「魔術師というのは表情を動かさないようになる職業なのかしら」
「は?」
相棒の唐突な一言に、鈴はフォークを操る手を止めた。
不満
「…なんだ、いきなり」
「だって、そうじゃない」
トマトソースのついたフォークをびしっと突きつける舞華。
やけに鋭いその眼差しに、鈴は少しだけ怪訝そうに眉を潜める。あくまで、少しだけだが。
「美味しいもの食べてもニコリともしないし、嬉しいって言ってる時もそう見えないし」
「そうか、美味しいか。今日はタマネギ炒めるのにバターを使ってみたんだ」
「あ、そっか。うん、甘くておいしい…じゃ、なくて。美味しいんだからもっと美味しそうに食べればいいじゃない」
「しかし、自分の作ったものに、そんなにいちいち感動はできない」
「…あなた、余所で食べてる時も、おんなじような顔してるわよ?」
「…美味しいとは思っているが」
今度こそはっきりと眉を寄せる鈴に、舞華は真剣な声色で言う。。
「じゃあ、もっと楽しそうにするとか」
「してるつもりだが」
「でも、そう見えない」
「見えないと、困るのか」
「私は困らないけど…」
「けど?」
「あんた、そんな無愛想なばっかりに、色々誤解されてるじゃない…」
冷たいとか、お高くとまってるとか、色々言われてるじゃない…
舞華は悔しげに言う。悔しがっているとすぐに分かるその顔に、鈴は低く呟く。
「なぜ、それでお前が怒るんだ」
「なんで、って…、あんたが不当に馬鹿にされてんのよ。腹立って当然よ」
「馬鹿にされてるのは、舞華じゃない」
「でも、あんたじゃない」
「……わけがわからないことを言うなぁ。舞華は」
「なに感心してるのよ。ともかく、あんたはもうちょっとわかりやすくなってもいい!」
なぜか胸を張って言いきって、舞華は白身魚のトマトソースがけにフォークを戻す。
そして、ぱくり、と口に運んでほわん、と頬を緩めた。
怒っていたかと思えば、くるくると笑う。確かに彼女から見れば自分は無愛想な方だろうな、と、鈴は内心嘆息する。やはり、それは顔に出ないが。
「…しかし、性分だからな」
「………そう」
ぽそり、と呟かれた言葉に、舞華は僅かに苦笑する。苦笑して、ぱたぱたと手を振った。
「なら、変なこと言って悪かったわね。無理なんて、しなくていいわよ」
「言われなくとも、そんなことはしない」
淡々とした声音に僅かに憮然とした色をにじませて、鈴。
その声に、舞華はにんまりと笑った。
「そーう? あんた結構無理するじゃない」
「お前に言われたくはないな、その台詞」
「私のどこが無理してるのよー。…ってんなことはいいわ。美味しいわねぇ、これ。すっぱさとお魚の味があってるわぁ」
「話逸らしたな」
「でも美味しいのは、本当よ?」
パッ、と笑う舞華。
輝くようなその笑顔に、鈴はほんの少しだけ頬を緩める。
本当に少しすぎて、彼女も本人も気づかない。
「……」
1人で食べてるよりは、うまいと思ってるけど、な。
小さな小さな呟きは、誰に聞こえることもなく消えた。
「―――なーんてことが、昔あったんで。煩く言ってないんですけど。ほんとーに無愛想なのよね、鈴」
喫茶『みなと』の片隅で、まるで管をまくような調子で舞華は言った。
「…まぁ、確かに無愛想だよな、あの子」
とん、といささか乱暴にカップを置く舞華に、拓登は苦笑する。
どこまでも軽いその様にむっとしたように、彼女は言った。
「成冶さんもある意味無愛想です。いっつも笑顔で」
「…ま、それも否定はできんな」
昔はそこまで徹底してはなかったけどなぁ。
胸の内だけで呟いて、拓登は答える。
「魔術師とは全員そうなんでしょーか。多くないですか、そういう人」
「いや、そうは言い切れ…」
ないだろう、と言いかけた彼は、ふと黙る。
その脳裏に浮かぶ、無愛想な魔術師の面々。筆頭は一応恋人。
「…ないだろう。たぶん」
「なんですか、今の間」
不満そうに、舞華は唇を尖らせる。
拓登はただ苦笑して、冷のおかわりを注いだ。