元ネタは『ポルノグラフィティ』様『カルマの坂』
ということである時代ある場所乱れた世の片隅で出会ってしまった1人と1人の悲恋。
メマチでメ+風矢でかなたの書く朝町にしては流血表現が入ります。
別に表現そのものは何ともないと思いますが、人が人なので注意書きを。あと暗いです。
…というか元ネタが名曲なので一回聞いてください。知らなかったら。それが全てを解決します!(大ファンの主張)
―――ある時代ある場所、乱れた世の片隅
自分は望まれぬまま生れて来たのだろう、と。
少年はいつからかそう思っていた。
もしかしたら望まれて生まれてきたのかもしれない。
けれど、今。この瞬間に限っては。
きっと望まれぬ命だと、少年はぼんやりと思う。今、ここには。少年を道端のゴミと同じ目で見る金持ちがいるばかりだ。
抱えた膝の下で、腹が鈍く鳴く。益体のない思考を咎めるように。
だから、ゆるり、と立ち上がる。
動けるうちに動かなければ、空腹のまま死んでしまう。
それは、嫌だと思っていた。
嫌、だ。けれども――――
どう生きたいか、などと。
少年は考えたこともなかった。
いつも通り、盗んだパンを抱えて、少年は路地に座り込む。
小さなパンを大事そうにちぎり、たどたどしい手つきで口元に運ぶ少年。
指先まで痩せたその体が、不意に陰る。
ゆるりと顔を上げ、睨みつける少年。
その目線を受け止めたのもまた、同じような齢で、同じような身なりの長い髪をした少年だった。
長い髪の少年は、うんざりとしたようにつぶやく。
「……貴方、またですか」
「…んだよ。お前こそまたかよ」
それ以上にうんざりと呟いた少年は、黙って食事を再開させる。
小さなパンは、すぐに胃の中へと消えた。
だからもう少し大物を狙おう。思った少年は、それでも立ち上がることをしない。黙って自分を見る眼に応える。
「また1人で盗みに入って。…路頭組んだ方が楽だし効率がいいと。…忠告してあげているでしょう」
言い聞かせるようにつぶやく少年は、かつて、金持ちの家に勤めていたことがある。盗みの濡れ衣を着せられて殺められそうになったところを、必死に逃げてきたけれど。
そこでの扱いは、町で乞食をする今とさして大差ない。
大差はないが、少しだけ。その苛酷な日々は、彼に知恵を授けてはくれた。
金を持っている人間は、どのような時に行動し、なにを嫌がるか。何にこだわり、騙されるのか。
少しだけ知っている少年は、飢えて町角をさ迷う子供を集めて、路頭を組んだ。
「…俺、頭使うの、向かないし」
「知ってます。その足があればいい」
「……剣とか、触りたくないし」
じっと見詰められた長髪の少年は、僅かに眉を潜める。
とがめられた気がして―――ではない。その程度で疼く罪悪感は、別に持っていない。歯車のように働かされて、濡れ衣をかぶせられた。だから、本当に盗みかえしてやろうとおもった。その過程で少々血が流れようと、別に気にはしない。そんなことではなく、ただ、不思議だった。
「…喧嘩はするくせに」
「俺のもんとろうとする奴がいるからだ」
「金持ちも散々僕らの『もの』をとっていますよ。人は皆平等なんていいながら、なにもかもを独占している」
「…初めて聞いた。そんな言葉」
「僕も、どこのペテン師の台詞か知りません」
ふぅん、と頷きいた少年は、思う。
目の前の彼のことは、嫌いではない。
つっかかるようにしか触れ合いないし、仲間にはなれない。
だって、彼の言葉は、とても難しいのだ。
「俺は走るしかないよ」
走り、食べ、眠る。
そのことだけを繰り返すことしか、頭にはない。
うっすらと笑う少年に、彼は溜息をついた。
「…捕まって死んでも、知りませんよ」
嫌そうな、悲しそうな顔に、少年は僅かに首をかしげる
「…いいんじゃね? それでも」
少年にとって、それは忌避するものではないから。
なぜならば―――
「ここよりマシだろ、そこは」
少年が恐れるのは、飢えと渇きの苦しみ。
それを感じるいとまもなく消えられるのなら、それでも良いと思っている。
彼は、なにも言わずに唇をゆがめる。
歪んだ笑みを視界の隅にとらえて、少年は再び走りだしていた。
そうして。
少年は、同じ日々を繰り返した。
けれど、ある日。
ある日、パンを抱いて逃げる途中で、行列を見つけた。
その行列に助けられる形で逃げ切った少年は、思わず足をとめた。
離れていても濃く香る甘い香水の香りと、二頭立ての馬車が、その主人の有り余る富を伝えている。
