TALK TIME
――――パスワードを確認しました――――
ディスプレイに表示された文章を確認してから、流は部屋に入った。
仕事は、ある組織で研究している薬のサンプルの始末だ。この薬は前生命を脅かす可能性があるらしい。
何故今回は始末までが仕事に含まれているのかというと、この薬の成分は超高温で燃やさないと分解・消滅しないらしい。しかも、人では作り出せない温度の。
流を呼び出したときの遥霞の第一声は「最高何度の炎出せる?」だった。
とりあえず「生物や物を一瞬で蒸発させるくらいの炎は出せる。ダイアモンドはやったことないけどね。」と流は答えた。
そしてこの仕事に抜擢された。
何故慶ではダメなのかと言う問いに対しては「慶にやらせて無事に事が運ぶと思うか?」という言葉に妙に納得し、流はこの仕事を引き受けた。ちなみに動きやすいように一人だ。
――――それにしても妙だな…
流は思った。
警備が薄すぎる。というか、警備をしていたであろう男達がそこら中に倒れている。
大して気にせずに道を進んでいくと一つの部屋があった。ここがサンプルのある部屋だ。
鍵を溶かそうと思ったが、すでに鍵は開いていた。
――――誰かいる…?
誰もいないのを確認してから、慎重に部屋に入った。
部屋の真ん中には一つの箱が台の上に乗っていた。その中にサンプルが入っているのだろう。その箱は二重、三重に鍵がかけられていた。
それを見て流は携帯を取り出すと、遥霞に電話をかけた。
「遥霞さん?今サンプルのある部屋なんだけど…鍵開けるの面倒だから部屋ごとヤっちゃっていい?」
『いいんじゃない?』
流のあまりに突飛な発言に軽く同意して、遥霞は電話を切った。
「そこまでだ。」
男の声が響いて、流の頭に何かが押し当てられた。冷たい、鉄の感触。
「…殺気をまったく感じなかったからほっといたんだけど…はずれだったかな?輝。」
流が視線だけを後ろに向けると、輝が笑顔で立っていた。
「何だ気づいてたんだ。」
そういうと輝は銃を下ろした。
「ちょっとした冗談だからさ。気悪くしないでよ。」
「まぁ別にいいんだけど…ていうかこんなところで何してんの?」
自分も人の事は言えないのだが、組織に属していない輝がいることは妙なことだった。
「今俺、あの研究所と関係あるとこ潰して回ってるんだよね。ここもその一つ。ってわけだよ。」
「また面倒くさいことするね…そんなことしてどうするの?あの街はもう捨てたんだろ?」
「…あの街みたいなのを増やしたくないだけだよ。」
流はふーん。と興味なさげに相槌を打った。
流にとってあの街はもうどうでもいい存在だった。
他の街のことも、どうなろうと知ったことではない。
「…で、そういえば俺、今ここの護衛やってるんだよね。」
思い出したように輝が言った。
「クス。邪魔するって言うの?」
面白いとでも言いたげに流は笑った。
「さっき言っただろ。潰して回ってるって。」
「共同戦線を張らない?」
「意外にあっけなかったねー。」
「…あのね。人のこと巻き込みかけたやつのセリフかそれ。」
「輝がとろいのが悪い。」
仕事のことを思い出しながら2人は語る。
ちなみに今は流の部屋で飲んでいる。そしてすでにワインを3本も開けている。
「ちゃんと目的を言ってから能力を使ってよ。まさかあそこまでの火力出すとは思わないだろ。」
