嫌なお方の親切よりも 好いたお方の無理が良い
あるところのある場所で。
朱色の髪の少女はああ、と空を仰ぐ。
大きな瞳に憂いを乗せて、かわいらしい唇を歪ませて。
はきだされることばは、実にしめっぽい。
「もったいない」
「一応聞くけど、なんだ」
その隣で渋面の青年は、静かな声でそう問いかける。
聞く前からあきらめに彩られた、遠いまなざしに似合う声色だ。
「かわいい少年少女のコスプレ姿を何の形にも残せないなんて! なんてことだ、ですよ!?」
そんなこったろうと思ったよ。
青年は心の奥底から思ったが、何も言わない。
変わりに大きく息をついて、軽く額を押さえる。
「そんなの気にしてる場合か?」
「それ以外に何を気にしろというんですか!」
拳をつくり、ぐっと空に突き上げて。
荒々しく主張する彼の主人の表情は、とても真剣で。
瞳はこの上なく真摯に、力にみちていた。
青年の顔はといえば、少女が輝くほどに逆をいく。
顔を曇らせるその胸の内には、いくつもの言葉がある。
気にすることならいくらでもある。
君の身の安全とか。
明日の神様とやらの動向とか。
どこかの変な男に目をつけられないかとか。
帰るまでのこととか。
あの少年だって一応釘刺しておきたいんだがとか。
大体かわいい格好がそこまで好きなら自分ももう少し気を使っても。いや、やはりいいか。とか。
他に、いくらでも気にすることある。
けれど彼はやはり何も言わなかった。
言っても無駄だし、言いたくない類の言葉も交じっていたから。
「…無事に帰ったら付き合ってもらえばいいだろ。カメラも使い放題だし」
「そうですね。そのためには、たとえ形に残せずとも異世界のお洋服。是非参考にしましょう。羽堂さんに再現してもらいましょう」
ぱんと手を打った少女は、明るくなった表情のまま目線を上げる。
なにやら実に疲れた顔をした従者を、じっと見上げる。
「ポコスも付き合ってくれますよね!」
「…つき合わせるのかよ」
「嫌ですか?」
たちまち眉を下げる少女に、青年は元々遠くを見ていたまなざしを遠くする。
遠く―――無事に帰りつきたい我が家というか店のことなどを思いつつ、彼は少しだけ苦笑する。
「…ま、無事に帰れたら平和にご主人様のわがままを聞くのもいいかもしれないな」
色々と心配していが痛いよりは、よほど。
切実な思いの詰まった呟きに、しかし少女は苦い顔を返す。
「心配性ですね。
そんなに心配されるようなものじゃないでしょう、私は」
「心配するにきまってるだろ、こんな状況なんだから」
「変なひとなんですから」
「龍で、従者だ。つまりそういうことだろ」
ぶっきらぼうに呟く青年に、少女はそうですか、と笑う。
楽しそうに、少しだけ安堵したような。
どちらかといえば無防備な表情に、青年は深く―――胸に住まう思いのぶんだけ、深く息をついた。