学校を終えて、校門の前。
いつも通りに待っていてくれた真木彦君が、ひらひらと手を振る。
にこりと笑ってかけよりながら、わたしはふと疑問に思う。
わたし、今、ちゃんと笑えてるかな、なんて。
3
いつも通りに、いつもの道を。
てくてく歩いていたけど、尋ねられてしまった。
「能々子さん、何か悩み?」
「あ。やっぱりそういう顔してた?」
情けないなあ、と思うけど。ダメだな、ちょっとうれしい。
こんな話したくないけど、しなきゃって思ってて。言ってくれるの、待ってたから。
「え…とね。就職、きまりそうだから。……不安で」
「…能々子さんなら大丈夫だよ」
歩いたまま、告げられる言葉は優しくて。自然に笑ってしまう。
ああ、わたし、この人が好きだな、みたいな。
ああ、わたし、この人を―――
「…そういうんじゃないって。わかってるよね」
「……うん」
このまま好きで、いれるかな。
これから離れちゃうこの人を、好きでいれるのかな。
わたしはこれからお仕事で、真木彦君はこれから学生で。
会える時間は少なくなって、きっとたくさんの人に会うから。
だからとっても怖くて。
…でも。
「別に、真木彦君にね、こっちに残ってほしいわけじゃないの。…第一電車一本だし。30分くらい、すぐだし」
「……あのさ」
「な、なに!」
でもあんまりワガママ言えない。お互い、今後の人生ってもんが、あるもんね。
そんな甘ったれたこと言ってられないよね!
「こういう時は、残ってほしいっていわれても。わがままだなーとか思わないよ」
なんて、思ってたのに。この人何を言うんだろう。
いつもわけわからないこととかいうのに、最近はもうわけのわからなさがきわまってきたのに。どうして。
こう、わたしのツボをつくことをいうのかな。
「僕も一緒にいられなくて寂しいし。すごく」
何も言えないでいると、手をとられた。
立ち止まってしまうと、びっくりするくらい真剣な顔をされていた。
「…真木彦君?」
え、こんな顔、みたことないよ。
なんで…そんな顔、してるの?
「能々子、さん。だから、これ。あげる」
ぎくしゃくとおもちゃっぽい棒読みで、真っ赤になった彼が箱を差し出す。
恐る恐るそれを明けると、指輪がある。
きらきらと銀色の、少し幅の大きなつくりの指輪。
きらきらと、きらきらと……
えっと、前に似たようなの、もらったけど。
「…これ、なんかすごい高そうなんだけど」
「うん。だってそっちはもう大人組だし…どんな時でもどんな場所でも、していて恥ずかしくないのを、って思って」
「いや、だって…え…?」
なんかそれってさ。
まるで、あれみたいじゃない。
まるで…その。
「婚約、とか言える甲斐性まだないから…何指輪っていえばいいかわかんないけど。つけててよ」
「…ずっと考えててくれた? もしかして」
あ、婚約ではないんだ。やっぱり。だよねえ。
一気に上がった体温をごまかすために、そんなことを聞いてみる。
顔が赤いままの真木彦君は、すたすたと歩きだしてしまった。
「うんまあ。バイトできる時間って限られてるし」
「……言ってくれたら、良かったのに」
わたし、ずっと悩んでたんだけどな。
先の保障がないし、自然と疎遠になっちゃうんじゃないかな、とか。
お互い他に好きな人できちゃうんじゃないかな、とか。
ともかく、先が怖かったんだけどな。
こんな、ずっとつけているようなものを考えてくれてたら、嬉しくなれたと思うんだけど。
「こんなんなくても大丈夫かなっても思ったんだけどね。離れた時間が想いを強くするとかいうし。
ほら僕アレだから。試練とかむしろ好物だし」
「…こんな時にふざけないでよ。黙ってしみじみ感動させてよ」
「はいその怒った感じの顔ごちそうさまです!」
「わざとだったんだ!?」
思わず驚愕の声をあげてしまうよ!?
そんなほくほくとした顔しないで!?
そんな顔されると、さあ…!
「…もう。真面目に考えてるの、バカみたいじゃない」
「馬鹿でいいじゃない」
「馬鹿なのはいいけどそっちにいくのヤだからね! いかないからね!」
「流れで行けるかと思ってしまって…」
「真面目にしょんぼりとしないでよ!?」
さっきの感動を返して、って気分になってくるよ!
ま、まあ、じゃあ指輪返しってっていわれたら困るし、言わない!
でも…!
「もう、本当に…もう! もう!」
もうしか出てこないよ。言葉にならないよ。わたしが牛になっちゃったらどうするの。
なんかもう苦しいくらいなんだけど、何嬉しそうな顔してるの。
…もう。本当に。
かなわない、なあ。
わたしの好きな人は、たまにとっても変な人。
でもね、すごく優しくて。
二人なら、変な道でも、どんな道でも。一緒にいけたらいいな、って思うの。