けれど、少年が見ているのはそんなものではない。
ゆるゆると富を誇示するように走る馬車、その後ろを歩く、美しい少女。
丁寧に梳かれたのであろう長い髪を光沢のあるリボンで飾られた少女もまた、馬車の持ち主の見せびらかしたい『富』なのだと、一目でわかった。
ふわふわとした衣装につつまれた娘は、遠い街から売られてきたのだろう。
そう思うのは、真っ白い肌が見慣れない所為ではない。ただ、うつむいた瞳が。
うつむいた瞳が、うっすらと涙の膜でおおわれていたから。
少年は、パンを握りしめたまま、その行列を見送る。凝視する。その行き先の、ひときわ白く輝く屋敷を、目に焼き付けて。
強く握った手の平の中で、命の糧であるパンはいつからか潰れていた。
そのことにも気付かずに、少年は走る。
パンよりもひしゃげた心は、意味をなさぬ叫びとなった。
少年は無知だった。
無知でも、売られた娘が辿る道くらい心得ていた。
―――常ならば。
そんなことに痛める心も、持っていないはずだった。
自分が盗むことや彼が傷つけることと同じく、それは生きるための手段だと思うから。
金がどんな形をしているのかさえよくわからない世界に生まれたものに、生きる術は限られているから。
けれど、拭いたいと思った。
今にもこぼれそうだった涙に、触れたいと思った。
けれど彼女に触れるのは、己の手ではない。
思想を与えられず、ただ悲しみで瞳を曇らせた少女に触れるのは、決して己の手ではないのだ。
「―――――ぁ」
叫んで、叫んで。
潰れた喉で、少年は僅かに呟いた。
―――神様がいるのならば なぜ 僕らだけ愛してくれないのか
うなだれる背中に、夕闇が迫っていた。
「…あれ?」
便宜上の住み家としている―――すぐに移ることになるけれど―――家に帰り、少年は小さくつぶやく。
夜の風にさらわれ、ざわざわとゆれる長い髪を鬱陶しそうに払いながら、しずかに数を数える。
―――大切に隠していた、剣の数を。
「……足りない?」
盗みなど、珍しくもなんともない。
珍しくもなんともないが―――なぜ、剣を。一本だけ。
ざわざわと。
髪ではないものが、揺れた気がした。
少年は、重い足取りで歩く。
重い重い剣を引きずり、金持ちの家へと続く坂を歩く。
―――この道は。
この道はどこへ続くのだろう。
脳裏に浮かぶのは、泣きだしそうな瞳だけ。
あの瞳は、過去へ続くのかもしれない。いつか出逢っていたから、触れたいと願うのか。
あるいは、未来へ続いているのだろうか。いつか出会うために、今、触れようとするのか。
坂を、上りきる。
重かった剣は、それでも不思議と手になじんだ。
それから。
何度剣をふるったかしれない。何を斬ったのか、わからなくなるほど。
誰に向けているのかわからない怒りを、憎しみをこめて。爪の先まで真っ赤に染まるまで。
そうして進めば、ひときわ立派な扉にたどり着く。
ざわざわと、呼ばれる気がした。
少年は呼ばれるままに取っ手に手をかけ、開け放つ。
開け放った場所に、彼女がいた。
「―――! ―――、―――!!」
少女の傍らで叫ぶ『なにか』に剣をふるい、少年は歩く。
走ることを忘れた、重い足取りで。赤い刃を引きずりながら。
引きずって―――
少女に、たどり着いた。
「……きたよ」
なぜか、自然と口が動いた。
「きたよ」
来たんだよ。
名も知らぬ少女に、そっと呼びかける。
少女は、微笑んだ。身を飾るものが何一つなくとも、美しい少女が。微かに笑った。
その瞳は、ひどく虚ろで。拭いたいと思った涙は、枯れ切っていたけれど。小さな唇は、なんの音も紡がなかったけれど。
「…………」
少年は、そっと剣を振りかざす。
来たから。
ちゃんと、来たから。
でも。
もう。
『お前』はいないから―――……
少年の視界に。
赤色が散った。
赤い色をまとう少女を眺めながら、少年は泣くことを忘れた。
思い出したのは、空腹。
痛みさえ訴える腹を、震える指で抱きしめる。
ただ。ただ。
そうして、震え続けていた。
───お話は、ここで終わり。ある時代のある場所の物語───
あとがき
*この部分は歌の引用です。
歌をそのまま書いたので、あんまり書くことはないです。
けどまあ、カルマの坂ですし。先とか後に色々あったんでしょうねえと思ってもらえると嬉しい。
風矢がついてきたのは…なんででしょうねえ。(遠い目)
ちなみにおまけです