輝の文句の原因とは流がサンプルを蒸発させる際の輝への対応だ。
共同戦線を決めてからすぐに何も言わずに炎を出したため輝は巻き込まれかけた。
ちなみに服の金属の装飾部分が熱により溶けて変形した。
「まぁ死ななかったんだからいいじゃん。」
「そういう問題じゃ…」
コンコン
更なる輝の文句が続くかと思われたとき、ドアをノックする音が響いた。
「はい?」
流が返事をしつつドアを開けると、雅が立っていた。
「雅vどうしたの?雅から来るなんて珍しいねvそんなに俺に会いたk」
「…飲んでんのか?」
部屋の酒の匂いにか流のハイテンションぶりにか雅は顔をしかめた。
「雅?」
続いて輝も様子を伺いに来た。
「輝!来てたのか?」
「うんちょっと流と仕事で鉢合わせしてね。」
「そうか。だったらちょうどいい。今から俺の部屋で皆で鍋食うんだけど、来るだろ?」
2人の答えはもちろんYESだった。
「…さすがに狭いわね。」
ポツリと希羅は漏らした。
あまり広いとは言えない雅の部屋に、7人もいるのだ。無理もない。
「そういえば何で遥霞と智華呼んでねーんだ?」
すでに鍋(慶専用)を突っつきながら慶が言った。
「一応行ったんだけど…なんでだか遥霞の機嫌が悪かったからやめておいた。」
触らぬ神に崇りなし、だ。それとこれ以上人が増えるのもちょっと無理がある。
「ていうかなんでこいつがいるんだ?」
竜臣が視線だけで輝を示す。
前に最後には和解したとはいえ雅を仮死状態にしたのだ。当然の疑問だろう。
「流の部屋にいたから。」
「それって理由になるの?」
「俺ってもしかして信用ない?」
希羅の雅への問いかけにちょっと悲しくなる輝。
「大丈夫だよ。変なことしようとしたら俺が殺すから。」
にっこりと流が言う。
「そんなに俺のこと嫌い?」
また、悲しくなる輝だった。
「雅料理うまくなったねぇ。」
鍋の具がだいぶなくなってきた頃、輝がふと口にした。
「さすが泪に教えを乞うただけはあるね。」
「泪って…流のお姉さんっていう?」
雅の膝の上に座っている白蓮が雅の顔を見上げながら聞いた。
「ああ。料理は泪に教えてもらったんだ。」
「どんな人だったの?」
嬉しそうに微笑む雅に、白蓮は好奇心で満ち溢れた目を向ける。
「すごくいい人だったよ。強くて、綺麗で、しっかりしてて。」
でも…と雅は付け足した。
「ちょっと…怖かったな……」
どこか遠いところを見つめながら雅が言う。
そんな雅の様子に白蓮は「えっ」というような表情をする。白蓮だけではない。泪の事を知らない者全員が、だ。
「泪って笑顔で怒るもんね…」
輝が呟いた。
その言葉に全員が流との血の繋がりを感じずにいられなかったのは当然だ。
「な、なんかすごい人だったのね。よく分からないけど。」
「いや、イメージ通りっちゃイメージ通りのような…」
そんな流の姉を想像して戦慄する竜臣。流みたいなのが2人いるなんて怖すぎる。
「あ、あと流が逆らえない唯一の人だ。」
思い出したように雅が言った。聞いた者全員は自分の耳を疑った。
「流にも逆らえない人いたんだな…」
鍋を食べる手を止めてどこか感心したように慶が言う。
「どういう意味?」
「深イ意味ハアリマセン。」
流に笑顔を向けられやはり戦慄する慶。恐怖が刷り込まれている。
