*設定的なモノ
・たぶん農村かなにかのお2人さん。時代はとりあえず江戸以降ということで。
・そして幼馴染だったんじゃないでしょうか。
・で、女の子が売られて別れ別れになってしまって。大人になってから再会すると。
・女の子は娼館勤め。
・男の子は男の子で色々事情があってならず者的な生き方で。ある事情があって来たそういう店の集まってる通りで女の子を見かけたと。
・お互い忘れてなくて通いつめたりつめなかったり(金がないから)。たまに水揚げ代は彼女が払っているというそこはかとなくヒモっぽい彼。いやこういうのはもっと粋な名前があった気がするけど。とりあえず自覚はうっすらとある両想い。
…みたいな感じのとんでもパラレル。本編とはわりと性格違う。どのキャラなのかはアドレス欄のファイル名参照(笑)笑うなという話ですが。
遠い昔、空を眺めた。くぅくぅと鳴く腹を抱えて、にこにこ笑う少女を連れて。
その日は、彼女が生まれた日だから。
なにか、あげたかった。
けれどそんな余裕は、どこにもありはしなかった。ならば、と野に咲く花をやっても、食べようという話になる気がする。
うんうんと頭を抱えて悩む少年に、彼の姉はクスクス笑って、言った。大事なのは思い出、でもいいんじゃない?と。
だから、美しいものを見せようと思った。
朝早くに彼女と村を出て、ほんの少し山に入って。朝一番の、美しい空を。
この時間帯に起きていることがあっても、自分達は働いていることが殆どだから。たまには、ゆっくりと空を。
葉で作った器の中の水に映りこむその色に、少女は笑った。
「いきなり何かと思ったら。空見ようって。たまにわけわからないこと、言いだすよね」
「わけわからないって…いや俺もよく分からないんだけどさ」
「うん、本当わけわかんないよ。空なんていつでも見れるじゃない」
「…でも、綺麗じゃん」
「うん、綺麗だね」
にこにこと少女が笑う。
少年は僅かに唇を尖らせ、空を仰ぐ。
澄んだ空気の、薄青い空。肌を刺す冷たさをまといながらも、美しい空。
貧しい村の暮らしの中、それが彼の知る最も美しいもの。
「綺麗だよ、ありがとね」
言って微笑む幼馴染の顔が、もっとも愛らしいものだと感じていたのだと。
少年がそれを知るのは、彼女と別れてからだった。
貧しい村の中、少女の父親が亡くなったのは、それから5度目の春。彼女が村から姿を消したのは、同じころ。
山の中の村の中、少年の姉が身売りと言う形でいなくなったのも、同じころ。
残された少年は、1人決意した。
いつか、あの向こうに行こう、と。
山に囲まれた空は、もう美しいと思えなかったから。
そうして、しばらく時がたって―――。
山間の村を出て、町に出た彼は、ある通りを歩く。
未だ残る娼館の集まる通り。そこで探していたのは、幼いころに別れた姉だった。
この町のどこかにいるのだと聞きつけて、探しに来た。両親口減らしの甲斐もなく永い眠りについた今、彼は唯一残った身内に会いたかったから、そうした。
彼女には言えない方法で、その身を買い戻すだけの金をためながら。
そういて、暗い気持ちで通りを歩いて。
視界の端に捕えたのは、長くて艶やかな髪。
寂れた村の中では、到底見なかったもの。
けれど、なんとなしに覗き込んだ格子の奥には、客の袖を引く女の姿。
色とりどりの着物をまとったその中にみつけたのは、忘れがたい面立ち。
「……あ」
間の抜けた声に、少女は振り返る。
そうして、大きく目を見開く。
瞬きもせずに目の前の男を見つめる彼女にとっても、彼はまた忘れがたい面立ちだったから。
「…なんで、お前、こんなとこに」
「なんでもなにも…売られたからだよ」
「からだよ、じゃねえよ。だって、お前…なんで」
「…なんでなんでって。本気で分からないならちょっとは自分で考えないと、頭悪いの酷くなるよ。相変わらずなんだから…まぁ、いいけどさ」
「よくねぇだろ…!」
「こんなとこ、って言ってるんだから。なにやるか分からないわけじゃないでしょ。大昔の花魁様じゃあるまいし、お金もらった分働かないと、私怒られちゃうの」
「…ちょっと待て。俺ちゃんと金払ってるだろ。ならなにしてても文句ねえだろ。…なのに文句つけてくるような奴がいるのか、ここ」
「…そんな怖い顔するようになったんだね。君に怒られてる気分だよ」
「…もう、細かいことはいいじゃない。…『お客様』?」
「………お前の客になるなんざ、冗談じゃねえ」
