5.絡めた指が愛になる



 赤い髪の男が寝台に寝転がりながら呟く。赤い、けれど己とは異なる色の髪の女をぎゅっと抱きしめながら。
「離れたくないなあ」
「…離れようよ。朝だもの。仕事でしょう」
 朝になり、夫を起すためにゆさぶっていたはずが気付けば抱きしめられ。溜息混じりに妻は答える。
「朝も昼もフィアナといたい…」
「…はいはい」
 熱で潤んだ瞳で、甘い言葉。
 それらを一言で交わして、妻は夫の胸のあたりを押し返す。
 照れているような、困っているようなその反応にますます目を潤ませつつ、夫は笑う。
「フィアナは違うの?」
「……違くはないけど」
 けど、とそれきり言葉を切る彼女の眼の先は、明るくなりはじめた空。
 登る朝日に逆らっていつまでもこうしているのはいかがなものか。
 かつて日が昇ろうと落ちようと働きずめだった女は、嬉しそうに笑う夫の気配を捉えつつそう思う。
 自分の言葉一つで、心の奥底から嬉しそうに笑う夫を感じながら、そう思う。
「フィアナ、愛してる」
 彼女の入れるお茶も顔負けなのではないかと言わんばかりの甘さを含んだ声に、答える声はない。
 唐突に重なった唇に声を奪われた妻は、離れるなりぱっと頬を染める。
「…ア、アセルト」
「うん」
 至近距離で笑う顔は、やはりとても幸せそうで。
 離れるために伸ばしていた手は、いつのまにやら指と指とをからませられて。
「貴方本当に馬鹿じゃない…?」
「馬鹿でいいよ」
 呆れたような言葉に、彼は軽く胸を張る。
「フィアナと一緒にいるなら、馬鹿でいい」
 迷いのない声を吐いた唇は、再び彼女のそれと重なる。
 だから、朝だって。
 口に出せぬ言葉を胸の中で紡ぎながら、妻はそっと指先に力を込める。

 この口づけが終わった時こそ、離れるために、送り出すために。
 けれど今は、同じ想いをこめて。

 いまもこれからも触れたいと願う心を、そっとこめて。