蜂蜜が肌に良いと聞いた。
ならば試してみたくなるのは、当たり前のことだと思う。
蜂蜜
腕に蜂蜜を塗って、数分置く。
その後、ぬるま湯でしぼったタオルで拭き取る。
それが蜂蜜パックの方法だそうだ。
とりあえず右腕にだけ試してみることにした。これで肌に合わないようなら、食用に回せばいい。
智華はそう思いながら、腕に蜂蜜をまぶす。
そうして、椅子に腰をおろして、静かな時間に安堵するように時間にそっと瞼を瞼を閉じて―――
「智華ー。ちょっともみあってきたらシャツ破けたー。縫ってー」
静寂とか安堵とかそう言う言葉に真向から喧嘩を売っている声に、ぱっと瞼を開く。
鍵をかけたのになぜ、と一瞬思ったけれど、それを問うと悲しくなりそうなのでやめた。ちなみに、合鍵など渡していない。
「…なにやってんの? なにぬってるの?」
「蜂蜜ですよ、肌にいいそうなので」
断りもなくつかつか歩み寄ってくる不法侵入者に静かに答える智華。
不法侵入者もとい彼女の恋人と言う名の騒音公害、胃痛発生器はその答えに不思議そうな顔をする。
「…智華」
「なんですか、改まって」
「肌にいいものならぬっていいの? なら、そういうプレ」
「それ以上言ったら怒りますよ」
みなまで言わせず冷たく告げる。
と、大袈裟なほどしゅんと肩を落とす遥霞。
「怒らなくてもいいじゃん…だって、誘われてるのかと」
「目を開けたまま夢を見るくらいなら早く寝たらどうです? 一人で」
「なんでそんなに力強く一人言うの…」
「身の危険を感じるもので」
「…………君から欲しいって言う時もあるく」
「黙ってくれませんか?」
冷たさを増した声に、彼は今度こそ口を噤む。
声と言うより、その手がデスクの上にある無駄に装飾の施された本に伸びたからと言う方が正しい。
無駄に華美な金属の装飾が施された本の表紙に、なんか血痕みたいなのがついている理由を、彼は真新しい記憶の中で、身をもって知っていた。
「…はいはい。…んな心配しなくても綺麗な肌なのに」
「…今が綺麗でも、手入れ怠ると荒れていくばかりなんですよ」
「どんなに君の肌が荒れても俺は気にしない」
「あなたが気にしなくても私は気になるので」
お湯で温めたタオルで肌を拭きながら、重い溜息をつく智華。
別に方便で言ってるわけではないと分かるその姿に、遥霞はクス、と笑う。
「…そういうところ、可愛いよねえ、君」
「…別に私だけじゃないですけどね、そういうこと気にするのは」
「そうだけどね。じゃあ言いなおす。そういうこと気にしてる君は可愛いなあ」
「……」
へらりと頬を緩ませる彼に、智華は密かに溜息をつく。
誰の所為で肌が荒れると―――などと言わない。ストレスの主原因は彼だけど、言わない。今更そんなことで溜息もつかない。
ただ。
誰のために気を使うと。
浮かんだ言葉に彼が気づくことは、おそらくないだろう。