それは、とある日のことだった。
とある日のドラゴンカフェで。少し珍しいことに126番地と123番地の主のみで飲み会を開催し(人がこなかったのである)。
戦闘系の義務として最後のポテチをめぐり殴り合い、酔っ払い同士のこぶしがいい感じに頬に決まりあい。ネタ要因二人の宿命として、お互い同時に意識を失った。
そう、すべては少し珍しい、けれども当然の成り行きが重なった結果。
伸びた主人Pをひきずっていくのができた水竜であることも、伸びた主人Kをおんぶしていくのが光竜であることも、当然。
光竜が主のそばにおいてあった変な色のジュースを飲んでしまったのはうっかり。
案外おいしかったせいで、隣にいた恋人に進めてしまったのもうっかり。
彼女が飲んでしまったのも、やはりうっかり。
そのビンが太陽印の変なお薬だったことも、きっと誰かのうっかりである。
性別逆転メマチ 〜根深いコンプレックスを添えて〜
「…言いたいことがあるなら言えよ」
「いや、別に…。……違う、ある。そんなに睨まなくてもいいじゃない。メーちゃん…」
「ちゃん言うなよ」
「メー子…」
「子言うなよ」
「じゃあ君の性別が変わってもメー君のままでいいの?」
「この後も戻らないように言うなよ! いやだよ!」
素直な心を叫んでみれば、かなたはあいまいに笑いやがった。
笑っていいところかなー。でも本人が嫌がってるしなー。でも笑うしかないしなー。…といわんばかりに。
ちなみに緋那も同じ反応をした。ベムも。風矢は「拾い食いなんてするから」と鼻で笑った。ケンカを売る前に、小町に会いに行った。…変な薬で女になったくらいで、やることは変わらないんだな。我ながら。
思わずうつむき、ため息をつく。その声は高いし重くなった胸が目に入るし、余計に落ち込んだ。でも。
「戻るっっていってたんだろ、太陽は…」
「飽きれば、って言ってたね…」
「俺は飽きたよ。5秒で飽きた」
「そりゃあ、君は飽きただろうけど」
ドン、と居間のトビラが開いた。
なんかもういつもより何割か増しで元気に開いた。
「メー君、次はこれ着て♥」
いつもより高い位置から、いつもより低い声で。
要はこっちも性別が逆になっているというのに、それでもみたいな笑顔で、磨智はものすごく楽しそうにフリフリを見せてきた。
…飽きるってなんだ。誰が、どう飽きればいいんだ。磨智が飽きればだったらどうしよう。
色々な意味で目頭を押さえる。かなたは入れ違いに部屋を出て行った。
かなたが出て行った後のことは、なんというか。思い出したくない。つらい。
とりあえず今の格好がボタンたっぷりフリルたっぷりのかわいらしい服であることが、すべてを物語っていると思う。
そしてこの服の前のボタンが止まらなくなった時、磨智の動きも止まった。
こう、胸元を凝視し、動かなくなった。
「ま、磨智?」
飽きてくれたのだろうか。
声をかけ、肩をたたく。
ぐわしと胸をわしづかまれた。
…何事だろう。これは。
「…私よりおっきい」
それはそんな地獄の底から響くような声で言わなきゃいけないことなのか。と。
聞きたい気がしたが、聞けなかった。
というか、無言でわっしわっしわっしわっしもんでくる磨智が、怖い。
身の危険ではない。なんか純粋に、気迫がやばい。
なんかこう、胸とれそう。とれてもいいんだが。それはそれとして、なにかしゃべってほしい。
「理不尽…!」
「今更だろ、そりゃ…」
「なんで大きいの…いつも胸板普通でしょ…? パッチーさんとか他の裸族に比べると小さいよね…?」
「お前あの人をそういう目で見てたのか……!?」
別に下ははいているから裸族じゃないと思う。
何よりも他に言い方はなかったのか。裸族はひどいだろう。あと水着の時の他の奴、とか、そういう比べ方があるだろう。確かに一番よく見る胸板かもしれないが。
「ともかくいつもは平均サイズがなんで女になったらこうなるの…!?」
「それをいうならお前の髪どこに行ったんだよって話だし…、こんなアホな薬に道理とか考えるほうがつかれねえか…?」
俺は疲れる。とても疲れる。今疲れている。
続けたのだが、返事は来ない。なんかすごい真剣にいもみ続けられる。から揚げにされそうな勢いにもまれている。
…くすぐったいし、ちょっと痛い。
……。……。
………磨智も触られるとそうだったのだろうか。……………その、…………気持ちよさそうにしているのは、気を遣った演技だったのか。俺が触るから。気を遣ってくれていたのだろうか。
…いや。どこを触られるといいかは性別とか関係なく人それぞれだからだろうか。性別関係なく俺の胸にはそういうツボではないという話だろうか。それとも、やっぱり俺がやたら触るから気を遣ってくれたんだろうか。……俺が触るのは磨智がその、もみようが足りないとか謎の文句をつけてくるからだが。いや、それがなくても触るけど。あと触っているとその、あの………柔らかくて幸せでは、あるが。いや。それをいうならほかのところも柔らかいので別に、どうしてもというわけではないんだが……!
