7日間のうちに2、3日。広場に気まぐれに出店する屋台がある。
 そこのクレープはもっちり甘く、つまったクリームは甘さの割に口どけさわやか。
 要はとてもおいしい。
 だから遭遇できた喜びで10本買い込んだ僕は別に奇異の目線を受けるいわれはない。
 5本は同居人へのお土産なんだから、まったくおかしくないでしょう。

ろくにん暮らし その6

 夕飯の買い物をしに来ただけなんだけど、いいものを買った。
 広場のベンチに座ってさっそく一本食べつつ、しみじみする。いいな、キャラメルクリームって。砕いたナッツも心憎い。僕も作ろう。頑張ればいける。いけるはず。
 …後買ってないのはキャベツとカブだったな。ついでに生クリームも買っていくか。後はちみつ。この生地にははちみつの気配もする…けど無理だな。僕の所持金を超える。とってくるならそれなりに探さなきゃないしな。
 やはり主人の探索についていってついでにあれやこれやと拾って売る――だと、中々所得が増えない。
 変に引きがいいどっかの馬鹿とか結構ため込んでいるみたいだけど、僕はなにか売ったりしてみようかな。ならなおさら作らないと。クレープを。
 一人頷いて、ベンチを立つ。まずは頼まれた八百屋を目指さないと、後々怖いですからね。緋那さんが。

 そうして、八百屋を目指して歩くうち、見覚えのない屋台を見つけた。
 周りから話を聞くと、最近たまにでるようになったという屋台。つまりまだまだレアもの。レアものはよいものだという。最近トレジャーハンターになった主が一生懸命言っている。
 つまり今の僕は主の言うことをよく聞くよい従者。
 別に自分の煩悩に負けてはいない。ふわふわと漂うワッフルの香りがたまらなかったとか、そんなことはない。
 今食べているだって、焼きたてが一番おいしいためだ。不可抗力。
 ぱたんと折ってクリームを詰めるタイプをまずは一つ食べているが、これはいい。
 先ほどのクレープと似たようなものだろうと言われそうだが、割と違う。
 生クリーム、だけじゃないな。チーズのようなものが入っている。さらにクリームにジャムが入ってる。ベリー的な。…甘味と酸味がたまらないな。
 いいものを食べた。帰りに土産を買っていこうかな。…さすがに軍資金が心もとないな。
 ほんの少し苦い気持ちを抱えて、最後の一口を放る。く。名残惜しい。
 だが我慢だ。この通りにはアイスの屋台も出ている。その日の朝の作り立てを提供するそこのアイスはとてもおいしい。季節のフルーツをいい感じにブレンドしたオリジナルが最高だ。儚い口どけは芸術の域。
 小さな店で謎のご老人が営んでいる団子屋もいい。こんがり焦げ目がほの苦いが、その上にかかる胡麻餡は絶品。炒られた後に丁寧に潰されたゴマは、香ばしくもしっかりと甘い。その上からまぶされたゴマは、ぷちぷちとした触感が楽しい。
 人気のパン屋にあるチョココロネも忘れるわけにはいかない。たっぷり詰まったチョコは、下手をすればくどいようなものなのに。けれどカカオ本来の苦味と酸味が甘味と調和してやっぱりたまらない。甘いモノばかりではいけないというやつですね。
 それと饅頭。運が良ければ焼きたてがあるあのお店。あそこの餡子もおいしいんですよね。するっと口どけがよくて。薄い皮に限界まで餡子がつまって。その日運が良ければ栗の渋皮煮まで入っているお茶目なところも含めて素晴らしい。
 あとゼリーもいいですよね。甘さ控えめあっさりのゼリーにともかく甘い砂糖漬けが収まっているアレ。おいしい。
 最近似たようなものとして杏仁豆腐なるもの食べましたが、おいしかった。少し癖のあるものの、それを補ってあまりある甘さ。するっといくらでも入っていきそうな滑らかさ。魔性の食べ物だ。
 ああ、そしてなによりもカステラ。111番地のカステラ。あれは買い出しの内容にも含まれている。食べたい食べたい食べたいと主人が訴えたから。これは買わなきゃいけませんね。仕方有りませんね。ああ今目指している八百屋と結構道違うんですがね。仕方ない。そこによるついでに今思い浮かべたのいくつか食べても、仕方ないですね。
 本当に、まったく、仕方ないですよね。
 自然と軽くなった足で八百屋に急ぐ。
 …契約して、人と暮らして。体を得てよかったなと思うのは、わりとこんな時だ。


