昔から、変なところで要領がいいとか悪運が強いとか言われていた。
言われてはいた、が。
ノリで購入した宝くじが当たるなんて、誰が思うだろう。
「…使うなり家にいれるなりすれば良いじゃん、当たったんなら」
「馬鹿! こんなバカ高い金額働かないで手に入れたらバチがあたる! 大学生の持つ金じゃねえ!」
「…そりゃ、一理あるけどさあ」
はぁ、と溜息をつく姉の口が、僅かに動く。ばかしょうじき。………いや額大き過ぎるじゃん。
「気ぃ病むなら寄付でもすれば。」
「確かに、もうそれでもいいかな…」
呟き、ふらふらと歩く。
うん、それがいいかもしれない。手元に今月の家賃と今年の学費くらいは残しておこう。
そんなことを、想っている時。
「あ。ここがそうなんだ」
ぴたり、と姉が足をとめた。
その視線の先には、ショーケース越しの何体の人形。
「…なにこれ。むやみに綺麗な人形だな」
「観用少女っていうんだよ」
「ぷらんつどーる?」
呟き、人形達を眺めてみる。…ぷらんつってなんだっけ。
「噂には聞いてたけど綺麗だねえ、お姫様みたいだねえ」
「…まぁ、確かに童話にいそうな」
感じだよなあ、と応えようとした、その瞬間。
ぴったりと閉じられた瞼が、ぱっちりと開いた。
「ったく」
ごしごしと髪を洗う。手に滑らかな細い髪が、指にからみついて難しい。
「なんでこの年で人形遊びしなきゃなんねぇんだよ」
ぬるめの、人肌程度の温度になっていることだけは確認して、泡を流す。
目にはいってしまったらしく、とりあえず小さく謝っておいた。
「大体うさんくせーんだよあのチャイナ服。目覚めたから引き取れって悪徳商法じゃねえか。当たってなかったらぜったい手ぇでねえつーの。必要なんは砂糖と愛情とかも嘘だよなあ、根気と手間も加えろよ」
目覚めた人形は、売り物にはならないのですよ。
お客様に懐いてしまいましたからね。
もしご購入されないとなると、調整を施さなければならなくなりまして…
「なりましてじゃねえよ。なら貧乏人と目ぇ合わないよーにしとけーっつの」
ふわふわとしたタオルで、水気を拭き取る。
このくらいなら、コツは掴んだ。
「…し、終わった」
呟き、とん、と椅子から下ろす。
洗うのに使っていた洗面台を片づけながら、ぼんやりと人形を見つめる。
この人形が来てから、しばらくたった。
けれど、未だになれない。人形とはいえ、生きているモノだし。人形でちまっこくても、女の子。
「…大体、なんで俺に懐くよ」
初めて部屋につれこんだ女が人形って、俺あぶねー趣味みたいじゃん。
沈む心に構わず、人形は笑う。
はにかむようなその笑みは、確かに綺麗で。
まぁ、大枚はたく趣味の奴らの気持ちも、分からんではない。
…1人暮らしの狭い部屋には、不釣り合いだが。押し入れに押し込む気にもなれないから、ヒト呼べなくなったが。
「…俺、そんなにマメじゃねーし」
心なしか肌の色つやも悪くなってしまっているような気が、する。
「…駄目な奴だよなー。お前。顔はいいんだからもっと金持ち捕まえられるだろ」
野暮だ野暮だと言われている俺だって、無視できなかったくらいなんだから。
はぁ、と溜息をつく。
人形はそれでもにこにこと笑っていて。
だから、それでいいかと思ってしまう。
『か、かなた! たすけ』
『もー。なにやってんの! そのお砂糖高いんだよ! マグロ漁船言って返せ!』
『俺のあてた金で買ったんだろうが! つーかそうじゃねえ、きゅっと。きゅっと掴まれたぁー!』
『観用少女はそういうもんなの! 慣れれ!』
『ぷらんつだろーがふらんくだろーが女にきゅっとされて平静でいられるかあ!』
『このへたれ!』
『ちょ、芽以! 泡! 泡めっちゃ目に入ってる! 可哀そうだろ!』
『畜生うるせぇシャンプーハット持ってこいっ』
『あつっ、このミルクのどこが人肌だ! 熱湯ぶろだろ! あれをやりたいのか!? 押すな、押すなよ!を!』
『な、なり立派なのに赤ん坊みたいなこというこいつが悪いんだろーが!』
―――うん、思い出す限り、駄目なのはこいつの方じゃないのか?
