ある日。
 弦本知克はファミリーレストランに足を踏み入れる。
 人でにぎわった、それなりに繁盛したファミレス。
 人に満たされ、喧騒に満たされ―――少々の話声なら、紛れる場所。
 そんな中、彼に向かい元気に手を振る人物がいる。
 既に注文した定食を元気に食べながら、にこにこと笑う少年だ。
「あー。パパー。おそーい」
「パパじゃない!」
 明るく笑う下津幸汰の向かい、強く叫んだ弦本は腰を下ろした。

「えー。だってほぼパパじゃん?」
「ほぼパパはパパじゃねえし俺はこさえてないし産んでもいねぇし作ってもねぇんだよ」
「あはは」
「……というより、君さ。…わざといっているだろう。明らかに」
「えー。そりゃパパの反応は面白いけどー。でもやっぱりパパはパパでしょ」
「だから。…いや。もう良い。キリがない」
 諦めたように言う弦本は、配膳された水を飲む。
 なぜかしょっぱい水を飲み込み、彼は呟く。
「……先日は。君も私も色々とあったわけだ。君へのあれこれは訴えれば勝てなくもないが、手間の方がかかるな。財産も……争えなくもないが、無意味だ。あの後調べた。あの家、大した財産残ってない。あのアホみたいな出来事がすべてだ…あの男はクソだった…うん。やっぱり顔作り変えた方が早いかな」
「うん。まあ、そうだよねぇ」
「なんなら君はあれだな…法より東山君に守ってもらった方が早いだろうな…君なら全力で守るだろ。俺は彼の眼鏡にかなわないみたいだが」
「あー。強かったね。あの人」
 顔に苦渋をにじませる弁護士に対して、高校生は相槌を打つ。明るく、いっそ淡々とした様で。なんでもないように言いきって、定食の最後の一口を飲み込んだ。
 それを見た弦本は、ふと眼差しを深くする。伊達眼鏡を外し、じっと目の前の少年を見つめる。
「……なあ。下津君?」
「なーに?」
「あの時も聞いたが…君、自主性はどこにあるんだ…君自身はどうしたいんだ…」
「えー。オレー? オレはね。楽しければいいよ?」
 真っ直ぐに言う顔に嘘はない。ついでにいえば、邪気もない。
 ―――だからこそ、なんだかうすら寒くなる。
 ぼんやりと浮かんだ言葉を飲み込み、弦本はそっとこめかみをもむ。
「…今時の若者め」
「弦本さんは…たまに発言が老けてるね」
「急にマジトーンになるのやめてくれ」
「我が侭だね、パパ」
「だからパパじゃ、…いやいい」
 もう、どうでもいい。短く告げた彼は、そのまま席を立ち、名刺を手渡す。
 遺伝子の上では息子に等しい少年に、嫌そうな顔で。
「今日は正式な連絡先渡しに来ただけだからね。
 …なにかあったら、というか。今後もっとなにかあるから。連絡しなさい。私も色々あるが…これも縁だ。やれること、してやるよ」
「ありがと。もらっとくね」
 受け取った名刺をひらひらと降って、下津は続ける。
「じゃ、そろそろオレも行こうかな。約束あるし」
「君たくましいなこの状況で。…しかしいいな。…あれか、女の子か。楽し気だし」
「うーん。女の子、っていう年かは微妙だね。今日は人妻だし」
「は?」
「やだなあ、パパ。こんな冗談に血相変えて」
「変えまくるわ!? は? おま、君…女癖あのオリジ、…いやあの男譲りか!?」
「え、逆にパパはないの、浮いた話?」
「今気持ちが沈みまくってそれどころじゃねぇよ!?」
「あー。ごめんごめん。そこまでショック受けられるなんて思わなかった。安心してよ。…今日はちゃんとただの年上の人だよ」
「今日はってなんだよ!」
「そんな大声出していーの? パパ」
「く」
 明るく、それでいて確信的なささやきに、弦本は短く息をのむ。
 苦し気な表情に、下津はやんわりと笑って、固まる青年へと伝票をそっと握らせた。

 下津君可愛かったなあ。小悪魔的で。将来悪魔になりそうで。PLは認知したいよ認知。ははははは。そんな方向に、大好きです。再現ムズかくて不安だけれども。
 まあキャラは延々、縁が続く限り言いますけどね「パパじゃない!」と…。ちなみに彼が隠し子にショック受けてたのは「鳴海さんの時:自分と同じ年の遺伝子上の息子という言葉の衝撃についていけない」「下津君の時:いや認知しろよ。一夜は愛した女だろ」という割とお堅い思考もありました。なによりも「何かしらんがひどく辛い」だけど!
 あの箱、アホほど楽しいセッションでしたね…またご一緒したいです、ぜひ!
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