ある日、崖から落ちた。
…なぜかとは聞かないでほしい。
おちてしまったものはしかたない。しかたないんだ。
けれどまあ、しかたいですませられないのは。助けようとしてくれた真夜さんも巻き込んじゃったことだな。
…なんて、のんきにおもっていたのですが。
目覚めて、身体を起こしたときに感じたのは、なんか強烈な違和感。
なんとなくきつい襟元をゆるめようとすると、視界に違和感。
「え、なにこれ視線が高い!? 胸ない!?」
何この状況!? わ、私なんかした!? 崖から落ちる時落とした!?
「あー、うん。なんか既視感があるなあと思ったら」
盛大にパニックている私の横で、聞きなれた声。
…いや、聞きなれた、と思ったけど、なんか違うような?
ぎこり。恐る恐るうかがった真夜さんは、シャツの中を覗き込んで事態を確かめていました。どうやら同じ症状です。
…でもさあ!
「何でまやさんそんなに落ちついているんですか!?」
「前にアランの父親のお陰で男になったことありまして。
あの時は女物着てたから大変でした」
二回目だからそんなに冷静なの? 二回目ってそんな冷静になれるの?
…疑問だけど、光明は見た。
「その時はどうしたんですか?」
「薬が原因だったから同じ薬で治しました。ただ、今回はそう言う訳にもいかなそうですが」
「え、何でですか?」
なんでそんな怖いこと言うの?
…なんか。耳元でなんかノイズが聞こえることと、関係あるの?
「あそこに倒れている子、居ますよね?」
「銀髪が綺麗な子ですね」
ええわかっていますよ。うん、ノイズと関係あるしね。
あはは、だから確かめない。確かめないですよ見ないですよ私は!
「かなた様、現実を見ましょう。あれ絶対メーさんですよね」
「あああ、召喚石経由で分かっていたけど認めたくなかったあああ」
頭を抱えて、思い切り叫ぶ。
その声もとっても男性的なもので。
じわりとにじんだ涙を、ぬぐうことはできなかった。
―――こうして、わたしたちの受難がはじまった…