001:世界(螺旋・鈴)

 幼い頃見つめる世界は、いつだって狭く。格子越しで。
 陽の光も月の光も、遮られて届いた。人の声もぬくもりも、ひどく遠い場所で育った。
 それでも世界が美しいと、思ったのは。そこが完成していたからだ。
「鈴様」
 記憶の奥から響く声は、とても優しい。
 その声があったから、世界は。
 狭く閉じ込められた世界だけれど、これ以上なく完成していたんだよ。

 ・鈴と育ての親。…育ての親なのに様付けかよというのはつっこみどころです。理由は後々。



002:輝石 (朝町・かなた+メー)

 ごつごつと硬く、僅かに輝く石を見つめる。
 輝石。キセキ。奇跡。
「…ステキだねぇ」
「食えないけどな」
「風情がないねぇ…」
「三日も食べてなきゃそうなるよ」
「…まぁ、だけどね」
 ああ、この石が奇跡的に今日のご飯を持ってきたりしないかな。
 くぅ、と切なく腹が鳴った。

 ・検索中のボケ主従。in貧乏時代。いや、今も富豪ではないけど。




003:水鏡(朝町・かぜ→こま)

 湖を覗き込むと、そこには僕が移りこんでいる。
 それでも、手を伸ばせばぐしゃりとつぶれる。触れられない。
 水鏡とは、そういうものだ。決して触れられない、幻。触れた瞬間崩壊する、幻。
 それは、まるで。
 誰かの心のようで。
 触れたと思った瞬間、揺れる。届かないと、思い知らせされる。
 口の中だけで、一つ名を呼ぶ。それだけでゆがむ顔が不愉快で、ばしゃりと水面をかき乱す。
 ぐしゃり、と水鏡は壊れ去る。崩れることも消えることもないのは、ただ胸に巣食う焦燥。
 彼女も消えゆくものだったなら、いっそ。いっそ、諦められたけれど。
 そんなものではないからこそ、こんなにも。
 そんなものであったなら、壊れるのはきっと。
 苦しい呼吸は、溜息に紛れた。

 ・暗いというか、いじいじしてる風矢。…それがいつからあんなにデレまくりになった…



004:歌姫(UIS・聖那+マリシエル)

 高くもなく低くもないその声は、凛と響いて空へ広がる。
 あくまで口ずさむだけなのに、不思議と部屋へ、空気へ染みいる。
 何の歌です? 聞こうとして、止める。
 どこか物憂げな表情で歌われるそれは、いつだってレクイエムなのだと知っている。
 だから。
「…いつかわたしがいなくなったら、聖那さん、歌います?」
「…いいえ? 歌わないわよ」
 あなたはあたしより長生きしなさいよ、と。歌うように紡がれた言葉に、苦笑が漏れた。

 ・うす暗い主従。けどわりとマリシエルは幸せそう。



005:守人(もりびと)(UIS・ライ+セレ)

 くぁ、と漏れた欠伸に、壁にかかった時計を確かめる。開店準備には、まだ少し間がある。…良かった。
 胸の内で呟いて、膝の上に頭を預けた子供に目をやる。腫れた目尻は赤いけれど、その寝息は健やかだ。夜中に泣き喚いた名残などない。
 さらり、と膝にかかった髪を撫ぜる。真っ直ぐな髪。それはまるで、こいつの性根のような。…いや、案外曲がってる時もあるけどな。
 それでも、おれよりはずっと真っ直ぐだ。こんな『街』が似合わないほどに。こんな『街』に来なきゃいけない身の上だったくせに、馬鹿みたいに。
 だから。
 その夢は穏やかにあればよい。まだ、こいつが真っ直ぐであれるように。
 さらり、と再度髪を撫ぜる。膝にある重みは鬱陶しい。なのに、笑みが漏れた。

 ・その眠りが守られるよう祈り、守ろう。
 同居直後あたり。今よりずっと不安定なセレナ。今より全力で甘やかしてるライド。っていうかこれもう+じゃないよね。



006:契約 (朝町・かなた)

