「…買いすぎたから一緒に食べて?」
「一週間前のチョコを?」
「チョコの賞味期限なんてね。お砂糖たくさんはいっているからきっと長いよ。オイシイヨ」
「そこで目をそらされてもなあ」
「……買いすぎちゃったけど。賞味期限きれたのなんて渡さないよ。
ホントに買いすぎて困ったの。一緒に食べてよ」
「…そうか。いいよ」
「ちゃんとおいしそうなの選んだよ。…ほらバレンタインだったじゃない。それってことにしよう」
「それってことって。扱い雑だよな」
「なによ。元値は高かったんだよ」
「はいはい」
「感謝してよね」
「はいはいはい」
あえて言おう。
たぶん楽園での出来事だと……
Melty Faceの友紀ちゃんの彼氏が彼だったかはぼたんさんのみぞ知る。
…が私は例のハンドアウトを見た時「うわ伊織君死んだ気がするよ」と思ってた。私はただ。伊織君別世界で彼女作りまくって(逢魔人的な意味で)るらしいので彼女にも別のおとこを作ろうかと思っただけなのに。なんであんな…死んだの伊織君だとおいしいなというような事態になったんだ…
「一緒に死のう」
どこからか響くその声に、慣れ親しんだ声に、まったく慣れ親しまないなにかがにじんで。
時の止まった世界で、心臓までが止まったかと思った。
「初期化される私はともかく、伊織は死ななくても…」
「戦争に使おうと思ったわけじゃないんでしょ!」
「伊織頭いいんでしょ!? じゃあ頑張ればいいじゃない! 待ってるから! 初期化されても待ってるから!」
「なんでやる前からあきらめるの!」
たくさん言葉をつくした。
泣いてしまいそうだけど我慢した。
でも、幼馴染の決心は固かった。
―――違うのかもしれない。
幼馴染の心のどこかは、とっくの昔に、固さなんてなんにもないくらいに。脆く崩れてしまっていたのかも。
私が知らなかっただけで、もうとっくに手詰まり。とっくにチェックメイトというやつ。
「…伊織はもう再建のために頑張るつもりはないんだね?」
「うん、そうだね。僕はこの世界を作った罪人さ」
ああ。それに。積んでいるというのなら。行き詰っているというのなら。
私だって、そうなのかも。
なにかして、冷凍刑になったりしてるのかな。私も。
なにか罪をおかしているのかも、私も。
……それなら。
それなら―――どうせ伊織と一緒にいられないなら。伊織の覚えてくれてるままに、死ぬのも、いいのかな。
本当はとても、嫌だけど。
伊織が死ぬのは、嫌だけど。
しかたないなあ。外に出たのは伊織だ。…私のために痛い思いをしてくれたのは伊織だ。まったく、確認のためにつねった時は怒ったのに。男の子でしょ我慢しようよって言ったら怒ったのに。ああいう時だけ、女の子に危ないことはさせられないとかいうんだから。…私だって伊織殴るの嫌だったのに、本当に。ずるいなあ。
でも、守ろうとしてくれたのも、女の子扱いも嬉しかったし。じゃあこれは、しかたないことなのかな。
伊織が一人で死んじゃうよりは、いいのかな。
好きだと言ってくれたのが、こんなに今更で土壇場で。それを許す気はないけど。
それ以外は許すよ。
私は初期化されても、また仲良くなれると思っていたけど。探すつもりだったけど。
「大体、好きとか…いうのが遅いって話だよ!? 私は言うタイミングとか色々考えてたのに! 今言う!? 本当に申しわけなく思ってる!?」
「それは申しわけなく思ってるけど! 僕はそんな暇もなく逮捕されたんだよ!」
……じゃあ、いいか。
うん。顔見えないけど。それなら、いいよ。
だって、私は。ずっとずっと、待ってたんだよ。
覚えてないけど、きっと待ってたんだよ。
理由はわからないけど、冷凍刑になって喜んだかもしれないくらいに。
ずっとずっと、待っていたから。
だから、もう。いっか。
ああ、そうだな。折角前向きなところが好きだったなんて言われたことだし。
一個前向きに、信じようかな。
どうか。死んで、その先があるなら。
大好きなこの人が、自分が罪人なんて言わなくてもすみますように。
天国とか、地獄とかがあるなら。死後の世界が安らかでありますように。
…どうか。この先が、次が。あるなら。
今度も一緒に、いれますように。
薄れていく意識で、それでも祈ってみた。
死んじゃえば消えていくだけなことくらい分かるけど、祈ってみた。
前向きに―――…好きといってもらえた私のままであるために。最後に、祈ってみた。
思いだし楽園。色々うろ覚え。「戻ってこないなら仕方ないかぁ。本当仕方ないなー」というお話。私は性癖だけど友紀ちゃんは悲しかったっぽいよ! 伊織君が死ぬことが。
半分カレーうどんの話しているような女で本当にいいのか。可愛いの寝てる時だけなんじゃね?と思っていた懐かしい思い出です。
息が苦しい。死んでしまいそうだ。死んでしまうのだろう。わかってる。
でも私は、約束したのに。一方的で、きっと届いていないけど。約束したんだよ、伊織。
私は、だから、ねえ。
……だから。
幼馴染が投獄されたと聞いたのは、病院の中だった。
その原因を知ったのも、病院の中。
痛んだ身体で、できることなどなにもない。声の一つもかけれなかった。
ごほ、とせき込むたびに、胸が痛い。否、全身の骨がきしむ。
骨以外のなにもかもも、きしんで痛む。
だって、伊織は。なにもしていないじゃない。
なにか、悪いことをしたのだと聞いた。なにか、悪いものを作ったのだと聞いた。…詳しいことは、分からないけど。
でも、悪いことは、してないじゃない。
あの人は割と根性ないんだし、変に思い詰めるし、本当―――本当、仕方ない人で、それだけなのに。
「……だから悪くないんだよ、伊織」
それだけだから、そういってあげないと。
「悪くないんだよ…」
そういってあげなきゃ。そのために待っていなきゃ。
待っているって―――約束したんだ。
伊織はそんなの、全然知らないだろうけど。届きはしなかっただろうけど。
一方的に約束したから、だから。だから……!