「だって逆らうとご飯にいろんなもの入れるんだよ?逆らわない方が利口だよ。」
「いやそれはお前が悪かったと思うよ俺は…」
「へー。言ってごらん輝。」
「ちょっ…!!雅ぃぃぃぃぃっ!!!怖いよこいつ怖いよどうにかして!!!!」
「流落ち着け。怒るぞ。」
「雅が言うんならしょうがないね。とりあえず輝。早く雅から離れて。そしたら何もしないであげるから。」
「何様だ!」と心の中で思いつつも逆らえないので輝は雅から離れた。そして、昔の思い出もといっても苦い記憶を話し始めた。
「だって流が雅の事を嫌うから泪が怒ったんだろ?」
「そうだっけ?」
「そーだよ。」
3人以外は「マジでか!」といった顔をする。雅を嫌う流など想像もできない。
「まだまだ子供だったってことだね。」
「まとめるなよ。」
雅が突っ込みを入れた。記憶があるのだろう顔をしかめている。
それは溯る事12年前……
『流!今日から家族が増えるわよ!!』
『は?』
帰ってくるなりいきなりの発言。この姉はいつもわけがわからないが、とうとう頭がイカれてしまったか、と流は幼心に思った。
『何?妊娠でもした?赤ん坊の面倒を見るのはごめんだよ。』
間の抜けた声に続いて流は冷たい言葉を言い放った。本当に本心からの言葉だ。
『何でそうなるのよ。大体相手がいないもの妊娠なんてするわけないでしょ。この子よ。』
泪が体を横にずらすと、泪の体で隠れて見えなかった、小さな少女が怯えるようにして立っていた。
肩にかかる濃茶の髪、同じ色の大きな瞳。一瞬少年にも見える少女はずっと泪にしがみついていた。
『雅ちゃんって言うの。可愛いでしょ?』
『あ、女の子なんだ。』
名前を聞いて初めて流はその子供が女の子だということに気がついた。
『で、どうしたのその子。』
『拾ってきた。』
『うん。簡潔かつわかりやすいご説明ありがとう。ていうか物じゃないんだから人を簡単に拾ってくるのはどうかと思うよ。』
『いいじゃん別に。可愛いんだから。細かいこと気にすると父さんみたいに禿げるよ?』
『可愛いっていうのは理由にならないし人を拾うことは気にするべきだよ。それに父さんは禿げてない。』
『あーもーネチネチうるさいなー。姑かお前は。』
『同居人としての当然の意見だね。』
『あーヤダヤダ。だからお義母さんと一緒に住むのは嫌って言ったのよあなた。』
『何いつのまにごっこ遊び始めてんの?』
いつまで経っても進展しない話に流はイラつき始めた。正しくは姉の対応に、だが。
『とにかく!この家の家計は私が支えてるんだから決定権は私にある!!』
ビシ!っと効果音が付きそうなくらいの勢いで指を流に向け、泪は言い放った。
『…はぁ。勝手にすれば。』
呆れたように溜息をつくと、流はついに折れた。もう何を言っても聞かないのだ、この姉は。
『そうと決まったらほら。挨拶しなさい。まだしてないでしょ。』
『ヤダ。めんどい。』
ゴツッ!!!
『…っ!!!火影流デス。ドウゾコレカラヨロシク。』
痛みと複雑な感情により引きつった笑顔を雅に向けた。雅は軽く引いている。
『……風霞雅です。よろしくお願いします。』
蚊の鳴くような声で雅は答えた。未だに泪にしがみついているあたり人見知りが激しいのか。とりあえず流が苦手なタイプだった。小さい上にひ弱そうだ。
