命をかけるに値するものはなんだろう。
考えてもわからない。わかるはずもない。
ましてや他人ならなおさら。
…なおさら、なんだけどな。
幕間
憂鬱な気持ちで息をつく。
思い出すのは、つい先日であった―――そのまま契約を結んだ炎龍のこと。
いやまったく。基本的に龍屋からばっかり連れてきている私が、珍しい。
…まあ、んなことはどうでもいいんだけどさあ。
寝入る前になんでこんなに哲学的なこと考えてるかっていうとアレである。ベムである。
つい先日契約した龍ことベムである。
――――愛してます。ずっと一緒にいてください。
そんな第一声とともに緋那の手をとったベム君のせいである。
…そんな情熱的な求婚の答えは馬鹿野郎だったのだけれども。今日も今日とて緋那に色々言ったり贈ったりして、とてもつれなくあしらわれてる。
あんな冷たい緋那を見たことない。
あ。いや。某黒い悪魔。某黒い台所の悪魔に比べたら、冷たい態度じゃないな!逆にあれのしか下がいないのか! 前途多難だね!
そんな前途多難なのに、全然めげたところがないし!
お前その一瞬でどんだけ運命感じてどんだけ命投げ出したのよっていう話だ。
まったくもって、気がしれない。
気がしれないったらない。
私にはあんな風に命をかけるに値するものがあるだろうか―――なんて、考えるまでもないし。
命を懸けたと思える一瞬は、思いおこせば一度だけあるけれど、それはあんな風ではない。
行き詰って迷いに迷って、やけくそで海に出たあの時と、彼の決意は違うだろう。
だから何だという話だけれど、返す返すも気が重い。
彼のことが何もわからない割に、契約がやたらと重くなった。
私に求めることはないか、と。彼に尋ねた。
そんなものはないと首を振った彼は、それでもでも、と声を上げた。
『マスター。僕は、彼女以外は選ばない』
『…もしも彼女が君を選ばなかったら?』
当然のことを尋ねたはずが、彼の表情が変わった。
それまでぼうっとしていた顔に、わかりやすい色がにじんだ。
彼はきょとりと目を瞠って、本当に意外そうな顔をして。
『ああ。そうか。契約すれば死ぬのにもマスターの許可はいるか』
そんなことを、小さくつぶやいて。
『その時は、主人のが好きなように引導を渡していい』
―――いやまったく。本当に。
そんな、暗に殺せと言われて、どうしろと。
間違っても緋那に聞かせなかったことだけはまあ、ちょっとは評価してやるけれども。
重いだろうよ、そんなもん。
苛々するけれど、どこかむなしい。
それは、その感情が。何も持たない身には、嫉妬すら覚える情熱だから。
だからなのだろうと、もう一度ため息がもれた。