目を閉じてつぶやく。胸の中だけで、何も見ないままに。
 ああこの手にはなにもない。
 つらい過去も、幸福への展望も、なにも。
 なにもないから、真っ暗で。
 まるで夜みたいだと、口に出すことはしない。
 誰からも、なにからも。
 なにも得られないことを、私はもう知っているから。

幕間

 海から這い上がって、砂浜に座り込む。
 濡れた髪や衣服が不愉快で、不愉快だなんて感じることに驚く。
 おかしいな。
 私、死んだと思ったのに。

 でも死んでない。うん。状況を確認しないと。
 思い出そう、意識失うその前を。
 酔った勢いで海に出た。
 適当に作った船というか、ぼろぼろのものを買って(押しに負けて売りつけられたともいう)修理しただけだ。そりゃあ、難破する。
 難破すれば放り出される。
 放り出されれば溺れて死ぬ。
 溺れて、死んじゃうんだ、って悲しんだはずなのに。

 今私の目の前には、明らかに人の通った道がある。
 ここを抜ければ、なにかあるのかもしれない。町とか。あったかいものとか。
 凍えるような季節じゃなくても、水に浸かった身体は休息とかぬくもりとか要求しまくってるから。あるとうれしい。
 …っていうか。ないと。死ぬんじゃ、ないかな。いくら。なんでも。
 ―――ああもう! どうせ死んだ身、自棄だ自棄!
 道の先にいるのは善人とは限らないとか、人なんていないかもとか。路銀も流れてるとか。
 いろんなネガティブなものを吹き飛ばして、歩き出す。
 青く染めた髪が揺れて、ひ弱と酷評される肩が上下して。
 やけくそだけどまだ生きていると、笑えてくる。


 そうしてあっさりと新たな住処を得た私は、笑うどころか真顔で与えられた126番地とやらに向かって。
 そうして―――……

 

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