これからどんなことがあろうと、わたしのいきつく先は変わらないだろう。
それはきっと地獄とかいうところで、ロク死に方だってできないと、そう思う。
別に自虐趣味などない。ただそれ以外の結末を描くこともできない。それだけ。
それでも、生き方くらいは選べると思うのだ。
選べると信じて、そうしてあの人の手をとった。
触れた手は、なんだかひどく熱かった。
足枷は自由と名乗る
―――そして今、わたしの手はやたらと冷たい。ひんやりと冷えている。
体は心より正直なのかもしれなかった。
足元を見つめると、溜息がもれた。いつまでもそうしてもいられないので、手にもったナイフを収めようとして……後ろに放った。
「危ないな…オレだって」
「うん、知ってる。乙女の秘密を覗き見してるわるーい玲ちゃんへの牽制だから」
「ああ、それは悪いことをしたね」
まったく悪びれない声に、もう一度溜息。
くるりと振り向くと、壁に刺さったナイフに向かって苦笑している同僚がいた。
なんとなしにそれを眺めているうち、苦笑がこちらを向いた。碧の目がわたしを見た。
「…君がこんなことをする必要はないのに」
「やだな、わたしがしなきゃ、誰がするの? 玲ちゃんやってくれる?」
「いや、しないな。面倒だから」
「言うと思った」
くすくすとわたしは笑う。
別におかしくなんてない。いつものことだ。
けれど、彼はいつもとは違う言の葉を吐いた。少しだけ、痛ましいものを見るような眼で。
といっても、眼から感情が見えるなんて、そんな器用なことはそうそうできない。だから、それはわたしの感傷なのかもしれなかった。
「…君も紫音も、言ってることが矛盾してるよね。聖那は確実に君達より強いのに、守るというのだから」
「そうだね、知ってるよ。あれほど守られる必要のない人は珍しいんだろうね」
けど、と言いながら、足元をちらりと見る。そこにいるのは、私と同じ年齢だろう女の子。そこにあるのは、その子の死体、というのが正確なのだけど。
生きていた頃は憎悪を湛えた瞳は、瞼の下に隠れている。それこそ目を見るだけでそこにある恨みつらみが見て取れるような瞳だった。
…その憎悪が、あの人に向けられたものでなかったのなら、わたしだって放っておいたけど。むしろ、共感を覚えるくらいだけれど。あの人を恨み、狙うというのなら、わたしの標的だった。
「ついてきてもいいって言ってくれたから。報いたいのは当然じゃない?」
「オレにそういうことを言われてもねぇ…」
彼は困ったように笑う。
そりゃあ、そうなのだろう。恩に報いる。誰かを守る。彼にこれほど似合わぬ言葉もない。
彼のそんなところが、わたしは結構好きだ。
気を遣わせることなどまずないし、このことを聖那さんに伝えることもない。
その方が面白いと考えてる限りは、絶対に。
それに、そう言う人である限り、わたしを守ることも絶対にしない。組んでいてこれほど気楽なことはない。
「…わたしは玲ちゃんの感覚の方が分からない。よくそんなに無意味にふらふらしてて生きてられるね。嫌にならないの?」
「そう、じゃあ、理解できないのはお互いさまってことでいいんじゃないの?」
にっこりと彼は笑う。こちらの言葉に腹を立てることもなく、手を差し出してくる。
「なにはともあれ、いつまでもこんなところで喋っているのも気分が悪いって意見は一致してもいいと思うんだけどな?」
「そうだね」
頷いて、わたしは足を進める。さしだされた手をとることはしない。…誰かの手をとるのは、一度だけでいい。
彼は無視された手を見て、くすりと笑った。…少しだけ、楽しそうな笑い声だった。
「そう。こんなところに女の子がいつまでもいちゃ駄目だよ?」
「…男の子な玲ちゃんが嫌がってるだけじゃない?」
軽口を叩きながら、血の中にふした彼女をもう一度だけちらりと一瞥する。
あれはきっと、わたしの未来だ。
わたしはきっと地獄に落ちる。
地獄などないかもしれないけれど、それに等しい道をたどる。
けれど、それでも。最後の時まで、彼女の矛でありたい。
それが最低の言い訳でも、欺瞞でも、それでも。
わたしを助けてくれたあの人が、この身を必要としてくれたその時に、枷がはまった。
けれど、同時に帰るところを得た。生きがいを得た。
これ以上の自由が一体どこにある?
あったとしても、別にいらない。
それだけあれば、わたしは生きていけるのだから。
リレ小ではほとんどスポット当たらない彼女の行動理念。真っ黒い。…ちなみに彼女が彼と組んでて気楽、と言う理由はその昔親友に庇われた所為。で、一人ふらふら死にそうなところを拾ったのが聖那だという話でしたとさ。