これまでのあらすじ。
 なんかある日男の子になったよ。どっきどっきだね!
 っていうかほかにもいろいろ同じ症状の人がいるみたい! 真夜さんとか! メー君とか!
 うん、心強いなあ…
「なんて安心できるかあ!」
 しくしくしくしくすすりなくメー君を引きづりながら帰宅し、自分を説得し。
 説得したけどだめでした。無理です。これは非常な現実です。
 まだ部屋の隅でへこんでいるメーと同じようにうづくまってしまうべきか。
 いやそれでは何も解決しない。いや叫んでいても解決しない。しないけれども。
「う。ううう。ううー。うう」
 それでも漏れる嗚咽に、緋那がうっとうしそうな顔をする。
 そう、うっとうしそうな顔。
 帰宅しこの異常事態を報告しても、緋那ちゃんはとてもクールに言いました。「そうか」と。
 続いて「まあ、性別が変わっても私の忠誠は変わらないよ。たいしてないから」と。
 そう、とどめを刺しに来ました。
 けれど今、家にいるのはメー子ちゃん(磨智がでかけていて命拾いしたよね)と緋那とベムだけなわけで。この中で癒しを求めると、当然、
「緋那ぁあ! なぐさめてえ!」
「お前、その図体でめそめそするなよ」
 ひしと抱き着いて訴えてみた。声が冷たい。でも、ああ、このふかふかが恋しい。戻りたい。戻れるのかなあ。
 っていうか緋那の方がいつもは大きいから新鮮。確かにこの図体だよね。今の状態だと。
 今の状態だと、と。
 意識した瞬間、冷汗が噴き出る。
 ぎこり、と振り向いた目線の先には、ベム。
 いつもと変わらぬ、何を考えているかわからない表情、だ、けれど、も。
 でも、そそくさと緋那から離れて、そそっと彼に向かう。
「……あああ。あの。その。ベムさん。えっと、その。
 私にやましい気持ちはないです。清らかです。っていうか、女同士…です…今はあれですが、女同士……です…」
「なにおびえてるの。マスター」
「だ、だって、だって。だってさあ…」
 今いつものノリで行動すると君の嫉妬を向けられるのかと思ったんだけど。クールだねベム君。
「…別にそのくらいで妬かないし。…もしかりに、緋那にそういう相手ができても。僕には口出しできないだよ」
「…そ、そうなの?」
「僕は緋那が好き。どんな時も、どんなことをしていても」
「……さ、さい、…さいですか」
 なんだろう。とても怖い。いいこといってるはずなのに。
 薄ら寒い。彼は全然怒ってないのに。なぜこんなにも怖いのか。
 なんとなくぎこちなくきしむ体を動かして、ぐるりとあたりを見回す。っていうか、ベムから目をそらす。
 相も変わらずしくしくしてるメーが目に入った。
 …確かに、これはうざいね。
 でも、なんだろう。今はほんのり親近感。
 てくてくと近づき、同じように隅っこに座り込む。
 どんよりとこちらを見る相棒は、いつもより華奢でなんか可憐な感じの女の子でした。原因は知りません。
 うん、あらためてなんなの。この状況。
「これからどうしようねえ」
「………ねえってきかれてもな」
 たっぷりと沈黙をはさんで、一応答えが返る。
「色々と大変だよね。戻るまで何日かかるか、わからなし」
 そもそも戻れるかわからないし。
 ちらとよぎった怖すぎる言葉を首をふって打ち消す。
 いやいや戻れる。そういうのお約束だから。何のお約束とは聞いてはいけません!
 ああ、でも。そういえば、さしあって。すぐに。
「ねえメーちゃん」
「ちゃんいうなクソマスター」
「お手洗いどうしよう」
「………」
 すぐに必要になる心配を聞いてみると、相棒はこの世の終わりのような顔をしました。
 ああ、いけない。これはだめだ。励まさなくては。うん。
「よし、メー」
 だから私は笑って、彼(女)の肩をぽんとたたく。
「介護して」
「マスターに言われたくないセリフだな!?」
 びしっとつっこまれて気づく。それはそうだ。っていうか全然励ましてない。あと、今メー君はメーちゃんだから絵ヅラがセクハラいことになる。
 でも、でもさあ…
「もう介護しあうしかないだろうが!」
「ほかに道を探せよ! 戻れる道を探せよ!」
 至極まっとうなことをいっているはずなのに、メーはとてもあきれた顔をする。
 そうして怒鳴って、はあとため息をつく。
「…いやまあ…今のお前は男だから良いっちゃあいいけどさあ…
 いやでも…なあ……」
 いや、でもとか言っている彼は、気にしていないのだろう。忘れているのだろう。
 自分も女だから大騒ぎするはめになると。
 磨智が戻ってきたらいろいろと大変だろうと。
 けどそれを言うと、私の気晴らしどころじゃないだろうから。黙っておく。
「そうだ。あれだ。目隠しでもしたらいいんじゃね!?」
「えー。その状態でどうやって脱ぐの?きるの」
「できなくもねえだろ。おろせばいいだけなんだし。体見るのがやなんだろ。その、汚れとかは後で掃除すりゃいいじゃん」
「むー…確かに……」
 そりゃ、まあ。そうだね。実際に生えてるところを見なければ対してダメージはうけない………?
 しかし、目隠しか。その状態で脱いだりだしたり着たりかあ…
「想像すると私結構な変態!?」
「え、お前変態だよな…?」
「なにその誹謗中傷!」
 突然すぎる言いがかりには抵抗します。ええ言いがかりと言い切ります。
「…咲良とかにハアハアするその姿はこう…どうみても…だし?」
「女の子愛は! 朝町的に! セーフ!」
 まあ今の姿ではやらないけどね。やれないけどね。く。なんて不便なんだ野郎の体。
「だ…大体私が変態なら君はなんだよ!
 なんでちょっと目をつぶってとかじゃなく目隠しがでてくんだ!
 したいのか! そういうプレイか!」
「は? ちょ、なんだそれ…!? っ、より、女がそういう言葉を口にするんじゃねえ!」
「はっはっは! 今の私、いやむしろ俺は男だぜえ! そして君こそがそういうことを口に出せない女の子!」
「勝ち誇るなよ!?」
「はっはっはっはっは! 男らしく告げ口してやる! 磨智ちゃんにいってやるう!」
「男らしい告げ口ってなんだ! いやすみません! やめて! やめてくれ!」
「あっはっはっははっはっはっはっはっはっはっは! 血相変えるってことはやましいのさあ!  言ってやる広めてやるうちのメー君S属性拘束大好きペド野郎と!」
「馬鹿! 死ぬぞ! 人は埋められたら死ぬだろう!」
 心に浮かぶ言葉を次々に言ってみました。
 収集がつかなくなりました。
 ただ…その後、外に出てた風矢が帰ってきて。
「…なんにしろ、いつもと変わりなく元気なようで。問題ないんじゃないですかね」
 言い争って疲れる私とメー君に告げられた言葉は、ちくりと胸が痛みました。
 いやあるから。山積みだから。
 そう告げてみても、彼は鼻で笑いました。ひどい竜だと思います。メーがからむとなのか私の地位が低いのかは考えさせないでほしいかな! 考えることほかにもあるしね!
 そう、考えることは山積み。山積みなのだと。
 この時私は、まだ実感してなかった気がするのです。


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