『じゃ、雅ちゃんの面倒は流に任せた!』
その言葉に2人は目を見開いた。
『何でだよ!自分で拾ってきたものくらい自分で責任持て!!』
『だって私は薬売りに行かなきゃいけないしー。いいじゃない輝もいるんだから。3人で遊んでれば。』
『絶対にヤダ!!!』
『社会勉強よ社会勉強。頑張れ流!負けるな流!!君ならきっとできるさ!』
『社会勉強の意味わかってんのかあんた。とりあえず一発殴っていい?』
後から一発じゃ足りないな。と付け足す。
『家庭内暴力だなんて姉さんあんたをそんな子に育てた憶えはないわ!!』
よよよと泣き崩れるフリをする泪。もう言い返す気力も無いのか呆れた…というよりは何か可哀想なものでも見るような眼差しを流は向ける。
ちなみに雅はだいぶ前から2人の話についていけていない。
こうして3人での生活が始まった。
「なんか…個性的な人ね、流のお姉さんって…」
ここまでの話を聞いて顔を引き攣らせながら希羅が言った。想像していたような人物とは大いに違ったのだろう。
「ていうか冷めてんな流…」
「あんな姉を持ったら嫌でも冷めると思うよ?」
「確かに…」
やたら失礼なコメントをしつつ話は進んだ。
翌朝、輝が流の家を訪ねてきた。
『流―!!遊びに来た…ん?』
勢いよくドアを開けたときに聞こえたガンッ!という音に、輝は首を傾げる。
ドアの後ろを見てみれば見たことのない子供が頭を押さえてうずくまっている。さっきの音の原因だろう。
『わっ!ごめんぶつかった?』
疑問形にしなくともぶつかったのは明らかであろう。雅は涙目になった顔を輝に向けた。
『ごごごごごめん!!まさか人がいるとは思わなかったから…』
『気にしなくていいよ。そいつが鈍臭いだけだから。』
冷ややかな流の声。流は部屋の中央にある椅子に脚を組んで腰掛け、こちらを見ていた。
『流、誰?この子。泪の隠し子?』
『それだったらまだよかったかもね。いや、よくないか…昨日泪が拾ってきたんだよ。迷惑な話だ。』
『冷たいなー。可愛いじゃんこの子。名前なんていうの?』
『……雅。』
頭を撫でてくる輝にやや怯えるようにして雅は答えた。
『雅ちゃんかー。名前も可愛いーv』
『輝ロリコンだったの?』
『ロリコンって…俺達7歳なのにロリコンも何もないだろ…雅ちゃん何歳?』
雅は少し考えこんでから手の平を輝に向けた。
『5歳かー。俺達とそんな変わんないじゃん。』
『気に入ったんならあげるよ。』
『そんなことしたら泪に殺されるじゃん…なんでそんなに嫌うの?』
『ムカつくから。』
『一方的〜…』
流の言葉に「酷すぎる」と告げてから輝は雅に向き直った。
『じゃぁ流はほっといて遊ぼうか。何がしたい?』
雅はすっと、ドアを指差した。
『外?外で遊びたいの?』
輝の問いかけに雅はこくりと頷く。
『まぁ、外なら他のやつらもいるしねー。よし!じゃぁ外行こう!』
輝の言葉に、雅は初めて花が咲いたように笑った。その笑顔は輝の心を射抜いた。
『可愛い〜!!!!じゃ、ちょっと雅ちゃん借りてくね〜v』
『むしろ貰ってってくれ。』
流の言葉に苦笑を漏らしつつ、『後から混ぜてって言っても知らないよ〜。』と言い残し輝は雅とともに外に出て行った。
「………ありえない。」
「怖い。」
「それがどうしてこんな風に?」