こいつ、本気で俺を選んでたのか?
そりゃ、袖は離さなかったけどさあ。
思い、そっと髪に触れる。
滑らかな手触りに、怯えなくてもよくなったのは最近だ。
「…磨智」
姉が名付けた名前を小さく呼んで、撫でてみる。その手触りは滑らかだと、思うけど。…やっぱり、来た時より、荒れてるんじゃ、ねえ?
「…お前、口きければ良かったよなあ」
いや、確か。順当に育てばそれもありだって言ってたな、あのチャイナ。
なら、そうなれば不満も気に言ってるものも聞けるのか。
「…だといいな」
呟いて、はっとする。なんだこれ。俺結局これにはまってるってこと!? 人形に!? かなたじゃあるまいし!?
頭をかかえてうずくまる。違う。俺はロリコンじゃねえ!
思わずごろんと転がれば、くいと服の裾をひかれた。
緩慢に顔を上げれば、少女の満面の笑顔。
とろけるような笑顔を浮かべた右手には、ひらっひらの服。こいつのまとうドレスにも似た、お姫さんみたいなドレス。
ぴきぃいいと頬がひきつるのが分かる。
口がきけなくとも、意思表示はできる。
例えば眼差しで、例えば身ぶり手ぶりで。表情で。
着てvとでもいうような表情で、女物のドレスを俺に押し付けてくる。
…こんなものだって、こいつが来るまではなかった。
同じ動作をこいつが自分の服を使ってやったのがきっかけで、それを面白がったかなたが持って来たんだ。
『だってこれは君とおそろいを着たいvってことだよ。いじらしいなあ、可愛いなあ。むしろ私の嫁にしたいなあ。
あ、これは演劇部の友達にもらった奴だから、君にあげるよv』
「着れるか!」
他人事だと思いやがってあの馬鹿姉があ!
涙さえ滲みそうになるのをこらえつつ、回想につっこむ。
けれど、今ここにいるのは考えなしの双子の姉ではないわけで。
服を持った人形は、うるるっと目をうるませた。
「んな顔しても、駄目なもんは駄目だ」
俺が何でもいうこと聞くと思ったら大間違いだ。
かたい決心を持って、睨み詰める。
唇がへの字にまがって、じっと見つめ返される。
可愛らしくない形に曲がっても、なんとなく可愛い顔というのは卑怯だ。…人形でも、女つーのは、こう、さあ。
「駄目、だからな」
きゅっと服をつかまれる。その指先は、白くて小さい。
「駄目、だ」
見上げてくる瞳は、くりくりと大きい。
「だ、め…」
ぎゅうとしがみつかれれば、人形のくせにぬくもりがあった。
「…お、俺をこれ以上アブノーマルな道にひきずりこもーっとすんなあああああ!」
涙まじりにつっこむ。
それでも、ぎゅうとしがみついた手の平を引き離すことはできそうになかった。
思った以上にがちでろりこんっぽいメーでした。名前は学パロから流用。
磨智は手入れが少々悪くても彼を選んでいるので幸せですとも、ええ。
…いつも世話焼かれてるメ―が世話やいてるというのは中々楽しい状況でした。
この後…大きく、するんでしょうねえ。うふふ。みたいな感じです。うふふ。