その目が俺以外を見るというなら、間違いなく潰すのだろう。
 その声が俺以外を呼ぶならば、躊躇いなく首を折るのだろう。

 いつもそう思う。

 ベタだけど、それなら俺のものでしょう?   でもそれは…………たぶんないから。

 だって、君は、俺を好きだと言ってくれた人。  だからこそ愛おしいと思えた人。

 だから―――いつも思うのだ。

 もしも君が俺など愛さなければ、
 躊躇いなく殺せたのに。
 けれど、できないから、俺は。
 殺して欲しいと思うのだ。

  君のその手でとどめをさして。


 健やかな寝息に誘われるように綺麗な茶色の髪をいじる。
 起きてると絶対に嫌がられるからやりにくいことの一つだが、滑らかな手触りは心地よい。
 しかし…あんまり触ってると起きて文句言われそうだ。
 いくらぐっすりと眠っているといっても、起きないとは限らない。
 名残惜しいことこの上ないが手をとめる。ついでにずらしてしまった布団も直す。
 その時触れた肌につい先ほどまでの熱はない。
 それは無性に寂しい気がした。
 幾日時間を共にしようと、こうして幾夜共に過ごそうと。
 俺に残せるものはないから。
 

 俺のことが好きか、と。
 そう訊ねることは簡単だ。
 その答えを想像することも、簡単だ。

『そういう質問が出てくるということは。
 あなたは、私が好きともなんともない相手に、こんなことを許すと思ってるんですね?』

 たぶん、眉一つ動かさずに、呆れたような声で。
 未だに恥じいるというのに、変にあっさりあからさまなこと言うひとだから。

 別に、『愛している』だの『好き』だのを君に言ってほしいわけではないけど。
 やっぱり少しつれないんじゃないかななんて思ったりする。

 それでも。そんな君が。
 本当に。
 君のことが好きで。
 だから、本当に。

「…本当に…」

 願うことは一つだけ。
 死ぬのは別に怖くない。生まれてきて嬉しいとも思えない。
 怖いのは君に忘れられること。
 ただそれだけなんだ。


 狂っているのは百も承知。
 けれど、どうか。俺を―――

「……智華……」
 俺を殺して。
 そうすれば忘れないでくれるでしょう? 君は優しい人間だから。
 忘れられないでしょう? その手で誰かを殺したら、俺を殺したら。
 一瞬たりとも忘れられないでしょう……?
 愛情なんて、そんなもの。
 いつ薄れるか分からないそれよりも、そうすれば俺を見てくれるでしょう?

 尽きることのない後悔と罪悪感で、俺だけを見てくれるでしょう?

 そんなの嫌だと君は言ったけど、ここにいろと言ってくれたけど……けどやはり、そっちの方が俺には合ってる気がするんだ。

 ……………………………。
 ………………………………………………………………………。

 それでも俺はそれを実行できないでいる。
 その理由は明確だ。

 徐々に迫るまどろみを感じながら思う。

 きっと、明日になれば俺はまた彼女に馬鹿みたいなことを言って、
 冷たくあしらわれて、ついでにその鬱憤を手近な部下あたりで晴らして、それで笑えるのだろうから。
 その日々をほんの少しだけ気に入っているのも、本当だから、死なない。

 歪みをかかえてどこまでいけるのか、分からないけど。
 君が泣こうが喚こうが、俺には放すことはできないから。
 
 終わりが欲しくなったら、殺してください。
 そうすれば俺は大人しく消えるから。
 それでも君を想う俺を決して許さず恨んでください。



 この想いが、

 狂ったのはいつ?

 狂ったのはなぜ?

 それがわからないからせめて……


 君のその手で止めをさして。
 きっと、紅く染まったその手すら愛しいと笑える。

 それが俺の幸せなのだから。




あとがき。
 魂に刻めの方に回そうともしたけど、あっちは違うの思いついたんでこちらに。
 オリジの方のシリーズの東遥霞。狂気の愛がテーマで。永遠に憧れながら愛情を信じきれない人。
 これは心中願望ですか。いや違うか、残して逝きたいんだそうですよ。
 とりあえずどう転んでも不安というはた迷惑な人です。
 あー。実際いたら絶対関わりたくねぇと思うけど好きです、狂気の愛とか美とかそういうの。(それを人は悪趣味と呼ぶ)