3人は唖然としていた。流が、あの流がここまで雅を嫌っていたなんて。
「ひっどいよね〜。俺がいてよかったね雅v」
「泪は思春期だって言ってたぞ?」
「いや、雅、7歳で思春期って…」
「ホント酷いね。雅やっぱり流じゃなくて僕にしなよ。」
「オイ化け猫それ以上雅になんか言ったらぶっ殺すぞ。」
ちゃっかり雅の膝の上を陣取っている白蓮に向かって流は禍々しい殺気を向ける。
昔は酷すぎたけどあの性格がちょっとでも残ってたらなぁ…とか思う白蓮だった。
「性格が180度変わったのね。」
「変わらなければ俺は度々燃やされることがなかったわけだ…」
「もう遅いって。変わっちゃったんだから。」
遠い目をしながら呟く竜臣を慰めるように慶はポンポンと肩を叩く。
そしてまだまだ驚く話が続くのだった。
『ふっ……うえっ…』
『こんにちは〜。』
『あら。どうしたの?輝…にどうして雅は泣いてるのかしら。流と買い物に行かせたはずなのに。』
『それが…流とはぐれたみたいで道に迷って泣いてるのを見つけて連れてきたんだ。』
『ふ〜ん。ありがとね輝。それにしてもあのクソ餓鬼何やってんのかしら。帰ってきたらお仕置きね。』
フフフ…と怪しく笑う泪に、雅と輝は恐怖を覚えた。怖い。怖すぎる。
『…何3人で玄関の前に突っ立ってんの?』
そこに運悪く流が帰ってくる。泪の瞳が怪しく光った。
『流?私は雅と買い物に行ってきてって言ったわよね?』
『言ったね。』
『じゃぁ何で雅が迷子になったのかしら?』
『知らないね。そいつが勝手に離れただけでしょ?』
『ちがっ…流がついてくるなって言ったから…』
その先を言いかけて雅は縮こまった。流に睨まれたからだ。
『で、雅が迷子になって何であんたは探さなかったわけ?』
泪の声が次第に低くなった。本気で怒っている。
しかしそんなことで怯む流ではなかった。
『俺にも迷子になれって言うの?馬鹿馬鹿しいね。』
その時 プチッ と小気味いい音がした。
『そ〜お。じゃ、もういいわこの話は。流、稽古つけてあげるから表出なさい。』
『ヤダ。めんどい。』
『いいから出ろ。』
笑顔でキレた泪に低い声で言われ、流は渋々外へ出た。雅は話の展開が飲み込めないでいた。
『あ〜あ。流ボコられちゃうよ。』
『えっ?』
『あ、大丈夫大丈夫。いつものことだから。』
へらっと笑いながら輝は言った。雅は内心『笑い事じゃないんじゃ…』と思った。
数十分後、流は見事にボコられた。泪は息切れ一つせずに得意げに仰向けに転がっている流を見下ろす。
『まだまだね流。そんなんじゃすぐ殺られるわよ。』
『お前が強すぎるだけだろゴリラ女。』
ゴツッ!!!!!!
『っ……!!!!』
『さ〜て稽古も終わったことだし夕飯の準備ね。雅、手伝ってくれる?』
『えっ!?う、うん…』
初めて見る泪の姿に恐怖を覚えた雅は声をかけられて体をビクッと揺らした。
『あ、怖がらないで。こいつに人生の厳しさを教えてるだけだから。』
『どこがだよ自分の力を誇示したいだけだろ。』
ドスッ!!!!
『あ、ごめん。手が滑っちゃったvv』
『る、泪、流が泡吹いてるぞ…!!?』
『気絶してるだけよきっと。輝、流のこと中に運んどいてねv』
「あの時はホントに流死んだのかと思ったよ〜。」
アハハ〜と快活に笑いながら輝が言う。
――――笑い事なのか?