 病める時も健やかなる時も汝伴侶を守り愛することを誓いますか?
「は、ちがうんだよなぁ」
 私と彼が交わしたのは、主従の契約。病める時も健やかなる時も共にある誓約。
 それは、あるいは呪いになり得るのだろう。彼が私の傍を望まなくなる時は、ただの鎖だ。
 ちり、と胸が痛む。それが呪いになった時、私は。ちゃんと解いて上げれるだろうか。
「…無理だね」
 だからどうか君。契約をかわした半身。
 誓いを破るその時は、振り返らずに、行くと良い。

 ・磨智が来た…ちょっと後。花束事件後。不安定なかなた。



007:指先 (朝町・メマチ)

 ちょん、と触れ合った。
 それだけで、ばくばくと騒ぐ心臓の音が伝わってしまうような錯覚。
 なのに、相手のことは何一つ分からない。指先一つでは、どうしても。
「…磨智」
 からめられた指先をそのままに、そっと囁く。
 返ってきた笑顔に、言おうとしていた言葉を忘れる。
 ああ、幸せだなぁ、と。それだけを思い、ぎゅっと指先に力を入れた。

 ・見てるこっちが恥ずかしいわ。



008:月光 (朝町・ベムヒナ)

 月光は狂気を呼ぶのだと言う。
 そんな言いがかりをつけられては、月とてさぞ不愉快だろう。
 けれど、今、その言葉を信じたい自分がいることを彼は自覚していた。これは月が明るいから、と。そう言いたい自分がいる。
「…緋那さんがベムに優しいなんて、そんな理由がないととてもとても…」
「あー…分かるわぁ…」
 失礼なことを言い合う二人に気にせず、彼女は意識のない彼の額に乗せたタオルを取り換える。
「自分の所為で倒れた相手、ほうっとけるか…」
 正確にいえば、夜遅く帰ってきた緋那にかけよってきたベムを、彼女が思わず足払いで気絶させた、だが。
 それでも、心配させていたのは自分で、倒してしまったのも自分。
「………」
 月光に照らされて、その顔は青白く見えた。けど、それは本当に月光のせいだったのだろうか。それだけ心配をかけてしまっていたのではないだろうか。
 想像すると、胸のどこかが少し痛んだ。
 優しくすることは、ようやく覚えたけれど。
 それでも、まだ。きっと、私は。
 答えられないことが悲しく思えたのは、きっと月が明るい所為だ。

 ・あいも変わらず生殺し。優しさが残酷。



009:腕輪 (朝町・メマチ)

 しゃらりと腕にはまった腕輪が鳴った。
 細い腕に重たげな、銀色の鎖の輪。
「…どーしたんだ、それ」
「ん? 一目ぼれして買ってみたの。似合う?」
「…んー…」
 似合うと言えば、似合う。けど。
「…なんか、やかましいよな」
 言った瞬間、しゃらん、と腕輪が鳴って。
 ぐにゃり、と頬が引っ張られた。

 ・メ―の半分は野暮さとか迂闊さで出来てます。



010:軌跡 (UIS・紅也+ライド)

 真っ直ぐに構えられた刀が、これまた真っ直ぐに振り下ろされる。
 それは、とてもゆっくりとした動作。
 けれど、まるで揺らぐこともなく流麗に続くその軌跡を、乱す方法など浮かばない。
 ごくり、と唾を飲む間にも、その動作は続いていく。恐ろしいくらい、淡々と。
 迷いないそれは、きっと。彼の生きた軌跡そのもので。
 だから敵わないのか、と。淀んだ誰かが呟いた気がした。

 ・稽古中の鬼コーチと見学してる弟子。(鬼コーチって)



011:封印 (朝町・磨智)

 忘れてしまえ。届くことなどあり得ない。
 考えてはいけない。彼を目で追う理由など。
 ごまかしてしまえ。じゃれつく時に痛む場所を。その意味を。
 忘れるまでもないはずなのだ。こんな思いは、最初から、叶うはずのものではない。
 だから私は知らない。青い髪の主人へ感じるわだかまりの名前なんて、なんにも知らないのだ。

