初めて会ったその時感じたのは、もしかしたら予感かもしれない。
 これは私の親友の役には立つだろう。あいつがそう判断したのだ、きっとそうなのだろう。
 けれど、私にとっては有害だ。顔を合わせただけで、なんともいえない不快な感覚が胸をよぎるのだから、間違いない。
 いつかきっと、私はこの男と決定的に相対する。
 その感覚は、今も鮮明に思い出せる。

予感

 そして、今。
 依頼人に捕縛しろと頼まれた男を待ち伏せるため、廃墟の窓に張り付く今、その男は私の目の前にいる。
 会話がないのは、なにも仕事だから、ではない。特にしたくもないから、そうしている。
 けれど、沈黙を嫌ったのか、私へのいやがらせか(きっとそうだと思う)望月はにこりと笑いながら話しかけてくる。…こいつは、いつでも笑っているけれど。
「ねえ、黙ってるのって暇じゃない?」
「全く」
 即答してやれば、軽薄そのものの笑みが、少しだけ苦笑のようなものに変わった。
「君は本当オレが嫌いなんだね」
 大仰に肩を落として行っているけれど、それは嘆くわけでも悲しむわけでもない言葉だと知っている。薄っぺらい音の羅列だと、こいつの付き合いの中で知っている。
「悪いか」
 対する私の言葉も、恐らく薄っぺらい。意味がない。こいつに対して真面目にに接することなど、できない。
「悪くはないよ。でも、仲良くするのも、悪くない。だろう?」
「…心にもないことを」
 意識したわけではなく、笑みがこぼれた。おかしくて笑うのではない、嗤うための笑いが。
「貴様は一度でよいから自分の言葉で話してみろ、軽薄男め」
 睨んで言ってやれば、おや怖い、と奴は笑った。それもいつものことだ。
 むけられた笑顔は、恐らく人好きするものだ。けれど同時に、警戒を煽るものでもある。
 不自然なのだ、こいつは。まるで、人の演技をしているようだ。しかも、その演技は人でなしの演技だ。
 ―――反吐がでる。
 こいつはきっと、その気になればいくらでも善人の演技もできただろうに。
 それなのに、悪人の道を選んだ。意味もなく、愉悦のために。
 仲良くできるはずがない、そんな男と。こうして向かいあってるだけで、叩き潰したくなってくる。そうできたらどれだけ良いだろう。
 聖那がこいつを買ってさえいなければ、絶対にそうしたのに。
 けれど、いつか。
 この衝動が抑えられなくなる日は、きっと来る。
 それこそ、その所為で聖那と断然することになったとしても、きっと。
 奇妙に確信を持って、そう思う。
 あぁ、本当に―――意味もなく嫌いで腹立たしい。
 私がこの男が嫌いな理由。
 それはきっと、自分の中の暗い感情が掘り出されるから。自分の中の、得体のしれない恨みつらみのようなそれを捨てることなどできないと見せつけられるから。
 分かっているのに止められないことが、また一層不快さを煽る。
 とっとと消えてしまえばいいのにと心から思うのに、そうはならない。
 ならば消してやりたいかと思うと、それも嫌だ。別に情があるわけではない。仲間と言う関係も敵対と言う関係も、平等に嫌だと思う。ただそれだけの理由だ。
 関わりたくなかった、こんな、自分の嫌なところばかり自覚させる奴になど。
 私には持ち得ないものを持つ奴になど。
「なに? ご要望通り黙ってるんだから、そこまで睨まないでほしいんだけど」
「…これが地顔だ」
 吐き捨てれば、奴は笑った。
 




あとがき
 紫音が彼を嫌いな理由は…あれだ、生理的に駄目なんです。彼が紫音を嫌いな理由は簡単です。そんだけ嫌われたら自然と嫌いになるよというあれです。…まあ、彼は嫌いな人も好きな人も平等にどうでもいいと思ってそうだけれども。
 ってえか、いつか対立する予感するって言ってるけど、この二人が対立してない時なんてない気もするんですけどね?たぶんそのうちどうしよもなくでかい喧嘩と言うか、なんというかはしそうだよね。それでも紫音は口で言うほどひどいことなんてできないだろうけど…というやつです。
 2009/09/10