昼の光に背を向けて。
 夜の闇には溶け込めず。
 ただ黄昏に、沈み歩く

幕間

「ふぅん。けじめねぇ。なんだか知らないけど人相良くなって結構だね。どうでもいいけど」
「…どうでもいいならほっときゃいいだろーが。お前が物事に口はさむとろくなことがない」
「あはは。やっだなあ。人を愉快犯かなにかみたいに。
 今回は珍しく善意で確認したんだよー? 部下を思いやったんだよー?」
「いやまじでそうだっていうならその面白がってそうなゆるんだつらを…いや。いい」
 どうでも、と。
 疲れた口調でしめる竜臣に、遥霞は笑う。楽しげに。あまり誠意とか真心とか似合わない風に、軽く。
 その様子に、竜臣は深く息をつく。
 突然呼び出され、珍しく真面目な顔で尋ねられたのは『流のアレはなにがあったの』
 珍しいセリフだった。否、真面目な顔でそんなことを言うのが珍しい。
 これは珍しく珍しく人の心配などしていたりするのか珍しくなんだこいつもう晩年なのか清々するないやちょっと困る。
 竜臣がそんなことを考える程度には、珍しい反応だったのだが。きっと珍しいとかそういう感覚は、気のせいだったのだろう。
「…お前の頭ン中とかどうでもいいが。どこまで知ってたんだ、あの二人の身の上」
 色々と諦めた竜臣は、疲れた調子のままつぶやく。
 うつむきがちの彼は気づかない。
 その言葉にこそ、珍しく驚いたような顔をされたことに。
「…別になにも知らなかったよ。雅は仕事中にたまたま会った。強い相手と戦いたいとか言われた。…で、流は言わなくても分かるでしょ。ホントそれだけ。
 適当に使いつぶそうかと思ったけど。善良そうだったから引き込んでみた。…というより、知ってたらなに?」
「わざわざ故郷の面々に会いそうな仕事をいつぞや回したことに、改めて引く。お前の善良そうって、扱いやすそうって思ったってことだろ、要は」
 一瞬の驚きをひっこめてにこにこと笑う上司に、かかる声は冷たい。冷たいというよりは、既にひくところまでひいたような声だ。
 心外だなあ、とつぶやいて、遥霞は続けた。
「悪趣味だのどうだのじゃなくて、手のウチ知ってる可能性があるならそいつを向けるのは当たり前でしょう。知ってたら雅はいかせなかったけど」
「まあ、逆にあの二人の知られてる可能性もあるわけだからな。…でも流はいかせるのかよ」
「諸々の事情ばらされたくなかったらきりきり働けとか言ったら流が張り切りそうだから」
「………お前やっぱり性格悪い」
 やっぱり悪趣味だからじゃん。合理とか関係ないんじゃん。
 ぶつぶつとつぶやき始めた竜臣に、遥霞は笑う。
 いつものような作り笑顔―――とは少し違う、苦笑じみた表情で。
「ねえ、竜臣。君と会ってほどほどに長いと思うけど。君はずいぶんと変わったね」
「……どこが」
 ぼやいて背を向け、部屋を出ようとしていた足がぴたりと止まる。
 心底嫌そうな声とともに振り向く竜臣に、言葉は続く。
「情が深くなったね。っていうか、元から深かったのかな。近くの…所謂身内には」
「いきなりなんの話だ」
「随分とまあおだやかな顔してるから驚いたんだよ。で、ついでに釘さしてあげる」
「釘ぃ?」
 そう、釘。と告げる声はやはり軽い。
  「そりゃあもう物語ならめでたしめでたしになりそーなタイミングだけど。
 んなもんないわけだから、ちゃんと見ててあげなよ。あの二人も、ほかのも」
「…何を今更わかりきったことを」
「うん、でも。大事なんでしょう?」
 軽いままの言葉に竜臣は答えず、今度こそ扉に手をかける。
 何やらずきずきと痛みはじめた額を抑えて、一応とばかりに呟く。
「……お前が聞きたかったの流のことだけなんだろ。帰るぞ俺」
「と君はつかの間の平穏を楽しむのだった」
「黙れ俺の胃痛の源不動の一位!」
 わざわざ振り返ってどなる顔に、笑声が起こる。
 楽しそうな声に、頭痛は強くなる。胃も痛い。
 どうやら自分の気苦労は、終わる気配がないと悟って。

 それは、割といつも通りの日常だった。



 ―――ここは、世界の東に位置する半人工島。
 様々な名を持つ町。
 様々な者が集う街。
 そこで、物語は続く。




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