昔、父の肩にかつがれてみた空は、青く澄んでいた。
 高く、青く、美しく。
 それでもいつか手が届くのではないかと、幼い頃は夢を見ていた。
 ―――希羅は欲張りだなあ。
 私に似たんだろうなあ、と。
 くすぐったそうに笑う父を、彼女は今でも覚えている。
 覚えて、思って、どこまでも。その想いを抱えて生きている。

 空を見上げて、その青さを愛でる。あるいは、明るさに頬を緩ませる。
 そんなことが健康的であろうその日、澄生希羅は同僚の部屋に押し掛けていた。
 わりといつものことである。

 いつものことであるから、押しかけられた竜臣も黙って本を読む。何も見ない言わない相手しないの体勢。
「…暗いわよ、あんた」
「その暗い男の部屋にわざわざ押し掛けてくるのはお前だろ。文句言うな」
「あんたの部屋が一番明るいし、広いのよ」
 恐らく、寮として使っている建物の個室の中では、一番広い。
「…」  規則正しく、礼儀正しく、清く正しく。
 しゃきしゃきと生きる女と、目の前の男は対照的だ。
 正しくなくともよい、それが一番都合がよければ。広い部屋は欲しい。おくものがたくさんあるから。それが明るい場所だったのは、単に偶然である。





あとがき