その場の全員が思った。
「それにしてもすごい嫌いようね…」
「でしょ?だから前に会ったときにあまりにも雅にべったりだったから俺びっくりしちゃって。」
「いつからこんな風になったんだ?雅?」
「んー……いつからだっけかな…気づいたら?」
「答えになってないな…」
「俺と雅は運命の赤い糸で結ばれてるからねv」
「意味わかんないよ。」
「黙れ化け猫。」
「そういえば料理の話が出てきてないようだけど…」
「ふふ。あれは酷かったね…あぁ、だから俺料理音痴なのかな?」
遠い目をしながら流は言う。
「いや、それは関係ないんじゃないか?」
「流の料理の腕は才能でしょ?」
続けて雅と輝が言う。さり気なく酷い。
『……何これ。』
半分に切ったハンバーグを見つめて流は言う。
『何ってハンバーグでしょ?』
それにニコニコと笑顔で泪は対抗する。
『分ってるよそんなことは。俺が聞いてるのはハンバーグに入ってる白い物体なんだけど。』
ハンバーグのど真ん中を通っている白い物体。ナイフで簡単に切れたのだから骨ではないだろう。
『クス。聞きたいの?』
『ろくでもないことのような気がするけど俺の生命に関わる可能性があるから聞いとく。』
『芋虫v』
泪の言葉にピシッと流は固まった。
『…何、やってんの?』
内からふつふつと沸いてくる怒りを必死に抑えつつ、流は聞いた。
『それは自分の心に聞きなさい?』
『……心当たりがありすぎてわからないね。』
『邪魔なんだよ消えろ。』
『は?』
『って雅に言ったそうじゃない?』
にっこりと綺麗な笑顔で、それでいて笑えない空気を醸し出しながら泪が言った。
『それは薬草採りのときにそいつが足手まといだったから。』
『雅は悪くないもん……』
小さく反抗した雅に、ギッときつい視線を流は向ける。案の定雅は体を縮こまらせた。
『雅は一生懸命あんたの手伝いしようとしただけでしょー。だから、食え。』
『えっ、ちょっ、あんた鬼?こんな芋虫入りのもの人間が食えると思うの?』
『世の中にはそこら辺の雑草食って生きてる人間だっているのよ。それよりは豪華でしょ。』
『ていうかあんたらは普通のハンバーグのくせして妙なことに時間かけてんじゃねーよ。無駄すぎるよ時間が。』
『あら〜、無駄じゃないわよぉ。教育よ。』
『これは世間一般では虐待って言うと思うんだけど。』
『私にとっては教育よ。』
『虐待をする人間は皆そう言うよ。』
二人は笑顔でバチバチと火花を散らした。そのあまりもの恐怖に雅はガタガタと震えだしている。
『あ、あの・・・』
『黙れガキ。』
『雅ちょっと黙ってて。今いいところなの。』
『はい・・・・・・』
雅は間に割って入ろうと思ったが二人に一蹴され。そしてすぐに大乱闘が始まったのは言うまでもなかった。
「・・・なんか・・・雅が可哀想に思えてきたわ・・・」
「すごい家で育ったんだな、雅・・・」
どうコメントしていいかわからなかったがとりあえず雅の不憫さは理解した希羅と竜臣。
「でも雅日に日にたくましくなってったよねー。」
「あの家でたくましくなんないほうがおかしいと思う・・・」
輝の言葉に疲れたように雅は返す。
「でも雅泣き虫だったよね。」
「今もだよ。」
「なっ!!?誰がだ!!!」
輝と流の言葉に雅は赤面する。
「流に何かされるごとに泣いてたよねー。」
「輝が泣かせたんじゃないっけ?」
「いや、ちょっと、さり気なく人のせいにしないでよ。」
「ていうか泣いてねーし!!」
「いや、泣いてたって。流に髪の毛変な風に切られたときとかカエル投げつけられたときとか作った料理まずいって言われたときとか・・・」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
両手で両耳を塞ぎつつ、まだまだ続きそうな輝の言葉を雅は大声で遮った。
「アハ。記憶あるんじゃない。」
「もう言うな!!頼むからそれ以上は言うな!!!!」
「最近では寂しいときに泣いたりとか俺がいなくなると泣いたりとか・・・」
「流ぅぅぅぅぅぅっ!!! お前も黙れぇぇぇっ!そして泣いてねぇっ!!!!」
「あぁ・・・雅が弄ばれてる・・・・・・」
「なんか・・・怖いな、あの二人。」
「なー雅、鍋おかわりー。」
「そのセリフこの場にそぐわってないよ・・・」
そしてこの勢いでどんどんと暴露話は続き・・・
「もう二人なんか嫌いだぁぁぁぁぁぁっ!!!」
と、雅が自室に引き篭もるのは時間の問題だった。
〜おまけ〜
「やっぱ雅と流がいると面白いね〜。俺もここに入ろうかなー。」
「それは遥霞さんに言ってね。」