 ・封印してしまおう。この想いを。焦燥を。



012:聖域 (緋那+かなた)

「入るなと言ったじゃないか」
「だからといってフライパンでたたかれそうになるとは思わなかった」
「こそこそごそごそしてると、例の黒いのみたいで。つい」
「いやいやいや。私ゴ」
「言うな」
「…ともかく、ちょっと水飲もうとしただけなんだけど…」
「しかし、今ここは戦場で」
「なにと戦ってんのさ、君…」
 どこか引きつったかなたの声に、オーブンの中のグラタンが焼きあがる音がかぶった。

 ・台所は彼女の聖域なのですよ。(シリアスなタイトルに似合わない)



013:道標 (UIS・達臣)

 思い出すのは、いつも後ろ姿。
 栗色の髪と、細い身体と。高い―――高いと思っていた、背。
 けれど、その背が大して高くなかったのだと、気付けたのは最近。小柄なあの人を、もうとっくに追いぬいたのだと、気付いたのは、最近。
 けれど、けれど。けれど。
 いつか、兄貴みたいに。
 その思いは、あんたがいなくなったその後すら。鮮やかに。

 ・いつか兄貴みたいに。そうして、あなたを守れたら。ずっと。そう思ってたのに。…ちなみに彼の兄はわりと背小さいです。達臣は日本人の平均です。



014:散歩

「散歩だったんだよ」
 淡々と言う少女の腕の中、彼女に懐いたらしい猫がにゃうと鳴く。
「三日間消息不明は、放浪って言うのよ」
「でも、散歩」
 きっぱりと言い切るりおに、明乃は深く溜息をつき、米神をもんだ。

 ・方向音痴にもほどがある彼女。と、その保護者(笑)



015:夕闇 (UIS・雅輝+希羅)

 深い夕闇の中、隣にいる誰かの顔すら見えなくなる。
 その闇は、どこか、夜闇より深い、と思う。
 深く、不穏で。不安をあおる。
「だからつい知った姿に声をかけてしまったのであって、あれこれしようという気持ちがあったわけではありませんだからお腹から足をどけてもらえるとありがたい」
「黙りなさいよ変態」
 ぐい、と足に力を込める彼女は、夕闇の中、やけに凄味のある笑みを浮かべていたように思う。

 ・もっと綺麗なネタになってもよかった気がするんですけどね!



016:夜風 (朝町・メマチ)

 彼女が歩く度、長くさらさらとした髪が、風に吹かれて揺れる。
 冷たい風に吹かれて、軽やかに。
 むき出しになった首が、寒そうだな、と思った。
「…磨智」
 そろそろ家、帰ろう?
 そう言おうと思った。
「なぁに?」
 けれど、ふわりと振り向く姿が、月に照らされた長い髪が、とても綺麗だと思ったから。
 ゆっくりと首を振り、なんとなく微笑んだ。

 ・たまにはしっとりバカップル。



017:雷鳴 (朝町・かな+メー)

 鳴り響く落雷。
 びゅん、とカフェのテーブルの下へ潜る白い影。
 なんかぷるぷるしてる尻尾。ぷらいすれす(謎)
「…………っ」
「ここで鼻血拭いたりしたら主従の契約破棄する」
「し、しないよ!」
「俺の目を見て言え!」

 ・ドラカフェにて。某咲良さんの可愛さは時に凶器です。



018:異国 (螺旋・舞華+拓登+祐絵)

 淡い金髪の喫茶店マスターは、ボックス席で友人と楽しげに会話を交わす舞華を見つめる。
 彼女達がこの店に入ってきてから、既に結構な時間がたっている。
 だというのに、その笑顔も言葉も、尽きる兆しはない。
「あの年頃はよくしゃべるなぁ」
「年は関係ないと思うわよ」
「かもな。けどまぁなんつーかもう…異国だよな。ああいうの」
「拓登」
「あ?」
「年寄りっぽいわよ、その台詞」
「なっ…」
 言葉を失う拓登に対し、ささやかながら賑やかなお茶会は続いていた。

