いつかどこかの世界の片隅。
 そう遠くない昔、
 適当に切った青い髪と、黄緑の瞳を持つ一人の少女がおりました。
 少女は、旅へ出ました。
 ほんの少しの好奇心と妙なプライド、臆病な冒険心をバックに入れて。
 そうして、旅を続け―――
 行き着いたある場所に、なんとなく住もうと決めました。
 そこは、既に様々な人が住み、様々な名がついていました。
 
「…じゃあ私はここをどう呼ぶべきかな」
 一人呟き、思考し、
「…まぁ、なんでもいいか」
 やたら気の抜けたことを呟き、 楽しげに、不安げに、笑いました。

はじまりのひ

 簡単な入国検査と手続きを経て、私のココでの住み家は126番地と決まった。
 …拝啓故郷のお父さんお母さんあああと面倒だなあ以下省略。私案外悪運が強いです。昔がどうであれ、やればできる子とか。あなた方の言葉を鼻で笑ってたけど本当に出来る子だったかもしれません。こんな恵まれた環境に流れ着くなんて。
 なんて、よくわからない現実逃避の文句が浮かぶくらい、この朝の生まれた場所という町は―――…
「…変なの」
 こんなぽんと家と職を与えるなんて、どんだけ景気のよい町なのか。
 書いてもらった地図を片手に、首をひねるしかない。  ここまでいくとなんかもういっそ油断させといて家についたらなんかやばい人が待ち構えてるんじゃないだろうか人買いのとか、なんて思うけど。
 ここはそういったこととは無縁らしい。…噂では聞いたし、町中に溢れるどう見ても人外な皆様を見ていると納得せざるを得ない。
 旅の末に辿りついたこの町は、変な町だった。
 なにが変と言われても困る。ともかく変だ。とても変だ。
 さっき言ったとおり、簡単な手続きだけで衣食住、さらには職業が保証される。私は子供だっつーのに、家をくれると。ついでに、身分を明かせとも言われなかった。ここに来る前前、荷物、殆ど海に流れちゃったから。見せるにみせれないけどさ。
 …ああまったく。水に流してしまいたい(物理)な日記は残っているというのに、いいもん全部流れたよ。畜生だよ。うふふ、缶に入れて持ち歩いてたおかげでね。ばっちり読めるしこの日記。
 …いやまあ。それはいい。
 それにしても、本当に噂通りだ。非常にいろんな人がいる。事実、可愛らしい耳の生えた獣人とか、なんかよく分からないけど箱に入って行動してる人とか、エルフっぽい耳の人とかとすれ違うことは多い。油断していると、不躾な目線で見てしまいそうだ。
 それだけでも驚くのに、龍という生物もここにはいるらしい。…っていうか、本当にいたんだ、龍って。町で暮らす手引きを見る限り、本来精神世界に属する生き物らしいけれど…主人と契約を結び、ここ物質世界で生きているそうだ。
 こんなに希少価値の高い方の巣窟なら、色々と危ういものがよってきそうなのに…それはない。
 理由は単純。
 ここの住民は、強いのだ。洒落や比喩ではなく、一騎当千のツワモノぞろい。それも、戦闘系を名乗り戦闘を仕事とするものだけだと思ったら大間違い。
 可愛らしいウェトレスのもってる包丁に血がついてたり、談笑してる教皇さんの持ってる聖書が赤黒いシミがついてたりする。
 だから、ここは平和らしい。そういうところなんだよと、噂とある人から聞いている。…なんだか、まだピンとこないけど。
 ああ、変わっていることはもう一つあった。忘れていたけど、これが一番信じがたい。
 ここには、蘇生というものが至極あっさりと雀の涙的な驚き価格で行われているのだ。
 ここでは、そりゃあもう簡単に人が生き返る。奇跡が大安売りだ。
 あ。でもて手引きに書いてるな。一応制限はあって、自殺と老衰と病死は対象とならない、かあ。…自然の流れはそれなりに重んじているんだね。
 そもそもなんでそんな蘇生の必要なあるんだ、という疑問もあるのだが、それもこの町独特の文化に関係しているようだ。
 強盗殺人は罪ではない。人を殺すことは罪ではない。そんな町。これだけ聞いてると、すげえ無法地帯化と思うのだけど。以前やっぱり噂で聞いた限りでは、礼儀と節度は大切な町らしいけど。
「…変、だよなあ…」
 けど、私は、そんな変な町で暮らすことにした。
「…変だけど…」
 ここでなら―――見つかる気がしたから。

 私は足をとめ、空を見上げる。
 異名の一つである、朝の生まれる場所の名に相応しい、綺麗な空。
 ―――ここでなら、見つけることができるだろうか。こんな私が生きる意義。
 否、見つけることなんてできなくとも―――見つける努力をしたいのだ。
「…よし」
 己に喝をいれ、足を進める。
 ひとまずの目的地は、新しい我が家である。



 いつかどこかの世界の片隅。
 そこは朝の生まれた場所。
 一人の少女は歩いていく。

 ヒトと龍とが共存する不思議な街の片隅の、一つ屋根の下。
 そこで始まるなにかのために、歩いていた。

 

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