これほど惚れたる素振りをするに あんな悟りの悪い人

 渡された包みはあいかわらず綺麗にリボンで飾られて。
 目の前の笑顔はそれなりに心くすぐるもの。
 くすぐると同時に、どう接していいのか―――というか、どういう意図なのかちっともわからない。
 最初は確かに嫌われていたはずなのに、この差ななんなのか。少し居心地が悪い。悪いのだが。
 だが、鼻孔をくすぐる香りの方は、頬を緩ませるに十分な威力を秘める。
 素直に笑って「ありがとうございます」と告げる彼に、彼女は笑って、足早に去った。


 さくり。さく。
 小気味よい音と共に、口の中に甘い香りが広がる。
 こつ、こつん。
 その音にかぶさるような靴音に、彼はくるりと振り返る。
 ソファに腰かけてクッキーをくわえるその姿に、靴音の主はわずかに眉をひそめる。
 行儀が悪いとでも言いたげだげに、少しあきれたふうに。
 それでもすぐさま優雅に微笑み、少女は問いかける。
「おいしそうに食べていますね。良いことです」
「うん。うまいよ。食う?」
「もらいものでしょう。大事にしたらいかが?」
 軽い調子で差し出された袋に、意味ありげな笑みが返る。
 いつもいつも思わせぶりな奴だな。
 クッキーの欠片とともに浮かんだ言葉を飲み込んで、彼は答える。
「皆さんでどうぞっていわれたからなぁ」
「…それはそれは、いい笑顔だったでしょうね」
「どっちかっていうとなんかわたわたしてたよ。用事でもあったのかもな」
「そうですか。一体どのような用事なのでしょう―――と、気になりませんか?」
「いや、別に?
 お前、知ってるの?」
 軽い口調の問いと共に、綺麗にやけたクッキーがまた一つ口の中。
 満月に似たその形は、かけたところもなく美しい。
 ―――きっと、綺麗に焼けたものを選んだのだろう。
 それを知る少女は、少しだけまなざしを遠くする。
「いいえ。まったく。私には係わりのないことでしょう」
 大げさに肩をすくめる少女に、青年は軽く首をひねる。
 けれどそれもまた、いつも通り。
 彼女が思わせぶりなことなど、気にすることではない。
 だから再びクッキーに手を伸ばす青年に、少女はわずかに唇を開く。

 本当に、仕方のない龍ですね。
 唇の形だけで呟いた言葉は、さくりと響いた音に隠れた。