 そんなこんなで買い出しを終えて、クレープを配る。
 主と馬鹿は出かけてて、緋那さんと磨智さんにしか配れなかったが。
 けれどもう一人庭で作業中なのがいると聞いたので、渡しに来た。
 そう甘いモノを好まない彼には、コーヒーの風味が利いたクリーム入りを買ってきた。
 ほんの少し塩気のあるクッキーを包みこむそのクリームはとてもおいしいと、自分で確かめている。自信がある。
「ということで、期待して食べてください」
「君の部屋がすごく殺風景なのは。甘いモノにお金つぎ込んでいるせいだよね」
 ぎこきこ動かしていたのこぎりを止めて、感心したようなあきれたような声で、ベム。
 …反論はしない。
 龍ですから。野生の心を忘れぬために、常に厳しい環境に自分を置いているんですよ。とか下手な言い訳しかできないし。
 ならば沈黙は金だ。黙って笑っていれば、思い出したようにありがとう、と言われた。
「固くなると悲しいので、早めに食べるのをお勧めしますよ」
「君が言うならそうなんだろうね。…休憩しようかな」
 これまた自作の椅子に腰かけ、無造作に包みを開く。
 そのままがぶっと噛みついても、感動というものが見えない様子だ。…鈍感な奴だな。
 鈍感。鈍感と言えば、ね。
 また何を作ってるのか、こいつ。
 材料を見る限り、結構な大きさだよな。
 ちっとも報われる気配がないのに、物好きだ。喜ばれていないと気付いていない―――…わけでも、ない、だろうけど。色々聞く限り。
「変な顔してどうしたの。これも食べたいなら下の方ちぎる?」
「そんなことしたらクリーム漏れ放題でしょう。もっと大事に食べてくださいよ」
「そういえばそうだね。でも。随分と嫌そうな顔をしてたから」
「別に何かを嫌がってたわけじゃないですよ。分らないなと思っただけです」
 なんとなく笑って、正直な感想を言っておく。
 物好きな馬鹿だなという本音中の本音は、言わないでおくけど。
 とはいえ、そんなことを言っても気にしないだろうベムは、淡々と言う。
「無駄な努力を重ねることが?」
「無駄だと思ってるんですか?」
「現時点では。でも。変わるかもしれないし」
「…かもしれない、でここまでやりますか。今度は何造ってるんですか」
「簡単なテーブル。持ち運べるくらい小さく。草むしってる時、何か飲めるといいだろう」
「…そういう気遣いはできるのになんでこう残念なんですかね、君」
「残念言うな。ちょっとへこむ」
 全然そうは見えないけれど、そう言うならこれ以上は言わない。
 こいつとはその程度の友好を気づいているつもりである。
 …わけわからない奴だが。なんとなく気には障らないし、ここまで空回りしてると、一周してどうにかしたい気がするよな…別になにもしないけど。
 龍の恋路に口をはさむなんて、厄介だ。
 うちのマスターはそういったことに口挟む気配はないし、ドラテンをそうやりまくる方ではない。だから時間はあるだろう、そこそこ。
 ああ。でも。こうして落ち込んだ風な顔しているの見ると、やっぱり思うな。
「…馬鹿な竜ですね、君は」
「僕は馬鹿だろうけど。君は別方向に馬鹿だよ」
 あっさり言い切ったベムは、再びクレープを一口。
 おいしいものを食べているだろに幸せ感じてなさそうな顔には、反感を覚えるが。
 別方向、と言われれば、認めないわけにもいかない。
 確かに僕はある種の馬鹿だし、自覚があるけど直す気はないあたりは、共通点でさえあるんだろうな。…うんざりする。
 気を取り直して、自分用に買ってきたクレープをかじる。
 先ほどより乾いてしまった生地は、それでもチョコレートをたっぷりと包んでおいしかった。

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