学校を終えて、校門の前。
 いつも通りに待っていてくれた真木彦君が、ひらひらと手を振る。
 にこりと笑ってかけよりながら、わたしはふと疑問に思う。
 わたし、今、ちゃんと笑えてるかな、なんて。

 いつも通りに、いつもの道を。
 てくてく歩いていたけど、尋ねられてしまった。
「能々子さん、何か悩み?」
「あ。やっぱりそういう顔してた?」
 情けないなあ、と思うけど。ダメだな、ちょっとうれしい。
 こんな話したくないけど、しなきゃって思ってて。言ってくれるの、待ってたから。
「え…とね。就職、きまりそうだから。……不安で」
「…能々子さんなら大丈夫だよ」
 歩いたまま、告げられる言葉は優しくて。自然に笑ってしまう。
 ああ、わたし、この人が好きだな、みたいな。
 ああ、わたし、この人を―――
「…そういうんじゃないって。わかってるよね」
「……うん」
 このまま好きで、いれるかな。
 これから離れちゃうこの人を、好きでいれるのかな。
 わたしはこれからお仕事で、真木彦君はこれから学生で。
 会える時間は少なくなって、きっとたくさんの人に会うから。
 だからとっても怖くて。
 …でも。
「別に、真木彦君にね、こっちに残ってほしいわけじゃないの。…第一電車一本だし。30分くらい、すぐだし」
「……あのさ」
「な、なに!」
 でもあんまりワガママ言えない。お互い、今後の人生ってもんが、あるもんね。
 そんな甘ったれたこと言ってられないよね!
「こういう時は、残ってほしいっていわれても。わがままだなーとか思わないよ」
 なんて、思ってたのに。この人何を言うんだろう。
 いつもわけわからないこととかいうのに、最近はもうわけのわからなさがきわまってきたのに。どうして。
 こう、わたしのツボをつくことをいうのかな。
「僕も一緒にいられなくて寂しいし。すごく」
 何も言えないでいると、手をとられた。
 立ち止まってしまうと、びっくりするくらい真剣な顔をされていた。
「…真木彦君?」
 え、こんな顔、みたことないよ。
 なんで…そんな顔、してるの?
「能々子、さん。だから、これ。あげる」
 ぎくしゃくとおもちゃっぽい棒読みで、真っ赤になった彼が箱を差し出す。
 恐る恐るそれを明けると、指輪がある。
 きらきらと銀色の、少し幅の大きなつくりの指輪。
 きらきらと、きらきらと……
 えっと、前に似たようなの、もらったけど。
「…これ、なんかすごい高そうなんだけど」
「うん。だってそっちはもう大人組だし…どんな時でもどんな場所でも、していて恥ずかしくないのを、って思って」
「いや、だって…え…?」
 なんかそれってさ。
 まるで、あれみたいじゃない。
 まるで…その。
「婚約、とか言える甲斐性まだないから…何指輪っていえばいいかわかんないけど。つけててよ」
「…ずっと考えててくれた? もしかして」
 あ、婚約ではないんだ。やっぱり。だよねえ。
 一気に上がった体温をごまかすために、そんなことを聞いてみる。
 顔が赤いままの真木彦君は、すたすたと歩きだしてしまった。
「うんまあ。バイトできる時間って限られてるし」
「……言ってくれたら、良かったのに」
 わたし、ずっと悩んでたんだけどな。
 先の保障がないし、自然と疎遠になっちゃうんじゃないかな、とか。
 お互い他に好きな人できちゃうんじゃないかな、とか。
 ともかく、先が怖かったんだけどな。
 こんな、ずっとつけているようなものを考えてくれてたら、嬉しくなれたと思うんだけど。
「こんなんなくても大丈夫かなっても思ったんだけどね。離れた時間が想いを強くするとかいうし。
 ほら僕アレだから。試練とかむしろ好物だし」
「…こんな時にふざけないでよ。黙ってしみじみ感動させてよ」
「はいその怒った感じの顔ごちそうさまです!」
「わざとだったんだ!?」
 思わず驚愕の声をあげてしまうよ!?
 そんなほくほくとした顔しないで!?
 そんな顔されると、さあ…!
「…もう。真面目に考えてるの、バカみたいじゃない」
「馬鹿でいいじゃない」
「馬鹿なのはいいけどそっちにいくのヤだからね! いかないからね!」
「流れで行けるかと思ってしまって…」
「真面目にしょんぼりとしないでよ!?」
 さっきの感動を返して、って気分になってくるよ!
 ま、まあ、じゃあ指輪返しってっていわれたら困るし、言わない!
 でも…!
「もう、本当に…もう! もう!」
 もうしか出てこないよ。言葉にならないよ。わたしが牛になっちゃったらどうするの。
 なんかもう苦しいくらいなんだけど、何嬉しそうな顔してるの。
 …もう。本当に。
 かなわない、なあ。

 わたしの好きな人は、たまにとっても変な人。
 でもね、すごく優しくて。
 二人なら、変な道でも、どんな道でも。一緒にいけたらいいな、って思うの。






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