某月某日。
 サロンをやってる彼女んちに迎えにいったらすごい衣装で出迎えられた。

「似」
 似合いませんかと聞きたかったんだろうけれど。とりあえずというか思わず手近にあった布をひっぺがしてかぶせておく。
 かぶせて、そうして。がしゃんと食器的なモノの割れる音で、なにをひっぱったのか気付いた。
「……お金で解決しましょう」
「あら話が早い」
 それはそれは綺麗な笑みでそういう炎龍は、ごく普通のウェイトレスな衣装だった。
 ……それなのになんで着ちゃうんだろうなあ僕の彼女。小町さんの素直なところ、ものすごく可愛いと思ってますけどね? けどね? なんというかこう。気が気じゃない。
 というかこの店もそれでいいのかよ。いいのかよ。いいんだよな。客層が客層だからな。
「風矢さん、顔色が悪いですよ」
 恋人がレオタード? 水着? 下着? みたいな恰好で出てきたら赤くなったりするし、その果てに蒼ざめもすると思うのですが。
 言うのも億劫で、小さくうなだれた。

「風矢さんはこういう恰好がお嫌いなんですよね?」
 問われて、『こういう恰好』を思い返す。白い布をきゅっとひっぱってかぶっている今の姿は、ちょっと雪だるまっぽいとか現実逃避したりする。
 頭の上で揺れるぴょこぴょことした猫耳、はもういい。問題は、ぱっくりときわどいところまで割れた胸元。身体の線が当たり前のように分かる、少ない薄い布地。腰を覆う布も同じで、薄い上に真ん中で割れてた。下着かよとつっこみたいくらいに。まぁなんというか。全体的に、こう。見えそうで見えない辺りがそそるよなあ色々と。僕、露出あるより脱がすのが好きだけど。まぁ、濃紺の生地に白い肌は映えて、綺麗だとは思うけれど。
 思うけれど、素直に伝えないでおこう。今後のために。
「…………、そうですね。もう嫌いってことにしておきます。
 というか君は好きなんですか? …いえ昔はすごく嫌がってましたよね? なんで着ちゃうんですか」
 そう、付き合うより前、こんな恰好をしていた時があった。
 …下がスカートなだけ今よりマシだよなあと思うような格好だったけど、似たような格好は似たような格好。ともかくその時、散々見せたくないと大騒ぎしていたじゃないか。もはや芸術的なまでにこけてくださって結局ちらりと見てしまったが、嫌がっていたじゃないか。
「そこは慣れといいますか。
 ネコ目という素材を生かすべきだという意見も聞きまして」
「猫は水着を着ません」
「水着ではないのですが」
「水着じゃないなら下着です……」
「しかし、『大丈夫喜ぶから』と風矢さんのご主人が」
 よし飛ばそうかなただけに空のかなたに。もしくは死なない程度に埋めよう。その煩悩とか色々捨ててくれるその日まで。
 僕は固く決心を決めた。
 ……しかし。
「…僕が喜ぶからなんですか」
「はい」
 こくりと頷かれた。
 そんな可愛いこと言っても僕はわりと機嫌悪いですからね。可愛いからって流されませんからね。
「喜んでいただけたら嬉しいと思っていました」
 そんな残念そうな顔しても僕は負けませんからね。彼女のことだから挑んでいる気もないのだろうし、負けてはいられない。
「…怒らせてしまいましたか?」
 ええ負けてません負けてないって言ったら負けてない。
 思わず抱きしめたのは別に負けたわけではなく、そんなことを言う顔が僅かに悲しげだったからで。
 負けてないって言ったら負けてないもんは負けていないのだ。
「これは妬いているっていうんです」
「やくとは嫉妬の方ですか?」
 軽く肩を抱いて、向かい合って。悲しげな顔が不思議そうな顔になる。その素直さは、やっぱり可愛い。…可愛いけれど。可愛いからこそ。
「そうです。…いや、やはり怒ってますね。心配です。そんな恰好をほいほいしてはいけません」
「心配になるんですか?」
「とても」
 きっぱりと力を込めて言い切る。そうですか、と彼女は頷いた。
 頷いた、けど。
 …どこが心配なのか、分かってないんだろーな。この龍は。
 そういうところが心底可愛い。可愛いけれど腹立たしい。腹立たしいというよりは…、
「…とても心配なので、少し詳しく説明しておきますか」
「え?」
 ぞくりとくると思いながら浮かべた笑みは、恐らく非常に胡散臭かっただろう。

 開いていた距離を抱きしめて詰めて、ついでに頭をかばいながら押し倒す。
 テーブルクロスごところんと転がる小町さん。転がればまぁほどけますよねこういうものは。
「似合うとは思ってます」
「ありがとうございます」
「でも怒ってはいます」
 指で鎖骨をなぞる。くすぐったそうに首をすくめられた。
「そもそも明きすぎですよね、色々。うっすいですし、布」
 胸元をなぞり、持ち上げてみる。軽く握りこめば、息をつめられる。
 赤くなった頬に唇を寄せても、くすくすと笑声がこみ上げた。
「その気になったらいくらでもこういうことができるというか。危ないです」
「風矢さんしかしません…」
「それはなにより―――ですが。そういう可愛いこと言っちゃうから心配なんですけどね」
 胸乳の輪郭を確かめるように手を這わせたまま、指を食い込ませる。やわやわと揉めば、じんわりと熱い。しっとりと沿うような肌の感覚がなくとも、その熱は心地よい。間近で聞く上がった息も、すごく。
「そんなこと、言ってくださるのもあなただけです」
「…可愛いと思ってるヒトは、もっといますよ。
 それも心配です」
「心配性ですね」
 なんですか、その微笑ましそうな口調。
 文句をつけようと思って、すぐに止める。にっこり笑う。
「ええ―――ここがこんなにはっきり分かってしまう服さらっと着てしまう辺り、もうかさねがさね心配です」
「それは」
「僕の所為?」
 芯が入ったように立ち上がる場所をつつく。うう、と口ごもる様子がとても楽しい。楽しいけれども。そっと目を伏せてみたりした。
「…こうでもしないと『なにが心配か』分かってくれなそうですし」
「なにを心配しているのかはわかりました」
「と言うのはとても身勝手な理屈なので納得しちゃ駄目ですよ」
「……」
 正直に言ってみたら、少し非難がましい顔をされた。珍しい表情にときめく僕はたぶん悪くない。
「意地悪です」
「そうですねえ。毎回言ってるじゃないですか。僕は優しくありません」
 床に散らばった髪を指で遊ばせながら、にっこり笑う。
「僕の君に対しての態度は『甘い』って言うんです」
「違いが、よくわかりません」
 息を整えながらも真面目に考え込むように眉を寄せる。考えてもたぶん分からないだろうに。本当に。
「甘いが分かりにくいなら、可愛がりたい、ですかね」
 それはもう、色んな意味で。
 ますます不思議そうな顔をする彼女に囁いて、こめかみにキスを一つ。
 そんなもの、分かってくれなくてもいいのだ。
 とりあえず今、触れて喋れる場所にいる。
 それだけで大方幸せなのだから。




 すごく続きがありそうなところでとまってみる。このくらいはR18風味R16かなーと思うんですけど一応18ってことで。この後の展開的に。
 なんというか、てんぷれなエロを書きたくなった。あとサドい風矢を書きたくなった。
 …すごく…正統派な意味でサドな気がするんですよね風矢。尽くすいじめっこというか。好きな子はいじめたくなるというか。困らせたくなると言うか。やることはぷちSMの世界だけれども。ろうそくたらしたり縛ったり興味なさそうだけれども。