大宇宙と一緒
最近、随分と空が高くなったと思う。
めっきりと涼しくなってきた風と相まって、非常に秋を感じる。
秋。秋は好きだ。食べ物がおいしいから。紅葉も綺麗だし。うん、本格的に始まったら紅葉狩りに行こう。
そこまで考え、僅かに首を振る。現実逃避は止めよう。
窓を見つめていた視線をそっと戻す。向かい合って座った小町さんが目に入る。
湯気を上げるティーカップをそっと持ちあげつつゆっくり飲む姿もまた秋の訪れを告げているのかもしれない。冷たいものより熱いものが美味しくなったという意味で。
けれど、でも、だがしかし。秋らしからぬ要素が少しある。
必要以上としか思えない襟の切り込みから覗く白い肌とか。膝がばっちりとのぞくふわふわしたスカートとか。
…似合わないわけでもないのだけど。新鮮だし可愛いのだけど。でもだからこそ、みたいな。
はぁ、と溜息がもれる。
すると、彼女は不思議そうな顔をした。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いえ、その。これ、少し甘さ足りないんで、そこの砂糖とってもらえます?」
「…先ほども同じことをおっしゃていましたよ?」
「まだ足りない気がするので」
あながち嘘でもないことを答えれば、彼女はこくんと頷いて、砂糖壺を差し出してくれた。
その時、ちょっと前屈みになるのがもはや嫌がらせかわざとかと泣きたくなるくらい危ないです。鎖骨が綺麗だなあ、とか見えそうで見えないなあとか思ってしまう自分が嫌だ。どこが、とか訊かないように。
…ああ…注意するにできない上にしっかり目が行く自分が憎いって言うか恥ずかしいです。
溜息が漏れそうになって、耐える。
ここに来るまでも、色々あったのだ。慣れないスカートの裾を整える姿にドキドキしたり、いつも見えない脚をつい見てしまったり…。…変態か、僕。いや、健全だとは思うけど。すげえ罪悪感がある。
「やっぱり、どうかなさったんじゃないですか? 顔が赤いですよ」
心配そうな顔に罪悪感が降り積もる。ぎしぎしと。けれど、顔をそらすこともできない。
「突然すみませんが、気になるので、訊いてもいいですか」
「はい」
「…その服も、やっぱりあれですか」
「はい。今日のラッキーアイテムはミニスカートだそうです」
「そうですか」
一体誰向けのラッキーだよ、誰の趣味だよ、なにさせてんだよ! 感謝なんてしない絶対しないむしろ死ねいや生きてるのかどうか知らないけどな!
っていうか、大宇宙の意志と言うか、なんか煩悩の塊なんじゃないだろうか、それ。
心の中で罵倒しつつ、真剣にそれの存在意義と駆逐方法を考えながら、ふと気づく。
「ラッキーアイテム、スカートだけですか?…上は指定なかったんですか?」
「ええ」
けど、と彼女は言葉を切る。そして、ちょっぴり照れたように笑った。
「先日これを着た時、風矢さんが可愛いと言ってくださりましたから」
「…………え?」
答えるのに間があったのは、煩悩とか懊悩とか忘れさせてしまう微笑に少し見とれた所為で、返事が異常に間の抜けたものだったのは、単に驚いたから。
でも、とりようによっては何だか結構薄情な台詞に、彼女の眉が僅かに下がった。
「…お世辞でしたか?」
「いえ、そうじゃありません!」
じっと見つめられ、ぶんぶんと首をふる。
ああ、本当に、君は。なんでそういうことを言うのだろう。
別に忘れていたわけではない。確かに初めてその格好を見た時、可愛いと言った。襟元を飾るフリルが、じゃなくて、それを着た彼女が。女性の装飾は全く知らないけど、似合うとも、思った。
「そうじゃないですけど…その」
何とも言えない気分で言葉を探す。…君が魅力的すぎて困るんだ、とか言える能力があれば、もしかしたらこんな風に邪神としか思えない意志に振り回されることはなかったかもしれない。
ぐるぐると悩んでいると、ふと妙案が浮かんだ。
「このあと、洋服見に行きませんか?」
「え?」
「その服、寒そうで気になるんですよ…。マフラーとかストールとか見に行きましょう」
赤くなった頬でそう言っても、少し嘘くさかったかもしれないけど。
「…はい」
彼女は静かに頷いて、小さく笑った。
それを見てると、大宇宙だかなんだかのことが、少しどうでもよくなる。また振り回されるのだろうけど、どうでもよくなる。
…とっさに出した案だけど、悪くないかもしれない。首元が隠れてくれればだいぶいいはずだ。
それに、一緒に選べるのは、何となくいいなと思ったりする。
それは、その意思とやらにはできないのだから。
芽生えた優越感じみた感情にこみあげた苦笑をカップで隠す。
…本当、必死だなあ、僕。
飲みほしたお茶は、僕の趣味からしても随分と甘かった。
解決したようで実は首しめたよね、風矢…
あ、ちなみに小町さんに勝手にふわふわ系着せて見たのは…「そういえば卵の頃の彼女を育てたのは火乃香さんなんだよなあ」と思ったからです。まあイメージ違う言われたら直しますけどね。
2009/09/12