 ・4歳くらい年変わってる世代なんてもう異国の生物ですよね。



019:玉石 (朝町・メマチ)

 町に来た市を見て回っていると、不意に隣にいた足音が途切れた。
「磨智?」
 呼んで、振り向くと、磨智は露店の一つに屈みこんでいた。
「宝石なんて見てて楽しいの?」
「楽しいよ。いらないけど。楽しい。目が楽しい」
 にっこりと笑って、答える磨智。
 そういうもんか、と小さく呟く。すると、にんっと微笑まれた。
「…ステラじゃないなら、集めてもなんもならねーじゃん、とか思ったでしょ?」
「え? 別に思ってねぇよ」
 そう伝えても、磨智は疑わしくにまにましている。…うわむかつく。本当に思ってないのに。ただ、俺は…
「それより俺はお前見てる方が楽しい」
「………」
 珍しく赤くなった磨智は、これまた珍しく言葉を失う。
 なんて顔してるんだ。…そんなに驚くことか?

 ・玉石…(意)価値のあるものとないもの。宝石。ナチュナルに気障いメー。不意打ちに弱い磨智。



020:刻印(UIS・紫音+ライド)

 酒、と呟くと、苦笑して頭を振られた。
 私は客だと訴えても、私より年若い店主は決してそれを出そうとはしない。
「腹の怪我に酒は障るよ、紫音さん」
 ことん、と置かれたのは温かいスープだ。
「…よく、分かったな」
「あんたいつもスキないからなー。腹かばうと目立つわ」
 けらけらと笑うライドは、すぐに神妙な顔をする。
「…女なんだから傷作んな…なーんて言わねえけど。傷広げるマネは勘弁な」
「…なんだ、気持ち悪い」
「善意で言ってんじゃないよ。あんたがここで状況悪化させたりしたら、おれあんたの上司に殺される」
「聖那はそんな無駄なことしない」
「そらまぁそーかもしれねーけどな」
 でもよぉ、と呟いて、彼は再びけらけらと笑った。…明るく笑う男だと、思う。周囲に裏のある笑顔ばかりだから、余計に。
 その明るさに、つい余計なひと言が漏れた。
「こんなもの、今更増えたところでどうってことないだろう」
 だって。これはただの傷痕で。痛みを与え終わった後にこそ、刻印として残り、心を苛む。戒める。
 これは、己が誰かを傷つけた時についた、と。その証なのだと。
 それは、もう既にいくつも残っている。もう、どうしよもないくらいに。
 だから、誰かに心配してもらうようなことは、ないのだ。
 増えた刻印にそっと手を這わす。
 肌の引きつるような痛みに、少しだけ眉をひそめた。

 ・刻印を背負い、どこまでも行こう。この身滅びるその日まで。



021:傷跡 (螺旋・拓登+祐絵)

 傷痕を見るのは慣れている。
 その手当てだって、慣れたものだ。
 けれど。
「…お前、ちっとぁ痛がるとかないのかよ」
「痛いわよ」
 腕に刻まれたそれは、まだ生々しい後がついている、
「…なら、もっとないのか。痛そうな顔するとか、傷が染みるとか」
「……してないの? 私は」
「…全然」
「そう」
 なら、仕方ないわね。
 そう答えることを、俺は知っていた。
 けれど、分からないのは。
 一体どう答えてくれれば、安堵できたのかという、それだけで。
「………おわった」
「ありがとう」
「ああ」
「なら、次行きましょう」
 あまりにあっさり言い放たれて、一瞬、言葉に詰まる。
 まだ、痛んでも可笑しくないのに。斬られたことに、恐怖もなく。
 呪文の刻まれた白い包帯は、黙っていても傷を癒す。けれど、もう少し、黙っていてもいいはずなのに。
「…ああ」
 それでも、小さく呟く。
 隠された傷痕に、なぜか俺の頭の方が痛んだ。

 ・その昔、相棒やってた頃の二人。色々顔に出ない彼女。



022:足枷 (螺旋・鈴+舞華)

