あの人の どこがいいかと尋ねる人に どこが悪いと問い返す

 それは、とある夕暮れ時の出来事。
 美しく整えられた部屋に、一人の少女が佇んでいる。
 目線の先には、白い顔の女。
 寝台に腰掛け、どこかぼんやりとした瞳で壁を見つめる、細い女。
 夕暮れ時、黄昏時。誰そ彼時。
 近くにいるものの顔もおぼろと評されるその光を受け、一層おぼろな印象を受けるその女を、幼い少女が見つめている。
 その間に、美しい布の切れ端を、白い指先がにぎりしめる。やんわりと。
 どこかすがるような、けれどきっと意味のない動作。
 ―――きっと、すべてがこの人にとって意味がないのだろう、と。
 彼女を見つめる少女は思う。
 きっとすべてが、今のこの人には、と。
 それとも、すべてではないのかもしれない。だから、ぽつと呟く。
 どこが良かったの?
 それは答えを求めぬ独自。己の声などきっと聞いてもいないだろうと、そう思うからこその―――どこか憎々しげな。
 静かな部屋を揺らす声が届いたように、女のまつげが震える。そうしてゆっくりと瞼を持ち上げて、やんわりと少女をとらえる、そのまなざし。
 そのまなざしに、少女は強く後悔する。
 そのまなざしは、いつだって、どこか遠くをみている。
 あるいは、近くを見ている。彼女のうちに眠る、遠い日の面影。
 そんなのは、とても―――…
 とても、と唇を引き結ぶ少女に、女はゆるりと首をかしげる。
 優雅な動作で疑問を示し、同じく優雅に唇を開く。
 どこが、とはなんのお話でしょう、と。静かに疑問の響きを漏らす。
 あなたはわたくしの旅人ですもの。
 それだけで、何の問題もございません。
 少女は答えず、黙ったまま唇を引き結ぶ。奥歯をかみしめる。
 幼い顔をこわばらせ、それでもほんの少し笑う。
 不自然な少女の表情にも、麗しい笑みは揺るがない。
 ねえ、あなた。そうでしょう、と。
 夢見るような言葉を続ける。失われた日々を歌う。
 その言葉の意味など、少女には分からぬというのに。彼女の目線の囁く先に、誰もいないというのに。
 日の光を忘れたように白い頬で笑みを作り、繰り返す。

 まったく変わらない笑顔に、少女はただ佇む。
 黙って佇む彼女を、やがて夜の闇が包んだ。