづけた時のこと。
「なによう。メー君のばかー」
「誰がひゃ」
誰が馬鹿だとでもいいたそうな声は最後まで続かない。むにんと伸びた頬が発音の邪魔をする。
「馬鹿は馬鹿じゃなーい。何回も同じことで怒られてさー。もう本当お馬鹿さーん」
「ちぎ…!」
ちぎれる、とでもいいたいのであろう声に、彼女はうふふと笑う。
笑って、ぱっと手を放した。
「いってえな…! ヒトのほっぺなんだと思ってるんだよお前は!」
「よおーく伸びるほっぺだと思ってる」
「伸びるんじゃなくて伸ばされてんだよ! お前のせいで!」
「それはーメー君があ。私を怒らすこと―するからだしぃ」
「ぃ、じゃねえ! 怒ったからってひょいひょい伸ばすなよお前もさあ!」
ぎゃいぎゃいと叫ぶ彼に彼女は笑顔をひっこめる。
ふうと息をつき、憂いを含んだ顔を見せる。
「…君が本当に嫌でどうしよもなくてむかついて苛々して私のこと嫌いになるなら…ごめんね」
「…………」
しおらしく、悲しげな声に、彼はむっつりと黙りこむ。
がしがしと頭をかいて―――はぁ、と息をつく。
「その程度で嫌いにならねーけどさ。その理屈は変じゃね…?」
「うふ。理屈なんて。そんな難しいことじゃ。ないよ」
心の奥底から困った顔をする恋人に、磨智はにこりと笑う。
「私が楽しくて満足してても。
君煮嫌われたら意味ないじゃないv」
この程度でぽんと赤くなる頬が、やっぱり好きなんだから、ねえ。
一個上の口直しにどうぞ。