だから、何をしても待っているんだ。
どんな手段をとったとしても、待っていなきゃ。
ずっとずっと待っているから―――だから。
諦めないで、帰ってきてよ。
ごほり、と再度咳が落ちる。
痛む全身が、じわじわと涙を生み出させた。
考えてみればハンドアウト開いていないからゆきちゃん不死の病じゃないのか。まあいいや。書いてみたかったから書いた。
彼女が妙に前向きなのかみ合っちゃったじゃんハンドアウトに!となんか感動したので、つい。
「私はね、思うんだ。最後まで諦めなきゃ、道は開くって……」
「諦めてないんなら手を動かしたら?」
「…人がちょっと現実逃避してるだけなのに! 伊織のいじわる! 馬鹿!」
「提出期限5時なんだろ、がんばれー」
「手伝ってよ! から揚げ食べてないで!」
「手伝えることないだろ」
「そこをなんとか!」
「どういうなんとなかな…?」
ため息をつく幼なじみに、自然と目線がとがる。なに、その仕方ないなーみたいな顔。
だってレポート終わらないんだもん。弱音の一つや二つやみっつやたくさんくらい聞いてくれてもいいと思う。それが甲斐性だ。たぶん。
……ああ。でも。そんなことより。
「……伊織のばーか。ばーか。ばーか…」
女の自室に二人っきりで、ここまで色気が出ないってどういうことよ。
今日もいい損ねた言葉の代わりに、適当な悪態をつく。
「はいはい。わかったわかった」
…たぶん、私が、今日もあの言葉を言い損ねるのは。
どうでもいいようなその会話に、いちいち答えてくれる顔が、今日も穏やかだからだろう。うん。
しかし伊織君は彼女が幼なじみだと色々苦労したんじゃないだろうかと笑えます。きっとこんな日々もあった。
現実でか楽園での出来事かは知らないけれど。
目が覚めて、学校に行く。学食に一人座って、からあげ定食の前で手を合わせる。
手を合わせて、そうしていると、向かいの椅子が引かれた。
椅子に座ったのは、見知った顔。よくよく見慣れた幼馴染。
―――なのに。
一瞬。ひどく。戸惑った。
「友紀? どうかしたの?」
「……え、あ……うん……」
伊織は怪訝な顔をして問いかけてくる。
その顔を、私は知っている。よく知っている。見慣れている―――はず、なのに。
「……伊織」
なぜか、呼びかける声がひどく震えた。
―――……なぜか。違和感など、すぐに忘れた。
「…今思えばそういうことだったのかな」
一人残された学食で、ぼんやりとそんなことを思う。
いや。一人じゃないけど。石動君いるけど。プログラムだと暴露されて以来、色々とアレだし、なんか、ねえ。
ていうか本当―――色々と、なんか、だね。
世界から時が消えた。
幼馴染を痛めつけるハメになった。
幼馴染はいなくなってしまった。現実世界に、帰ったのだと、いう。
ここは現実ではないのだという。
ここはもうすぐ消えるしかなくて、私は世界ごと初期化されるそう、だ。
…現実味がないな。
リアルな痛みとして迫ってくるのは、先ほど幼馴染を痛めつけた時の胸の痛みくらいだ。
現実味、ないよ。
作り物だとしても―――そんなもの作るんだから。きっと外は大変なことになっているんだろうけど。そんなの関係なく。
楽しかったし、一番いたい相手と、いれた。
初期化されたら……そういう気持ちも忘れてしまうのだろう、やはり。
それはとても怖くて、寂しくて。でも、大事な人は巻き込まれない。私のことを覚えていてくれるだろう、さすがに。
なら、それでもいいのだろう。
他に手がないなら、そこそこに最善だ。
伊織が覚えていてくれるのなら、きっと大丈夫だろう。一緒に初期化されるなら元通りに幼馴染になる自信があるし。彼が覚えたままなら、それはそれでいい。私が彼を見つけ出せれば、きっと。元通りになれるだろう。
あ、でも。その時は年の差がずいぶんあいちゃうな。それはちょっといただけない。いただけないけど……まあ。それでも。伊織がもう一回死んじゃうよりはいいかな。
うん、やっぱりまとめると。寂しくて辛いけど、それだけだ。問題は、そう大きくはない。
「……待ってるから」
ずっとずっと待っているから。
―――ずっとずっと、待っていたんだよ。
カタカタと震える腕を抑えて、深呼吸を一つ。
その時、なぜだろう。この世界のことしか、覚えてないのに。
自分の仕草が、とても懐かしい仕草な気がした。
根明な友紀ちゃんのお話。最後彼女は生きたかったけれど。初期化されても生きたかったけど(脳死になるとはわかっていなかったし)伊織がもう生きる気ないなら一人は嫌だなぁと最後そこそこ納得していたとは思います。選択の余地なかったしな!(笑)あとPLは萌えたので問題ない。
遅い!とは本気で思ってたけど。もっと早く言ってよ!と全力で憤ってはいましたが。でもまあ言ってくれたし守ろうとしてくれたし多めにみてあげるか、みたいな感じだったかと。幼馴染ロール楽しかったです。
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