birds of a feather flock together?
今回の仕事―――あるサンプルをある細胞学の学者の元まで届ける。
一見なんでもないように聞こえても、裏家業の人間に頼むような物なのだ。
危険な代物である。
『これを狙ってる者達が複数いるって話だ。そこのとこ注意してね』
ふと思い出す、いつもと同じ口調で告げられた遥霞の一言。
誰がこようと大したことはないだろう。
常日頃のくだらないの一言でしか済ませない騒動ばかりに遭遇していたから、こう思ったりもした。
ぎぃぃんっ!
重く、澄んだ金属音が響く。
「ちっ」
腕にかかる重い感覚。それを返すのでは無く受け流し、雅は目の前の相手を睨み据える。
「どっかで見たことあるんだけどなぁ……」
「ずいぶん腕は立つみたいだね」
少しはなれた場所から、慶と流。
「……お前ら……」
―――人が苦労してる時になにを呑気な……。
接近戦真っ最中な今現在。ヘタに援護を受けても危ない。
だが、なんとなく癪である。
呟くその間にも、えぐりこむような斬撃が続く。
強い相手と戦えるのは彼女の本願ではあるから、文句があるわけでもない。
―――ただ、なんとなく。
雅は自分と打ち合っている女性の後ろに控える車で、他人事の様に斬舞を見つめる男を一瞥する。
―――ただ、なんとなく。なにかが裏で動いてるような気がして、気に入らないのだった。
とりあえず、紫音は驚いていた。そして、悦んでいた。
自分の斬撃をここまで受けとめた相手は久しぶりだ。
「しかし……」
息を接ぐのと同時に小さく呟く。
「あのタレ目野郎………やる気あんのか……」
タレ目野朗、とは彼女の今回の(かなり不本意ながら)パートナー。
名前を望月玲人。
恐らく、『戦る気』はゼロだろう。
「……たっく………」
―――またなんか企んでいるな……アレは……。
それは解るのに、目的が解らない事が、
「気に食わん……」
言いながらも、返された刃を避け続けるのだった。
「うーん。決着つかないね〜」
少し困ったように言う流。
「つーかアイツら…なんでアレで体力もってんだ?」
慶が珍獣でも見るような目で、雅と紫音を見る。
「さすがってとこだね」
「……なぁ、アイツとアンタがいればここは十分じゃね?」
「かもね」
そう言いながらも目線はなんのリアクションも示さない妙な男を見る。
「ん―――…じゃオレ一人で行くわ」
ぽりぽり頭をかきながら、能天気な提案をする。
「大丈夫なの?」
「大丈夫だって。オレ弱くねーもん」
慶が、見ていると余計に心配になるへらりとした笑みを浮かべる。
「そうじゃなくて、一人でたどり着ける?」
「オレのこと、すっげーバカだと思ってるんだな?」
「いつもの行ないを見て思わないほうが無理だよ」
「う……オレだってやるときゃあやるぜ!」
「そうなの? 依頼人のとこまでまだかなり距離あるけど」
ちなみに今回、流は運転手である。
「……そんなにあるかな?」
「うん、ある」
互いに頷き合う。
「でもこのままじゃあ日ぃ暮れるぜ。コレには賞味期限もあるんだろ?」
コレ、とは依頼の品であるサンプル。
しかし―――
「君はどうしても食べ物に繋げたいの? それに、歩いて行くつもり?」
タイムリミットがあるのは事実だが、賞味期限、とは少し違うだろう。
「ああ。それができねーほどの距離でもないし…ヒマだし」
「暇のせいなわけ?」
そのあまりの言葉に眉を寄せる流。
「おう! じゃ行ってくる」
なぜか無意味な自信に満ちた瞳で慶は歩き始めた。
―――あ。どうしよう。困ったな。
上司の命令第一の玲人は、取り合えず仕事は遂行するつもりでいる。
今回の仕事―――依頼の代物の強奪と―――聖那から『ついでにv』と頼まれた護り屋2人の観察。
故に車からずっと小型のカメラを作動させてたりする。
―――あっちのお嬢サンは延々斬りあってるから紫音に任せておけばいいケド……
無造作に敵に背中を見せた金髪の少年に、ちらりと目をやる。
―――これだから天然の考え無しは……! 少しはオレを警戒しろって! 持ってかれちゃあ困るんだよ。
でもオレが彼と戦ったら負けるし…あっちの彼も通してくれそうじゃないしな……。