…というよりは、もっとシンプルに。
こんなに真剣な、というか、深刻な顔でもんだことはないだろうか。
なんかこう、めちゃくちゃガン見しつつなんか憎らしそうにもみまくったことはない。正直そろそろ痛い。痛いんだけど口にできないくらい真剣だ。なんなんだ。
「…なあ、磨智」
「うん」
「その……いつまでやってるんだ」
「……、気が済むまで?」
「まだ気が済まないのか!?」
もう15分くらい真剣にもんでいるんだが。
なにがお前をそうさせるんだ。本当なんなんだ。
「…磨智」
「…ずるい」
そんなに悲しいんだかなんなんだかよくわからない顔するなら、ともかくやめろ。
そう口にするより、磨智の叫びが早かった。
「メー君ばっかりメー君ばっかりメー君なんて男の子なのに!」
「いやそんなん言われても…」
「男に色気で負けた私はどうすればいいの!? 気合!? 確かに私たちの見た目―――ヒトに化けるときの見た目はある程度気合でどうにかできなくもないよ!? でも、体型は…体型はどうにもならない……!」
「え、いや。その。あの。えーと……。間違っても負けてはないだろ…?」
「だって! おっぱいが! 触るとむっちりしてる!」
「むっちりって…」
「ほら赤くなる! メー君もむっちりのほうがいいんだ…」
「いや俺は……、お前がいいわけだし……」
「じゃあむっちりな私とぺったりな私いたらどっち選ぶの!?」
「あー……そりゃあお前が好きなほうのお前を…」
「そういうお行儀いいのいらないから今! どっちがいいの!?」
「なんでお前は体型のことに関してはそうしつこいんだ!」
さすがにイライラしたので叫んでみた。
叫ぶと、磨智の目にじわりと涙がにじんだ。
……。
たとえ女であろうと。男の顔をかわいいと思う趣味がなかろうと。
やっぱり磨智は磨智で、そんな顔をしてほしくはない。むしろ、いつもより距離が開いていない分心が痛い。
そう、男の平均より多少は高い俺と、小柄な磨智の性別が入れ替わると、顔の距離がほぼ同じ。ほかにもいろいろと違うけれど…声と表情は、やっぱり磨智だ。
…とはいえ、普段からコイツを喜ばせる言葉はうまくでてこない。この状況だと余計に出てこない。それでも、伝えることがあるならば…
「…お前の…その、…む、胸に、不満を抱いたことがないんだから。その、いつものが…いい」
「もっとはっきり言って!」
「これ以上か!?」
「貧乳がいいって言って!」
「…ひ、貧乳がいい」
「貧乳って言わないで!」
「いつもいってないだろ! お前が言わせたんだろ!?」
俺は本気でデカくても小さくてもいいのに、お前が気にするから! 胸のサイズの話は本当どんな状況でもしないんだぞ! 狭い町だし!
「…ほんとに嫌じゃない? ホントのホント?」
「な、なあ。俺さ、知らないうちにでかいほうがいいとか言ったのか…? だからここまで気にするのか…?」
だとしたら俺が悪いから、もう気が済むまで貧乳がいいと叫ぶが。そんな覚えはない。自信がある。俺が、こいつに体型のことなんて言えるはずがない。照れくさくて死ぬ。
肩に置いていた手に力を籠める。その力が明らかにいつもより小さいのが歯がゆいような気もした。
「…マスターが…おっきいから」
「……。……いや。かなたの胸がでかかろうが小さかろうがすっげえどうでもいいんだけど…」
「私は気になるの…」
緋那はいいのか。とはさすがに言わない。
さすがにそこまでではない。
…というか、それを引き合いに出されてしまうと。どうしよもないほどに困る。
こういう時はどういえばいいのだろうか。わからない。わかったらこんなことになっていない。ついでにまだ胸をもまれてもいない。たぶん。
「……何を言われても、その。……ほ、惚れた女はお前だけだし、……体型に関しても…お前がいいとしか……」
「ロリコンって言われても?」
「ああ」
「巨乳美人が押し倒してきても?」
「ああ」
「私が巨乳になっても?」
「…磨智がいい」
なんかもうどんどん訳が分からなくなってくる言葉に、とりあえず確実な事実を返す。
うまい言葉だとは思えないが、磨智の目の端から涙がひく。
うっすらと笑ってくれたから、たぶんにいのだろう。
「そう…………。じゃあ、それはそれとして、さすがに君には着せられないと思って封印したシリーズを」
「着ないからな!?」
いくらかわいく笑われても、それは嫌だよ。
俺に水着みたいなもん着せて、いったい何が楽しいのか。
わからないけれど、磨智が笑った。
…そして、この後。女のリーチで磨智から逃げるのは、いつもよりものすごく大変だったとはよくわかった。
結局飛ばないと地竜の足にはかなわないあたりは、いつもと同じだった。
ふっと思いついた便乗ネタ。どうあいがいても磨智に弱いメー君の話。
磨智の体型コンプレックスは学パロでは存在しません。つまりそういうことです。マスターに「色気で負けていると思われがち」な点があるのが嫌。そんなこと言われてもメーは磨智以外みていないからどうしよもないという、ただそれだけのお話です。
ちなみに珍しくそういうことやっている全体のメマチです。現行ではとっくにやっているよ。実は。