朝色の町の数人が愛用する、毎度おなじみドラゴンカフェ。
その一角で、ひょんなことから宴会が始まり。
つい出来心で酒をあおってしまったある風龍は―――でろんでろんに酔っぱらっていた。
酔いどれ注意報
「…うぅー…」
風矢は低く呟いてぐわんぐわんと痛む頭を押さえる。1人廊下の壁にもたれかかってはぁーと吐き出した息は、少しだけ酒臭い。
彼は酒に弱かった。コップ一杯が限界だった。
酔うと意味もなく陽気で、手がつけられない――――とは、それなりに酒に強いベムの弁。
酔うとどうなるかはともかく、弱い自覚だけはあったので、彼はそれを控えていた。
けれど、今、飲んでしまったのは。
「…ああー…」
恋人が周囲の住人に勧められるまま楽しそうに飲んでいるのに自分が加われないのが悔しかったから―――だ。
「……」
―――なにやってるんだ、僕…………
情けなさに目がかすむ。誰かに見つかる前に、召喚石にでもひっこもう、と思うのだが。ふらつく身体がうまく動かせない。意識も乱れる。
ふふ、と意味もなく笑みがもれた。こんなことなら大人しくソフトドリンクを飲んでいれば良かった。
「風矢さん」
何度目か分からぬ自嘲とともにそう思った時、彼は聞きなれた声を聞いた。
「大丈夫ですか?」
だるさからうつむけていた顔を上げると、そこにあるのは、予想通り。
「…小町さん」
呟く間にも、とてとてと歩み寄って来る小町。誰にも抜けたことなど言っていないから、姿が見えないことに気付いてくれたということなのだろう。その手に握られているのは、恐らく水の入ったグラス。
いつもは読みづらいその表情に心配そうな色をにじませる彼女を、風矢はぼうっと眺める。
そう、ぼうっと。酒の回ってきた頭は、ひどく緩慢に動く。
「お酒は強くないとおっしゃっていませんでしたか」
「…それは」
そうですけど。
もごもごと言う風矢のその向かい側、赤みを帯びた顔を顔を覗き込むように小町はすとんと腰を下ろす。
そのまま、そっとグラスを差し出してくる。
風矢はそれを受け取り、ぐいと一気に煽ると、コトン、と廊下に空のグラスを置く。
そして。
「…それは、君が」
「なにとおっしゃられましたか?」
もごもごと、低く呟かれた言葉は、その意味を聞き取りづらい。
不思議そうに訊き返す小町は、ほんの少し身を乗り出した。
「それは、君が、楽しそうだから」
以前として低く呟かれた、聞き取りにくい言葉。
それでも、今度は聞き逃すことなどなかった。
ぎゅうと抱き込まれ、耳元で呟かれれば、聞き逃しようがない。
「楽しそうだと混ざりたいんですよ?」
顔をぽっと赤くした小町に構わず、彼は続ける。口をはさむ隙を与えぬまま。
「妬けるんですよ? 君が楽しそうなのはいいですけどね? 妬けるんですよ? 本当に…」
ぶつぶつと呟く唇が、軽く耳を食む。
ひゃあ、と上がる声に、呟きに笑声が混じった。
「ふ、風矢さん?」
ぐい、とその体を押し返しながら、小町は言った。
「酔っているのならお休みになった方が」
良いですよ、と続けるはずだった声が途切れる。
それを紡ぐ唇が、きっちりふさがれているのだから。
「……喉、乾いた」
思い切り押し付けていた唇を放して、風矢は呟く。そして、目の前の濡れた唇を軽く舐める。
「あの、では、お水のおかわりを」
混乱やら何やらで上ずった声は、再び途切れる。
つい先ほどと同じ理由で、ぶつりと途切れる。
「…喉、乾いた」
ささやかな水分を得るだけ得て繰り返す風矢の目は、焦点が合っていない。心おきなく酔っ払いだ。そして彼は、人の話を聞かないタイプの酔っ払いだった。
だから。赤い顔をした小町は、その体を押し返そうとした。
押し返そうとして、そうして。
シャツを握っていた手が、ぼすん、と緑色の毛に埋まった。
「え?」
と、小さく呟くのと。
龍形態に戻った彼が、くらりと傾いで、彼女の肩にその体を預けるのは同時。
長い毛に覆われた細身の体から聞こえるのは、健やかな寝息。
それでも彼女の身体から身を放さない辺り、色々本能に忠実な風龍だった。
小町は黙ってぽすん、とその背中をなでてみる。
全身を覆うそれは、彼の髪と同じ手触りで、手のひらを押し返す。…少し、面白い。
すやすやと気持ちよさそうな寝息は、途切れることなく続く。
その夜、長い毛で遊ぶ姿は、誰に見つかることもなく、しばらく続いた。
ごめんなさい。むしゃくしゃしてやった。既に後悔している。
酔っ払い風矢がいちゃいちゃいちゃいちゃからむネタがなぜか降臨しました。いや、小町さんお酒そこそこ、ってじゃあ風矢の方が早くつぶれるだろうなあ、美味しいなあと思ったらつい。…ええと、本当すみませんでした山も落ちもなくて。
ちなみに以前酔いどれ話を書いた時、彼はとっても陽気だったのですが。今回微妙に鬱々としてんのは元々機嫌悪かった所為です。でもある意味とっても陽気です。
…ああ、それと。彼、酔うと良く覚えてないんですよ、その時のことを。だから…
―――カフェで酒盛りに参加した。
気付いたら、部屋のベッドの中だった。
そこまで運んできてくれたのは、ベムだったそうだけど。
そもそも、酔って眠りこけてるとこを、解放してくれたのは、今少し先を歩いている彼女だと聞いた。だから。
「小町さん」
声をかけてみた。
すると、彼女は足を止めふり返る。そしてこちらを認めるなり―――ぽっと赤くなった。
「こ、小町さん? 僕、なにかしました!?」
まだなにもしてませんよ、今日は!
やっぱりなんかあったんですか、昨日!?
昨夜のことを聞いても、主は知らないの一点張り。
他の参加者にあれこれ聞くのは、なにやら怖い。
けれど、気にはなるから、と当事者に聞いてみたのだが。
「風矢さん」
「はい」
「覚えていらっしゃらないのですか?」
「す、すみません」
赤くなって黙りこむ顔が、とても気まずい。
本当、なにをしたんだ、昨日の僕。
こんな顔をさせるようなことを……―――覚えてないのか。惜しいなぁ。…じゃなくて!
「風矢さん」
「はい」
「龍のお姿だとより魅力的でした。」(←アホ毛が)
「…はい?」(←みょんみょんされても起きなかった)
―――みたいなことがあるんだと思います。
落ちがつかないんで、もう終わっときますけどね!