思考を廻らせ、小さくため息をつく。
『観察』を遂行しても、本来の仕事を失敗してしまえば、彼の上司の機嫌を盛大に損ねる。
なにしろ仕事の失敗は信用問題だ。
実力主義のサービス業『何でも屋』としてそれはあまりに痛い。
それならば。
閉じていた目を開け、力強くアクセルを踏み、
「―――――! 貴様っ! 殺す気かっ!!」
切り結んでいる2人につっこむ。
当然といえば当然だが、抗議の声をあげる紫音。
「なに言ってんの。オレは信じてるよ。君は車にひかれたぐらいじゃへこたれない。」
車を止め、有無言わせず紫音を抱き入れる。
「へこたれるわボケがッ! いやへこたれるですむか! 死ぬぞ! 見え見えの嘘をつくなこの若白髪っ!」
息の合わないコンビである。
「白髪じゃないよ。」
彼の金と銀の中間のような髪は確かに金髪が白髪になったようにもとれる。
とれるからといって言われて好い気がするわけではない。
「―――っと。そんなことはどうでもいいな。追うよ」
「なにを?」
「ホラ、あそこの金髪。行くよ」
一方的にそう宣言し、目標に向かって車を走らせ始めた。
「雅! 大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ薄情者め」
「そんな……俺は心配してたんだよ?」
流が大袈裟に肩を落とす。
「へぇーそりゃあごくろうさん。―――慶を追うぞ」
「……そうだね」
なにか釈然としないものを感じつつも流は車を走らせた。
いかに身体能力が常人離れしていようと、慶は人間、相手は車。
あっさりと慶は追いつかれていた。
幸いなのは発砲がないことだろうか。
「ん〜〜やっぱ無謀だったか……」
やはりでもなんでもなく、無謀だろう。
―――戦っきゃねーのかな。ここは。
そう判断し、くるりと後ろを振り向くと、
「乗れ!」
自分を追う車が増えていた。
「雅! と流!」
叫びつつ車に乗りこむ。
「とってなんだよ」
「深い意味はねーよ!」
パァァン! パン!
「撃って来たぞ」
「けどノーコンだね」
「あ。あそこの木ぃ抉れてる」
その言葉通り、明後日の方向の木に弾丸が食い込んでいる。
「ノーコンで悪かったな!」
少し後ろの方から聞こえる、紫音の怒声。
「やっぱ紫音に銃は無理か……全く、戦うしか能がないくせに……」
玲人が平淡な抑揚で呟く。
「黙れタレ目。貴様はどっちの味方だ?」
「君の味方だよ。ただ正直に使えないなぁという思いを口にしただけ」
「あ〜〜〜〜! ホントにむかつく奴だなっ!」
「なんか…俺らがなにかしなくとも仲間割れしそうじゃないか?」
呆れた顔で雅が言う。
「うん。どーかん」
続けて慶。
「でもそうはいかないよね」
しかし流は不敵な笑みを浮かべてそう言う。
「なにしろあの運転手の所為で雅引かれそうになってたから」
「「……」」
なにをどう返せというのだろうか、この発言に。
そう思う二人の代わりなのだろうか。
話題の主(聞こえてた)が声を上げる。
「別に仕事で敵対してんだからそのくらい当たり前だろう?
というか君、暑苦し過ぎ 一人の人間にそんな執着して楽しいの?」
流の殺人スマイル(←命名・遥霞)にも怯まず、玲人は微笑と共にそう言い続ける。
「理解できないね」
最終的に鼻で笑った。
「別に君に理解してもらう必要もないだろ」
「俺にも理解できないんだが?」
「雅、アンタ…そこまで行くとちょとむごいじゃ…」
耳元で鳴る風に負けないように続けられる、妙な言い争い。
そうこうしている内に。
「あれじゃないか?」
誰とともなく、雅が指差した先には、一見の廃屋のような建物。
「みたいだな〜」
「どうやらこっちの勝ちかな?」
ふわりとした雰囲気が車内に満ちた。
「ちっ……行かすか!」
紫音は低く吼え、車を乗り越えんと身を乗り出す。
「―――受け取る人がいなきゃいいんだけどね」
先程まで言い争いの際より、低い声で言う。
「……あっちの依頼人を、殺す気か?」
苦虫を噛み潰したような表情をする。
「嫌そうだねぇ。君、本当に潔癖過ぎだよ?」
「…お前が、殺し過ぎるだけじゃないか?」
重く硬い口調。
「人を大量殺人犯みたいに言わないで欲しいなぁ。いつもオレは話し合いで解決してるだろ?