――――幼いころから、一緒にいた。家族みたいに、あるいは家族以上に。一緒に。だから、どんな顔で笑うのかも、どんな顔で泣くのかも、知っていたつもりだったのに。
けれどあの時、俺のことをお客様と呼んだ声は、まったく知らないもの。
やけに甘ったるい声と、肩に触れた手と。首筋にかかる髪の健やかさに―――胸が。
胸がつぶれる、と。そう思った。
そんな少し昔の、夢を。見た。
目を開けて飛び込んできたのは、白い手の平。白くて、美しくなった、指先。
「…なに」
「…すごい顔で寝てるから、悪い夢でも見てるのかと思って。なでてあげよっかなーなんて思っただけだよ」
「な、なんでお前になでられなきゃいけないんだよ!」
「いやそんな真っ赤になられるとこっちが恥ずかしいねえ。…客にサービスするのは普通でしょ」
「…客って」
何度も、何度も。来る度に聞いた言葉に、飽きることなく自分の眉がよるのが分かる。…また、胸のつぶれる音がする。
「…やだな、そんな顔しないでよ。…図体ばっかおっきくなって、中身子供みたいになったね」
くすくすと笑う仕草が、籠で囲まれたほのか灯の中で浮かび上がる。白い顔がぼうっと浮かぶ様が、なんだか儚げで。嫌な気持ちになる。思わず握った袖は、ひどく派手なもの。色とりどりの大輪の花達の名前を、俺は知らない。知らないことばかりのこの場所なのに通いつめてしまうのは、あまりに知った女がいるせいなのに。そんな顔をされては。…消えてしまいそうで、嫌だった。
「……いつまでも拗ねてないで。寝たいなら、お布団かしてあげるって。…なにもしないから、安心してよ」
「…お前が使えよ。…疲れてんだろ」
「君に心配されるほどじゃないって。…じゃあ間とって一緒に寝る?」
かぁっと頬が焼けて、すぐに思いなおす。そう言う意味、ではないようだから。
なんとなくいたたまれなくなって、ごろりと寝転がる。やっぱり、布団は使わぬまま。くすくすと笑う声がまた聞こえたかと思うと、頭を持ち上げられた。
驚きの声さえ上げる間もなくぽすんと置かれたのは、膝の上。
眼の端に鮮やかな花が写るのが嫌で、ごろりと寝返りをうつ。白い顔を、見上げる。
「…しっかし、早々に来て早々に寝られるとは思わなかった。…なにしにきてんの、君」
「…なにしにって。………寝るところ、だろ、ここ」
「うん、まぁ、そりゃあ、ねえ。…最初の時も、そう言って寝ちゃったんだよねえ、君は。それからずーっとそれだ」
指で髪を撫でられて、頬は再び熱くなる。けれど、いちいち大騒ぎするのは、そろそろ癪だ。悔しい。…慣れた仕草で髪を撫でているこいつを見ているのが、きっと。
「魅力ないかな、私」
「…さぁ?」
こいつが客観的に見て魅力があるかなんて、俺は知らない。知るわけがない。
やせたちっぽけな子供だったこいつしか、知りたくなかったから。知りたくないと思っていたのに。
「……」
ならば、こんなところに来るのも止めればいいのだ。金だって馬鹿にならない。…たまに彼女が肩代わりしているのだから、止めなければいけないのに。
なのに、欲しいのは。思い出の面影ではないと、気付いている。
触れたいと思う心が、ないわけではない。
細い手を握り返したらそれなりに嬉しいだろうと、そう思う。
「…さぁ? って。本当野暮だねぇ―――いや、正直か」
「…なんだよ、そのいやそーな声は」
「嫌なのは君でしょう」
髪を撫でていた手がぴたりと止まる。目元に滑り、添えられる。なにも、見えなくなった。
「気ぃ遣わなくてもいいよ。休ませてくれなくて、いいよ。…君が生きてるって分かって、それだけで嬉しかったよ。だから、これからも元気でいてくれたらいいんだよ」
静かな言葉と共に、滴が降ってくる。雨のようなそれは、口元に流れて塩辛い。
「…お前」
なに、泣いてるんだ。
言おうとした言葉が、遮られる。ひどく震えた、小さな声で。
「触りたくないって、ことじゃないの」
「はぁ?」
「こんなとこにいる女に触りたくないってことでしょ。なのに気ぃ遣って休ませようなんて、馬鹿にもほどがあるって言ってるの。…君に手ぇひかれなくても、私は別に平気なんだよ」
「ちょ、お前、なに1人で…」
苛立ちを込めた言葉も、最後まで続かない。
「もう、来ないで―――これ以上、会いたく、ない」
乾いた響きで、遮られた。
目を覆う手を払って、身体を起こす。振り向いてみた幼馴染は、ぼろぼろと泣いている。
声もないままぼろぼろと、子供の時以上に子供のように、泣いている。
「なんで、お前に気ぃつかわなきゃいけないんだよ」
