2.触れた指先にうずく熱      おそらくIF設定です。(どういう関係性だこれ的な意味で)



 ポコスは、穏やかな時間の流れに目を細めた。

 しとしとと雨の降る日、客足は少なく。
 奇蹟のように重なった休憩時間に、彼の想い人件主人はぽつりと口を開いた。まったりと和んでいたその眼を、ぎょ、と開かせる言葉を紡いだ。

「そうだ、ポコス。一緒にお風呂に入りましょう」

「…は?」
 間の抜けた声を上げる彼に、彼女は笑う。にっこりと。
「あなたの髪を洗ってみたいんですよ」
「なんでそうなったんだ」
 笑顔に渋面を返す彼に、彼女は続ける。
「だってあなた、髪の手入れどうしてるのか聞いた時、適当っていったじゃないですか。
 それなのに荒れる気配はなし。不思議ですよね」
「…それが、どうしてそうなるんだ?」
「こうなるとどれだけ雑に洗っても平気なのか気になってしまいました」
 好奇心たっぷりな、―――好奇心以外のものを含まないその表情に、ポコスは痛む胃をなでる。
「…男の髪のことなんて気にするなよ」
「従者のことは気になります。いいじゃないですか、洗うくらい。悪いようにはしませんよ」
「…お前な」
 やめてくれ、お願いだから。
 そう続けるはずだった言葉は、喉の奥でしおれる。
「命令ですよ、ポコス」
 そう言った彼女は、すたすたと脱衣所の方へと向かって言った。


 脱ぐ脱がないの押し問答の末、たっぷりとお湯をはった盥をに髪をひたすことになったポコスは、ぽつりとつぶやく。
「どこにあったんだ、これ」
「倉庫にしまっておきました。いつか、貴方の頭に落とすこともあるかと思って」
「どんな時だよ」
「貴方がかわいい子を泣かせた時とかでしょうか」
「…どういう時だよ…」
 会話を交わす間にも、髪をくすぐる指先はとまらない。
 ぱしゃぱしゃ、指の間で固い髪が踊る。
 丁寧に泡だてられた泡が汚れをさらい、長い髪は湯の中でゆらめく。
「あいかわらずよい髪してますね」
「君のほうがさわり心地がいい」
 ふわふわとした髪の感覚を思い出しながら、彼は答える。頭の形をなぞられ、耳の裏をなぞられ、くすぐったさと別のものとを感じながら。
「自分のを触ってもつまりませんよ」
「…じゃあ今は楽しい?」
「貴方がもっとうろたえてくれたらもっと楽しかったですね」
 盥に頭を預ける自分を顔を覗き込むようにしてきっぱりと告げられた言葉に、ポコスはふ、と笑う。ほんの少し遠い目をして。
 どうしてこう、この少女は自分をうろたえさせるのが好きなのだろうか。
 そんなこと、考えずとも、とっくに。
「…うろたえるもなにも」
 手を伸ばして、橙色の髪に触れる。
 伸ばした指の中、ふわりとした髪はからんではほどけていく。
「落ちつかない気持ちではあるな」
 ほどけて離れていくそれを掴んで、そっと唇を寄せる。

 もどかしくて、心地よくて。落ちつかなくて、どうしよもなくて。
 そんなこちらの想いを、少しは分かればいい。