って…甘い割りに凄まじい殺気だね。別に心配しなくても殺らないよ。仮に受け取り主を殺しても…
目の前で人殺したりしたらサンプル壊すだろうから? あちら側」
クス、と嘲笑とも、讃辞ともとれる笑みを浮かべる。
「後から忍びこむんじゃタイムリミットに間に合わない……」
「っ! じゃあ結局ここで力づくで止めるしかないんじゃないかっ!」
「おお。珍しく正解。ということで早く行ってねv」
まっ白いハンカチ片手に持って、紫音を見送る玲人。
「―――あとで覚えておけっ!」
額に青筋浮かべつつ、がっ! と靴を鳴らして飛び降りる。
―――なぁんでこいつと組まなきゃならんのだっ!
「…本気で気に食わん…」
そう言いつつも、スミレ色の双眸は真っ直ぐに正面を射る。
―――――決戦の時は、来り―――――
しかし決着は至極あっさりとついた。
身もふたもなくついた。
「……え?」
珍しく間の抜けた声を漏らす雅。
「なんて……マヌケな……」
笑顔がひきっつてる流。
「あ・あ・あ〜……」
ひたすらうめいて頭を抱える慶。
「貴様っ!! ぶっ殺すぞこの野郎! このアホ!」
意味も理性もへったくれもない言葉を口走る紫音。
「……割れたな」
年の頃は五十を少し過ぎたほど、白衣を着た男―――依頼人の声も震える。
そう、割れた。
激しい攻防戦の末、サンプルの入ったカプセルが全て床にぶちまかれ、しかも燃えた。
「殺される……ぜってー遥霞に殺される………」
元々青白い肌が今や紙の様。
燃やした本人、慶はひたすら震える。
「殺される…ってんなオーバーな…」
―――でもありえるのか……?
内心思いつつも雅は義理でフォローを入れる。
「甘ぇよっ! オレは何人か見たことあるんだっ! 仕事でドジッて病院送り一歩手前まで追い詰められたヤツらをっ!」
ちなみに、心の病院だ。
彼らは皆一様に、『実家に帰らせていただきます』とか残して去って行ったそうな。
例え実家に帰れない身、実家が無い身でもそう出て行ったそうだ。
「……それでいままでよく恨みをかってないな?」
「いや、かってないわけねぇだろ…正面から斬られるより背後から刺されるタイプだよ」
3人は、改めて上司選びを間違った気がした。
「………」
紫音もショックだった。
―――畜生! 絶対タレ目にバカにされる……!
それを思うと、重いため息が漏れる。
「いや、こんなモノは無い方が良いのかもしれない……」
ポツリと白衣の男が呟く。
その言葉に少し明るくなる一同。
「今まで…私の意思では中止できなかったが…こんなモノは無い方が……」
なんだか知らないが憑き物の落ちたよう爽やかな顔をしている。
「―――無い方が、いいのだろう。……ありがとう」
―――お礼言われた!?