手を伸ばせば、払い落される。
それに焦れて肩を抱けば、まるで知らない香りがした。
「俺は、ずっと…!」
お前にもう一度会えた時に。遠い昔に忘れたものを、思い出したのに。
偶然は、世の中は。俺から奪うだけではないと、お前に会えた時に。
言葉にできない思いを腕に込める。
きつく抱きしめた身体は、重い着物の下では思っていたよりずっと細くて。触れた肌は、熱かった。
村にいた頃と変わったというなら、自分の方が酷いと思う。汚れているというのも、自分の方がよほど、だ。
たぶん、人殺し以外の汚いことは全部やった。町に出てもろくな仕事がなくて、気付いたら。ろくでもなくて。…だから、触れられないと思っていたのに。
再び膝を借りながら、そんなことを思い返す。
「…本当、変わってないよねえ。君」
それなのに、まるで変わってないと言われては。なんだかひどく馬鹿らしいことを考えていた気がする。
「いっつもぼーっとしてるくせに、変なところで…ずるいんだよねえ」
「…お前も変わってないよなあ。顔に似合わず口悪いとこ」
「やだ、どうせなら他のとこ言ってよ。可愛いとか」
「あ、そうだ、昔から背が低い」
べしっと額を叩かれた。しかも扇だった。…地味に痛いぞ、オイ。
「…別にいいんじゃね? ちっさくても」
「小さい言わないのっ。…ホントかわらないにもほどがある!」
ぷうっと膨れる顔を見ながら、少しだけ笑う。目尻には未だ涙の後があるけれど、なんだかひどく楽しそうな顔をしていたから、つられた。
こんな心地になったのは、いつぶりなのだろう。
ろくでもないことをしても、なりふり構わず金を集めた。
それは、あの姉を助けるためだ。居場所も、先月やっと突き詰めた。そのための、金だった。それ以外の目的など、忘れていた。
いや―――違う。
そうして、失ったものを取り戻せば。いつのまにか消えたこいつも、戻ってくるのではないかと。わけのわからぬ夢を見ていた。
「…空が見たいな」
だから、唐突に、そう思った。
こちらをのぞきこんでいた顔が、こわばる。
それに気付いたけれど、止まらない。
「こんな暗いのじゃなくて。…格子もない、空」
「君、何言って…」
泣き笑いのような顔に、なぜか笑みがこぼれる。…ああ、お前、変わってないよなぁ。…変なとこ、泣き虫で。
「お前とみたいよ、もう一度」
だからずっと一緒にいなきゃと、思っていたんだ。
だから、一番綺麗なモノを、と。あの時、そう思ったんだ。
「…それってさ。逃げよう、ってこと?」
「ばれるだろ、すぐに。それじゃあ、さ」
手を伸ばして、頬に触れる。涙の名残が消えた頬は、それでもひどく冷たい。
冷たいけれど―――その眼は、やけに穏やかだった。
「……駄目だよ、先に連れてきたい人、いるんでしょ」
「…お前、知ってたのか」
「知らないとでも、思ってたの?」
低く呟く声と共に、かたん、と灯が倒される。
訪れた薄闇の中、彼女の表情は伺えない。
なにも、見えなくなる。
「そんな君が好きだよ、結構」
「…結構、かよ」
「…結構、だよ」
薄明かりの中、その顔は見えない。
明るい陽の下でさえ、見えはしなかったのかもしれない、けれど。
だから、なにも見えない中、確かなのは。
手の平を包みかえす、手の柔らかな感覚で。
「…だから、やっぱり―――」
その先を聞きたくなくて、手を握りしめる。
震える指先を、離したくないとだけ、思ってた。
瞼の裏には、いつかの白藍。
いつか、いつか、もう一度と。
願う以外にもできることには、気付いてた。
ということでメマチでした。
死ぬほどバットエンド臭が漂ったこの後真っ当に(いや稼ぎ方真っ当じゃないけれど)身請けしそーだよなあ。あ、姉は…まぁ誰とは言わないけど適当に海にでも飛び込んで逃げそうですね。どんぶらこどんぶらこと。(引っ張りすぎですが実は気に入ってるんですよどんぶらこどんぶらこ…!)
だってこう……それ理由に別れられたら死ぬほど病みそうですよ。むしろへぇ邪魔なら消えればいいのかなあ…とか言いながら簪じっと眺める方向に。きっと見つめられて身請け選ぶんでしょうねえ。メーが病むとこの人も病むというか。セット販売だしなあ。
とりあえず本編では書かないであろう(そして裏でも書いてない)ちょっとごろつきで攻め気味なメ―が書けて楽しい。メ―と打つと台無しだから一環として君と呼ばせなきゃいけない以外は楽しかった…(そしてその所為で一人称だというね)その結果、なんだか別人風味という罠です。