「大宇宙の意思です」
 大事で好きで、振り向いて欲しくて。傍にいてほしくて。
 そんな龍は、いつもそれのことばかり話した。

 2人でいても。そんなことばかり、言うから。

 そんなことばかり、いうから―――…

迷子の僕ら

 重い身体を起して、横を見る。
 すやすやと眠る彼女が目に入った。
 愛しいから傍にいたいと願った彼女がいる。
 手を伸ばして、頬にふれてみる。手のひらを押し返す肌はあたたかい。それでも、自分のものよりも、少し冷たい。
 このまま触れていれば、自分の手の平の温度も同じになるだろう。
 そのくらいなら、同じになれる。
 手を伸ばしすと触れられる位置にいる彼女だから、そのくらいならば。
「……」
 なんだか、本当に身体が重い。その理由は、寝る前にやらかした諸々ならいい。…それなら、よかった。
 身体は重い。胸のあたりが、特に。
「………」
 頬に触れていた手で、耳に触れる。ひんやりと冷たいそれに触れる。
 それでも起きないのは、疲れているのか、信頼されているのか。
 どちらでもいいと思う。どちらでも嬉しい。
 彼女の行動に僕が関わっているのなら、どちらでも。
 でも。
「…………」

 ねえ、小町さん。
 まだ、ここにあれは聞こえますか。
 あるいは、聞こえなくとも、君の傍に。
 それはあると思っていますか?

 触れていた手を離して、こみあげそうな笑声を殺す。
 そのままでいたら爪でも立ててしまいそうだったから、そうする。
 夜になると、身体が重い。胸が重い。
 朝になると別れがあるからではなく、きっと違う理由で。
「…本当に、重い」
 身体だけ繋げて言う順番を間違えた言葉が。
 胸の奥で、わだかまる。

 手を伸ばせば、触れられる位置に彼女がいる。
 手を伸ばして抱きしめて、身体の奥までがらんじめに、近づけるところまで近づいて。ようやく言えた『愛してる』に。
 困ったような顔をした彼女が、いる。

「……」
 小さな窓から注ぎはじめた光が目にしみる。
 目にしみて、妙に痛かった。
 痛くて、痛んで。
 もう、真っ当にものなど。見えて、いないのかもしれない。
「…愛してるんです」
 本当です、嘘じゃないです。同情でも、ましてや身体目当てでもないんです。
 順番を間違えた言葉は、彼女を困った顔にさせるだけ。
 大丈夫ですから、と。困った顔で言われる。
 何度繰り返してもそうだから、今はあまり言えない。
 一体何がどう大丈夫なのか、なんて。なおさら。
「……」
 あの声のことばかり口にする彼女に苛立って。
 悲しくて、悔しくて。
 口をふさいで、驚いた顔をされて。
 ―――嫌な顔はされなかったから、間違えた。

 触れれば触れるだけ乱れる息が、こちらだけを見る瞳が、嬉しくて。
 あの声が入る余地がない気がして、嬉しくて―――

 まちがえたから、今、こんなにも痛い。
 痛いのに、繰り返して。
 ……なんて、馬鹿らしい。

「…風矢さん」
 名を呼ばれて、びくりと身体が震える。
 いつの間にか伏せていた顔をあげると、彼女と目があった。
「…起きてましたか」
「おきました」
 僕は笑う。もしかしたら、ぎこちなく。
 彼女は笑わなかった。ただ、身体を起して。すっと手を握られた。
「……なんですか?」
「怪我をしていらっしゃる」
 言われてみてみれば、手の平に浅い傷。さっき握りしめた所為で、爪が食い込んだらしい。 「……朝なれば治りますよ」
「しかし痛むでしょう」
 ぼんやりとぬくもりを伴い傷が癒えていく。…超回復ですね。
「……小町さん、」
「風矢さん」
 何かを言おうとしたのに、制される。
 こちらを見る目と、やさしく重ねられた手に、声が詰まる。
「私風矢さんを大切な方だと思っております」
 …ああ。
「だからご心配なく」
 ……ああ。
 その言葉を、先に。聞きたかった。
「ですから無理をして好きにならずともよいのです」
 違う形で、ちがう風に、聞きたかった。
 先に、言わずに。
 先に、きかなかったから。
 今、こんなことを、言われる。
「……ちがう……」
 熱くなる目を歪めて、ようやく口を動かす。
 好きだと、それだけだったのに。
 聞きたかったのに、伝えるのを、伝え方を間違えた。
 一方的に押し付けて無理やりにこちらに向けた。
「僕は、本気で…君が好きで、」
 嫌がられたわけではない。それでも困らせた。
 真意がわからないと、友人だった彼女を、きっと傷つけた。

 いくらでも、君の答えを待てる場所にいたというのに。
 好きだと、それだけを押し付けた。  ただ言葉を投げつけてくるものと――― 一番嫌っていたものと、大差のないやり方。
 いや、彼女を傷つけなかったそれより、ひどいものに、なった。
「………愛してるんです」
 手を伸ばせば、肩に触れる。
 ずっと触れていれば、冷たいそこに熱はうつる。
 でも、それだけだ。
 触れただけでは、ただ、それだけだ。

「愛してますから…」

 身体が欲しかったわけじゃありません。
 身体も、心も。ほしかった。

 朝と夜の間。
 心を無視したくせに繰り返す言葉が、彼女にどう聞こえているのか。

 問うたところで、分からないだろう。
 後悔でふさがれた、今の僕では。





 双方ややこしく延命続ける彼らと同じ轍を踏まないために気持ちもないのにGo to bed―――とか火乃香さんがいうからつい。
 順番を間違えた駄目風矢のお話でした。何にも云わなかったらすごくマイナスな方(興味本位的な意味とか)にとりそうだよね小町さんとか思ってつい。
 ヤンデレを書こうと思ったらただの駄目駄目男になった。しつけお化けに軽蔑されてちょっと詐欺られた方がよさそうですね。むしろ軒下につるされてもいいんじゃないだろうか。
 みたいな状況のかぜこま。
 言葉を惜しむと泥沼な気がします、かぜこま。
 だからかぜこまが恥ずかしいバカップルなのは、ハッピーエンドのためにはしかたないことだったんですよ!あはは。