思ってもみなかった展開である。
「だが、な………」
言って毅然と前を見つめる。
「君が燃やした物の弁償はしてもらおう」
「へ?」
がしっと慶の肩を掴み、ずるずる引きずって行く。
「え!? ちょ…どこにっ!!?」
「しばらく私のところの雑用をしてもらおう」
「え――――!!?」
助けを求めるようにあたりに視線をさ迷わす。
「ま、頑張ってね」
静かな微笑付きで手をふる流。
「死ぬよりはマシだろ」
頑張ってこいよ、と雅も同じく。
「薄情者〜〜〜〜〜!!!」
「うるさいな…耳に響く。ほらっちゃちゃと来い」
慶の声は誰にも届くことなく虚しく響いた。
こうして、事件はかなりまぬけに幕を閉じた―――
それと、時を同じに。
「残念ねぇ」
聖那は映像の途切れたモニターを見つめる。
暫く前までは部下からの映像が送られていたのだが……途中で途切れた。
―――余裕なくなっちゃたのか。仕方ない。
けれど、なんとなくコンピュータを起動したまま、瞑目する。
―――以前、誰かが言っていた。
『ここ』は奇跡の街なのだと。
それはまず、『ここ』が存在していること。
犯罪者の巣窟のような『ここ』に対しなんの処分もない理由。
一つは東方の国は全て軍事放棄していること。
『ここ』を潰すにはそれなりの力が必要だ。
数10年前から東方にはそれがない。
―――しかし『世界共通危険地帯』なのだから、他の国の干渉も自由。
だが、それも無理。
西方も北方も自国の揉め事が続き、それに軍事を注ぎ込んでいる。
中央に至っては、ほぼ鎖国のような状況だ。
南方はほかの三つに比べれば穏か……ではあるものの、やはりそれは出来ない。
反対があるのだ。
『ここ』から、海を挟んで4キロと離れていない町の住人達から。
とばちりを受けるのはご免だ……と。
そのほかにも『ここ』の住人に弱み握られたり人質とられたりで―――ともかく、大変なのだ。
この世界も。
「そーんなむちゃくちゃな世界だからあたし達が儲かるんだけどねぇ……」
聖那は思う。
―――本当に『不思議』な島。
ヴ…ン…ン……
微かに鈍い音を立て、聖那のコンピュターに映像付きの強制通信が入る。
「あら、待ち人来り?」
言うわりに、その表情はあまり愉快そうでない。
こんな真似をするのは幹部クラスの部下か、彼女の両親。
そうでなければ―――
「―――こんにちは」
ケタ外れにネットワークに関する技術に秀でた人間による、ハッキング。
「東さん?」
先手必勝、とばかりに華やかな微笑みを浮かべる。
対して相手も笑顔で、
「お久しぶり、桜木聖那さん。
驚かないんだ? 俺がこういうことしても」
「ええ。なんらかの方法で接触してくるだろうと、予想はしていた―――。でもダメね、このコードは変えなきゃ」
聖那はこの青年が好きではなかった。
紫音に言わせれば『同族嫌悪だろ』であるが、聖那に言わせれば同族などでは無い。
嫌いだった。
その無関心な眼差しが。
「ふーん…でも今回はやってくれたよね。わざわざほかのとこから仕事奪るなんて。俺、君に恨まれるような事した?」
そう、この仕事を最初に取っていたのは『紗羅曼樹』ではない。ほかの者達。
それを聖那が急に手を回したのだ。
かなり無茶な方法で。
「いいえ? 別に恨みなんてないわ。好奇心よ、きょーみあったのよねー護り屋2人組に」
聖那にとってはこれで充分な理由である。
……困った事に。
「……あっそう。まぁいいよ」
クス…と苦笑いの混じった声が返ってくる。
この人物の―――『BLACK・MIST』の勢力は恐ろしいものがあった。
その力より、そこに至る過程が常識はずれだった。
たんなる青年…否、まだ少年だった東遥霞は、身一つでここまで昇りつめた。
バックにはかなり強力なスポンサーがいる。
それでも常識はずれだった。
それを『曼樹沙羅』のスポンサーはかなり危険視していた。
「用件はそれだけ? ずいぶん暇人なのね」
もっとも、それらの事柄は彼女には関心の無い事ではあるが。
「悪いけど、暇人じゃないよ? 貴重な時間をさいて連絡したのさ」
その表情が真剣なものに変わり、瞳に冷たい光が宿る。
「なんのために?」
しかし、聖那は微笑を絶やさない。
「ん―――。やられっぱなしは俺の性に合わないって事を伝えようと思って。じゃ☆」
「充っ分に暇人といえるでしょう?」
あっさり通信を切った青年に、笑顔の皮肉は届いたかどうか。
「―――さて。気分悪いわね………」
―――取り合えず、帰ってきたら……
嫌味の一つも言ってやろう。
思い、赤い唇は微笑んだ。
場所は違えど時は同じに、黒髪の青年も似た事を思う。
こんな場所で人の上に立つとこんな性格になるのか。
こんな性格だからクセのある者達が集まってくるのか。
類は友を呼ぶのかもしれない。
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