●発端
 相方をつれて、探索中。友人を見つけ、そちらに手なんて振ってみたその時。
 ずるり、と足がすべった。

 結果、崖からダイブ。命綱なしバンジー。
 これは死んだ。一回死んだ。

 混乱しているんだか冷めているんだか謎な意識の中、友人がこちらに手を伸ばす姿が、わりと感動的だった。

 そんなこんなで、蘇生されるはめになった、と。
 いやあ、いつも通りだ。所謂どじっこというやつだ。
 …やめよう、余計に落ち込む。男が、しかも自分がそれで。どこに萌えを見出せというのか。
 なんて思っていると、相方と目が合う。
 頬だけ赤くし、やたらと顔を真っ青にしたメイベルドー、メー。
「…なんだよ、その顔。オレの顔なんかついてるの?」
 あまりに妙な反応に、素直な心を言葉にした。
 そして生まれる、次なる疑問。
 …声が、高い。
 思わず触れた喉は、なんか、あるべきものがない。こう、喉仏的な。
 知らず、手から力がぬける。すると。
 ふに。と。
 なんだか、やわらかいものに手がうまった。
 …………
 今のオレは、きっとメーと似たような顔をしている。
「あwせdrftgyふじこ!?」
「あーとりあえず落ちつけ」
 傍らからは、友人の冷静な声。ぎこりと振り向いたその先に、同じ種類の顔。
 長くなった袖と裾をまくる真夜さんの身長は、なんか低い気がする。…いやしかしそれより!
「だって、胸が、胸がっ! それになんかバランスすげえとりにくい!」
「落ちつけ、と言われて落ちつける人は居ないか」
 その通りだよなんだよその落ち着きは! そしてなぜ背中をぽんぽん! なにこの自然な背中ぽんぽん!
 く、なんだか涙腺とかいろいろ緩みそうだよ!
「しんやさんは背が縮んだだけで済んでずるい!」
「性別変わってるぞ? 見るか?」
「いやいいです!」
 なんかズボンに手をかける彼に、必死でストップをかける。
 わおためらいないよこの人! 潔っ!
 そこにしびれるがあこがれない!
「というか何で下なんですか!?」
「分かり易いと思ったんだが。
 俺は一度性転換 このじょうたいやってるから衝撃は少ない。
 それにしても……」
「? なんですか?」
 なにをそんなにじーっとみるのか。
 みてもなにもでないよ。涙ぐらいだ。
「性転換しても凹凸少ないのは元が男だからと思っていたんだが。
 そうじゃなかったんだな、やはり」
 言われて、彼(彼女)をまじまじとみる。次に、彼の目線の先をたどる。
 …………。何と反応すべきだろう。
「いや、あの、その」
 言葉を探す間、彼の口元がゆるむ。
 遠いまなざしをつれて、ふ。と。
「分かってたんだがな。単純に元の体つきの問題だと。単なる現実逃避だと」
「え、あの? もしもし? もしもし?」
「現実は残酷だ……」
「ちょ、真夜さんしっかりして! 戻ってきてー!」  遠い目をしないで!
 反応して!
 今この状況で、一人にしないで!

 切実な気持ちで肩をゆさぶる。
 復活したメーに止められるまで、がくんがくんと、ゆさぶりまくった。

 ―――オレ達の受難は、こうしてはじまった。



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