 別に、いらないと思ったんだ。仲間とか、そういうものは。
 1人でやっていく自信があった、というのは少し違う。誰かと組むことはあっても、それは一時だけのことで。それで良いと思っていた。
 だって、長いこといれば…きっと。未練が、できる。
 その関係への未練。…生への未練。
 そうなるのは、厭わしい。だから。
 だから、いらないと。そう思っていたのに。
「綺麗な目ね」
 言うそいつの方が、よほど綺麗な眼で。
 忌まれ続けた目に、それはあまりに眩しく。
 失うことが、たまらなく怖くなったから。
 なにも言えなくなった私の中、ただその言葉だけが、繰り返し聞こえた。

 その言葉は彼女の足枷。



023:憎悪 (螺旋・舞華+鈴)

 くらり、と身体が傾いだ。
 僅かに斬られた腹が、熱く痛む。けど―――寒い。
 思った瞬間、ふらり、と意識が暗く沈んだ。

「…舞華っ!」
 沈んだ意識を呼び戻したのは、悲痛な声。
 ぼうっと目を開ければ、顔に汗を浮かべた相棒。
「す、ず…?」
「喋るな!」
 素直に黙る。けれど、じりじりと痛む。
 腹の傷が。そして。なにより。頭のどこかが。
 ―――憎い。
 弱い己が。この傷をつけた奴らが。相棒にこんな顔をさせる原因のあいつらが。…魔物、が。
 腹の傷の痛みが、遠いものに思えた。

 ・痛みの褪せるような憎悪。あるいは、憎悪に食われるこその、痛み。



024:病魔 (ベムヒナ+かぜ+メー)

 それは、ある寒い日のできごと。風矢は眉を潜め、言った。
「…ベム、どうかしましたか、なんかいつにもましてぼーっとして」
「…熱い。気持ち悪い」
「あ? 風邪か?」
「…かな」
 小さく呟くベムに、緋那はぴくりと眉を上げる。
 そうして、つかつかと歩きよる。
「緋那?」
 怪訝そうに聞く声も、どこか枯れている。
 だからこそ、彼女は真摯な顔で手をかざし、ぺたりと彼の額につけた。
 瞬間、ふらりとゆらぐベム。緋那は慌てて叫ぶ。
「…ベムー!?」
 肩をゆらしてがくがく揺らされつつも、彼は何も言わない。
 そんな二人に、風龍と光龍はぽつりと呟く。
「…幸せそうな顔で倒れてますね」
「ああ…至福を感じてる顔だよ…」
「ちょ、さっき熱くなかったのに熱っ。ベム、ベムー!?」
 彼女の叫びに、彼は答えなかった。

 ・風邪的な意味と心の病気的な意味で病魔に侵されたベム。でも幸せそう。



025:愛憎(智華×遥霞)

 あまりにうるさくまとわりつかれて、知らず苛立った。
 つい、無意味な毒が漏れた。
「…その良く回る舌は少しはおとなしくなりませんか」
「なるんじゃない?」
 明るい言葉に眉をひそめる間もなく、べぇ、舌がと差し出される。差し出されたと、わかる。
 何も言えずにいると、それはしまわれる。そうして、性懲りもなくどうしよもないことを呟く。
「切り落とすのも、噛み切るのも、君がしたいなら、どうぞ?」
 再び差し出された舌は、赤い。苛立つほどの、赤い。
 切り落とせば、それよりもっと赤いモノが滴るだろう。噛み切れば、それは私の一部になるだろう。
 そうなってしまえと。そうしてしまえと。彼はずっと思っている。
 私の気持ちなど、無視したままに。
 ずきと胸が痛んだ。否、傷んだ胸がうずいた。
 だから、噛み切る代わりに、唇を重ねる。舌を絡めた。
 その熱を、決して失いたくない。だのに。噛み切れたなら、どんなに。
 戯れのように噛みつかれた舌先滲んだ血は、苦く溶けた。

 ・不穏だけど恋人。愛憎半ばというと愛が少ないみたいですけどそもそも愛情が半端ないから憎悪にまでなっちゃった二人は果たしてどっちに転がるのでしょうねという。…そのうちどっちかが噛み切るかもしれないけど。