不二の雪さえとけるというに 心ひとつがとけぬとは

 緑色の髪をした青年が、茶色い髪の女性に向かい微笑む。
 彼女の切り盛りする店、その手伝いの最中に。
 触れ合った手をそっと握って、それはそれは嬉しげに。
 対する女も、笑みを浮かべる。
 ただし、やわらかな頬を動かして作り出されるその表情は、凍える雪に似たもの。
 常ならば他者に向けぬまなざしで、それ以上を制する。
 だから青年は手を離して、そっと肩をすくめる。
 ―――もっとも、そのようなことがなくとも。
 マスターになにしてるの!離れなさいよ!と。
 この声がある限り、結局はなれることにはなるのだが。
 だが―――と。
 胸にわく痛みに、彼はそっと目を細めた。


 なにしてるの離れなさいよ離れないなら考えがあるんだら!―――とでもいいそうな風龍の少女をどうどうとなだめる青年に背を向け、女はそっと自室に向かう。
 そのままいささか乱暴にドアを閉めれば、どこかから聞こえる声。
「答えないのか」
 どこかからともなく聞こえる声。
 彼女の身の内にある卵とでもいうべきもののの声。
 からかうようなその声に、いよいよ彼女の声は冷える。氷のように。
「そんなわけがない」
 冷たく鋭く―――踏みしめればすぐに割れる、薄氷にも似た。
「分かっているだろ。
 性根の悪いこと言うんじゃない」
 声と表情をそろえて吐き捨てる。
 返る声はなく、傍らに何の姿もなく。  窓からさえぎるものなく注ぐ日の光に、彼女はわずかに目を細めた。