相棒をやっていた頃から、(仮初とはいえ)恋人をやるようになっても、こいつは基本的に表情を変えない。
 変えないと言うか、リアクションが薄い。
 静かというよりは、動かない。
 どんな時も、ひんやりと凪いでいる。
 たぶん、それは好ましく。
 同じくらい、苛立たしい。

032 時々

 風呂上り。
 隣に腰掛ける一応恋人となっている女の肩を抱いてみた。
 まるで無反応だったので、押し倒してみた。
 こちらを見上げる瞳は、それでも数度瞬くだけで。特に何を思った風でもなかった。
 このままボタンをはずしても、何も変わらないことを知っている。肌に触れたって、特に何も変わらないと知っている。だから。
「……いつも抵抗しないんだな、お前」
「抵抗する理由がないから」
「一応聞くけど、その理由は?」
「殴られそうになるとか?」
 押し倒してなおかつ殴りつけるって色々と鬼畜な行いだなオイ。そりゃあ昔犯罪者相手にやったこともあるが。正当防衛だし。女でも殴ったが。正当防衛だし。
 プライベートでそれをやったら、どこにも正当はないだろう。こんな状況では特に。
「……抵抗してほしいの?」
 見下ろす顔に、少しだけ不思議そうな感情がよぎる。
 微かに、静かに。
 もっとわかりやすかったら、満足するのだろうか、俺は。
「……別に」
 たぶん、ちがうのだろう。
 あれやこれやと文句をつけつつも、嫌だとは思っていないのだろう。
 嫌ならば、止めてしまえばいいのだから。こんな中途半端なマネなど。
 責任をとるという軽口に、返って来たのは『なら、付き合って』理由は『あなたがわたしの男になれば、言い寄ってくる男を断るよい口実だから』
 だから俺は好きだとも惚れたとも言っていない。ただ、頷いただけ。
 こいつだって言ったことがない。そんな気はないのだろう。本当に…本当に。ただ、仮初の関係だ。
 だからどこか後ろめたくて、それ以上に空しい。好きだ、と思ってしまったから、どうしよもないほどに。
「…お前に何かしてほしいとか、思ってねぇよ」
「そう」
 ただ、生きていてほしい。できれば傍にいてほしい。
 その願いは、叶った。
 叶って、こうして触れられる位置にいる。
 だからこの先は、とても醜い欲だ。
「楽しんでるって風でもないのに、なんで付き合うかね、と思っただけだ」
「なんで、って。拓登がしたいなら、付き合うことに意味はある」
 言葉だけ聞いていれば、これ以上なく甘い台詞だ。
 けれど、声が。顔が。あまりに。あまりに、俺とはちがうから。
 いつも掃除してくれているから肩でももむわ。そのくらいの感覚だ、こんなの。こいつには。
 手首に添えた拳に少しだけ力が入る。
 醜くて、目を逸らしたくなるようなエゴを。
 共有してくれたら、どんなに。
 そうすればきっと、『醜い』などとは思わないのだろうと、何度も。
「……」
 溜息をついて、身体をどかす。寝台の上に転がったままの祐絵の腕を引いて、座らせる。
「いいの?」
「今日は」
「そう」
 そう、で、あっさりとなにごともなかったかのように髪を整えるこいつは、やっぱり何も感じていないのだろう。恋人らしいことをしたところで、しなかったところで。きっと俺は『元相棒』でしかないのだ。
「…祐絵」
「なに」
 それでしかないことがこの上なく空しい。
 わけもなく惹かれて、傍を望めば望むほどに。
「明日のメシ、肉がいい」
「買い物に付き合ってくれるなら、いいわよ」
 空しいと思いながら、ささやかに『叶うこと』だけは口にする。
 触れて、ささやかに明日を共にして。
 いつか。
 いつか、こんな思いはしなくとも済むようにと。

 濡れた髪に軽く触れる。艶のある銀色は、己とは違う色で。同じにはならない。
 分かりきった事実に、なぜか苦笑が漏れた。




 ばればれの恋心がそれでも口には出せない主人公。おおよそ主人公属性が薄い主人公。どこが薄いってそこで手はだした辺りとか?
 思いあまってがばっといったといえばいったけど別に相手はそれがなに、って状況だわ色々見透かされているわ螺旋実はヤンデレ枠結構埋まっているわでどちらかと言えばヘタレ枠。
 まあ、社会的地位とか他に大切なものとか色々あるからそれがなくともヤンデレたりはしなかったりしますけどね、この人。社会的地位いうより、なにかやらかしたら弟に迷惑かかかるなーと思うからヤンデレないという…。いや主人公だからそれでいいけどさ。なんというか、とことんこう。実は彼も冷めているというお話です。
2011/11/13